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翔太/Fantastic Edition  作者: 抹茶あいす
11/48

女達のショータイム

日曜日の午後遅く。

『らうどねす』桜西店。

2時間待ちのピーク帯を過ぎ、さらに夕刻の訪れと共にちらほら空き室が目立ち始めていた頃、木寺優子は駐車場が見下ろせる小高い公園で、夕焼けに染まる空を見上げていた。



「やっと一息つけそうだな」

山岸吾郎は最後の汚れた食器の山を洗浄機に突っ込んだ。

「お前また今月もボーナストップだろ」

「はあ、疲れたあ」

翔太は厨房の非常扉を開けベランダに出た。

真っ赤な太陽が西の彼方に静かに沈んでゆくところだった。

「もうすぐ夏ですねえ」

「ああまったくだ」大学八年生の吾郎は内ポケットからタバコを取り出し火を点けた。

「クソ暑い夏がまた来やがる」



ペパーミントルームでは八人の主婦がぐでんぐでんになる一歩寸前だった。

「ああ酔っちゃったわあ~」

「まーだよお」

「ちょっとォ、どこいくのよォ」

「おしっこよォ~」

「ねえ誰か歌ってよ~」

「待って待って、吐きそう…」

「きゃあ~ だめよォ」

「ラーメン食べたくなぁい?」

「いらなーい」



ロッカールームに行き翔太はケータイの履歴を確認した。

やはり優子からのメッセージはない。

自動販売機でドリンクを買って非常階段を登った。

屋上に出るととっぷり日が暮れていた。

良い風が吹いていた。



「塚田さん、絵美子さん。しっかりして」

「うん大丈夫」

真樹子は心配そうに絵美子を見つめた。

「飲ませ過ぎちゃったわね」と保子。

「あなた、家大丈夫なの?」

「大丈夫よ。どうして?」

「いえ、何となくよ」

「うちは崩壊寸前よ。今に始まった事じゃないわ」保子は投げやりに呟いた。

「そんな事言わないでよ」

「仮面夫婦。ううん、仮面家族ね」

「子どもを悲しませちゃダメよ?」

「そうね。子どもを傷つけたら死んでも死に切れないわ。真樹子はどうしたいの」

「何をどうするって」

「前回は恋をしたいって言ってたじゃない」

「今もしたいわ。激しい恋。そんな経験がないから。あなたを見てると憧れちゃう時があるなあ」

「ろくでもないわよ。恋なんて真夏の夜の夢よ」

「うまくいってないの?」

「うまくいくわけないでしょう。わかってる癖に」


「真樹子、一つ聞いて良い?」保子は意地悪そうに尋ねた。

「何よ」

「島津さんと何かあった?」

「ないわ」

「そう。レストランの駐車場でね、あなたと島津さんが話すの後ろから見てて、何となくそう思ったの。こりゃ何かあったなって」

「ないわ。まだ何も」

「まだ?おかしいなぁ。私の勘て当たるんだけどなあ」保子はとぼけた。


真樹子は膝で眠る絵美子の髪を撫でた。

「この人、保子にちょっぴり似てる」

「そうね。私もそう思った。自信があって怖いもの知らずで、希望に溢れてて。でも影がある。ライバル出現ってとこね」

「ライバル?」

「あなたと同じ目をして見てたわよ。島津さんの事」

「ダメダメ。その手には引っ掛からないわよ」


「ふーん。ねえ真樹子。女は恋をして何処に行くと思う?」

「何処って、さあ。地獄かしら。一般的ね」

「フフ。何それ、当てつけ?何処にも行かないわ。何にも変わらないの。あなたは何か変えたいみたいだけど恋をしても何も変わらないわ」

「そうかしら。保子は変わったわ」

「そう?どんな風に。落ちぶれた感じ?」

「違うわよ。以前はこうして集まっても黙ってただ飲んで歌ってただけ。今日は感情的になってた」

「そうかな。前は男の事で夢中だったからね。今はいたってクール」保子はVサインをしてみせた。

「私何処に行くにしたって、このまま枯れたくないナ」

「枯れないわよ。女は男と違って。女は花よ」

「そうありたいわ。あなたみたいに生き生きしていたい」

「十年経ったらわかるわよ。真樹子」

「十年後の自分に会ってみたいわね」

「マジで?かなりショッキングよぉ~」

「そうね!あははは!」


「明日からまた主婦に戻らなくちゃ」

「そうね」

「こず恵の手、ほら。ガサガサなの。スタイル抜群なのに。朋美も舞も目の下クマ作っちゃって」

「皆んな仕事持ってるからね」

「ひとみはまた太っちゃった。千夏コーチは若いわね」

「一番先に寝ちゃったけどね。寝る子は育つよ」

「ハァ~ァ お金の事、子どもの事。ヤダヤダ」

「それに、彼氏の事も。保子は忙しいわね」

「そっちは別腹よ。真樹子、何か歌う?」

保子はマイクを真樹子に向けた。

「私はいいよ。歌って保子。除湿系のやつ!何だか蒸してきたわ」

「おーし!」

保子は曲を選んでステージに立った。


「皆んなを叩き起こして。そろそろ帰らなくちゃだから」

「OK!ラストショータイムよ!」


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