フェティッシュ夫婦
男はひざまづきベッドに腰掛けた女の足を撫でていた。
「そうよ。丁寧にやってね。疲れているの」
酔うとこの女はいつもそうだ。普段は正義感の強いスポーツ好きの女なのに。
アルコールが一定量を越えるとS嬢に変身してしまう。
千夏が良いと言うまで、夫は妻にマッサージを続けさせられる。
それでも望月克哉は妻千夏を愛せずにはいられなかった。
「くすぐったいわ。もっと力を入れて」
オーブンショルダーのブラウスに形の良い身体が透けて見える。
出掛け先から帰って来るなり抱きつかれ寝室に誘われた。克哉は先に夕食を済ませソファーでテレビを見ていた。
PTAと地区理事の集まりの後、カラオケ屋に行くとメールがあった。
いつもの如くしたたかに酒を飲んだのだろう。あまり酒には強くないのに、限度を越して飲んでしまう癖がある。
克哉に馬乗りになり向かい合った千夏の顔からは、案の定、ジンの香りがした。
薄手のブラウス越しに身体が火照っているのが克哉にはすぐにわかった。
ベッドに腰掛けた妻を克哉は満足げに見上げた。
クラッシュデニムから覗く形の良い膝に頬を載せて克哉は妻に甘えた。
「まだよ」
千夏は克哉に優しく口づけをした。
克哉はデニムの上から千夏の脚にキスの雨を降らせた。
二人はそうして服を着たまま、長い時間をかけてキスし合うのが好きだった。
結婚してからわかった事だが、二人にはフェチの傾向があった。
フェティッシュとは、元はフェティシズム(呪物崇拝)における対象物の事である。
呪力や霊剣があるとされる物をフェティッシュと呼ぶ。
これが近頃では意味が変化して、異性が身に付けている物、衣類や装身具、毛髪等に執着する嗜好の事をいうようになった。
◯◯フェチというのがそれだ。
克哉と千夏の二人にとっては、素肌を重ねて抱き合うより着衣越しに触れ合っている方がずっと燃え上がるのだ。
服の上から互いに愛し合う時間が永遠のように愛おしく感ぜられた。
やがて克哉はフローリングにパジャマを脱ぎ捨て、千夏に向き合った。
「愛しているよ。千夏。もういいだろう」
「いいわ。克哉、来て」
二人だけの儀式が静かにピークを迎えた。