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翔太/Fantastic Edition  作者: 抹茶あいす
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ヒア・ウィー・ゴー!

かつて無い程の揺らぎが桜西市を中心に西東京地区全域に生じていた。


もっとも人知の範疇を越えたものだから、最初にそれに気付いたのは犬や猫や蝙蝠達だった。



帝都電力西関東変電所はてんやわんやの大騒ぎだった。

日没と共に広範囲に渡り停電が発生したのだ。と同時に帝都電力本店にある中央給電指令室から事態の早期収拾を要請する矢の催促が始まった。


電力供給は本司令所の指令で運転しており、その運転出力指令値や運転モード信号の送信、出力値、発電電力量の記録などの送受信を一手に担っていた。

社内の最高部門である系統運用。すなわち本店中央(給電)司令室は技術系社員のエリート集団だ。


発電所や変電所に勤務する管理職もそれ相応に技術系のエキスパートではあるが、元は半官半民企業。お役所体質企業の御多分に洩れず上意下達が徹底されていた。軍隊や警察、消防と同じく厳しい上下関係に変わりはなかった。


「原因の特定はまだか」

「目下全力を尽くしております」

「舐めた事ほざいてんじゃねえぞ。何時間経ってると思ってんだ」

「ですから全力を」

「お前が全力で取り組んでるのは電話番かよ。こっちはもうマスコミが嗅ぎ付けてるんだぞ。配電を総出で当たらせろ。非番の連中も叩き起こして招集しろ。何のための保守作業員だ、給料泥棒らめが」

「は、はい」

「夜のニュース番組までには報告を寄越せ。原因不明なんて全国ネットで発表出来るか」

「おっしゃる通りです。最善を尽くし…」


ガチャリ!


相手が怒りもあらわに受話器を叩き付ける音が、周りに立っていた所員達にも聞こえた。

「…ます」


「くそ、偉そうに」

「どうなってる」

「いざとなったら隠ぺいする癖に」

「どうもこうもないですよ」

「おいおい」

「守秘義務だ」

「停電範囲が移動してるんです」

「隠ぺいだ」

「落雷か」

「何で移動するんだ」

「竜巻かな、F4くらいの」

「アライグマが電線をかじったという事例があります」

「おいおい」


「復電したかと思ったらまた停電。それも分単位です」

「システムエラーじゃないのか。本当に停電してるのか」

「家にメールしたらやはり停電でした」

「いつメールしたんだ」

「送電が逆流した形跡があります」

「馬鹿言え。電流というのはだな」

「いや、さっき」

「今さらかよ」

「もう帰りたい」

「職場放棄じゃねえか」

「冗談でしょう」

「テロの攻撃ではないでしょうか」

「宇宙人」

「おいおい」


「あ、息子からメールです。信号機が点いてないって。ちょーヤバイ。どうにかしろって」

「まだメールしてんのか」

「どうにかしろとは何だ」

「親に対して」

「そこかよ」

「おいおい」



鵜飼園生は赤色灯を回し、派手にサイレンを鳴らしながら爆走するコンボイ軍団を追尾中だった。

ホルスターから拳銃を抜き、両手離し運転で白バイを走行させていた。

握っている拳銃はマグナム44だ。規則違反も甚だしい。


装てんしている弾丸は完全被甲弾、通称フルメタルジャケット。貫通性が高くアメリカ海兵隊等が使用している弾丸だ。

鵜飼は前方を蛇行しながら暴走する海コントレーラーに照準を合わせた。


「レイコの仇だ。一発で仕留めてやるぜ」


鵜飼は引き金を引いた。


海コントレーラーが満載していた積荷は中国から輸入された大量の花火だった。

弾は鉄板を突き抜け花火に引火した。


轟音を響かせコンテナは爆発横転した。

積荷の花火が一斉に火を吹く。四方八方へ花火が炸裂した。

鵜飼は減速するどころかアクセル全開で燃え盛る炎をくぐり抜けた。


「ざまあみろってんだ」


もはやハリウッドのスタントマンも顔負けである。


鵜飼の頭の中では、少年の頃に聴いたロックンロールがガンガン鳴っていた。

もう誰にも鵜飼園生を止める事は出来なかった。


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