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一万年も寝て起きた、俺が本物勇者様?

 爆発が周りの全てを吹っ飛ばした。

 凄まじい閃光に、とても目を開けてはいられない。

 轟音が耳をつんざいた。

 しかし、俺はまだその爆発に巻き込まれずに地にしっかりと足をつけて立っていた。

 地響きに大きく体が揺れ、倒れそうになりながらもなんとか足を踏ん張って、そのまま剣を頭上に掲げていた。

 俺は倒れるわけにはいかなった。

 ——そう思った。

 たとえこのまま周りの結界が破れ、死ぬことになるとしても、せめて立ったまま、倒れることなくいようと俺は思ったのだった。

 それが俺を守るために命を張ったみんなへ俺ができるせめてものこと。

 矜持であると思った。

 恐ろしげな混沌の中、俺は立ち続け……。

 ——そして静寂。

 目を開く。

 周りには必死の形相で爆発から俺を守り切ったみんなが、振り返り、俺を目があうとにっこりと笑った。

 そして結界を解き、その先には竜騎士やワイバーンの倒れる海岸の光景。


 ——うぉおおおおおおおお!


 ときの声があがった。

 爆発に巻き込まれても、まだ動ける竜騎士や飛ぼうと羽ばたきかけたワイバーンなどもいたが、一気に攻め込んだ前線軍やアイアン騎士団に次々に掃討されていった。

 二、三体のワイバーンが空に飛び立ったのが見えたが、それも、この時まで温存されていたハルカンディア軍のワイバーン二十体が飛び立って、あっという間に地上へ落とすことに成功していた。そうして落ちたワイバーンはたちまち地上の軍に取り押さえられ……。

 作戦は——その出来栄えは完璧だった。

 いや、完璧以上と言えた。

 俺の計画とは違って——勇者が残って立っている。

 生き残った敵兵の心を折るにはそれで十分だった。

 二度までも聖剣により殲滅攻撃を受けた勇者に立ち向かう闘志は、さすがの勇猛果敢なドラコア軍でももはや湧き出ないようであった。

 その意味で、俺はやはり生きて、勇壮な様子でここに立っていないといけないのだった。 俺がいることが。——「勇者」が仲間を鼓舞しているのだった。

「あんたは、ここでこうやっていないといけないのさ。なんたって『勇者』なんだから」

 ブレイヴの言葉に、バローもハナも他の騎士や魔導士も首肯した。

 みんなボロボロで疲れ果てた様子ながら、目は輝き、希望に満ちていた。

 その目が、皆、俺に向けられていて——俺は理解した。

 勇者は「そこ」にいた。

 俺が「それ」であったかはわからない。

 でも勇者は希望を与え人々はそれを求め見た。

 ならば、

「お前は『それ』になったのさ勇者様」

 俺は、その言葉の意味をかみしめながら、首肯して、そして沖のドラコアの母船を見た。

 そこからはもう新たなワイバーンが飛び立つことはなかった。まだ相手が竜騎士部隊を温存していたならば? と少し不安だったのだが、英雄を確実に葬り去ろうと、その全てを彼らは投入したらしかった。

 海上には数体の敵ワイバーンが飛んではいたが、そのくらいであればなんの問題もなかった。それらはすでに、ハルカンディアの竜騎士部隊によって牽制、すぐにでも制圧されそうな様子だった。

 制空権は完全にこちら側が取っていた。海を移動して母船への攻撃を始めるのになんの障害もない。ハルカンディア軍は一斉に船を出し母船への攻撃に移動した。

 敵の母船を破壊し、相手が再び橋頭堡を築けないような打撃を与える。それが今回の作戦の最終目標であった。であれば、その仕上げをしくじるわけにはいかなった。

「それでは我々も行きますかな」

 バローの言葉に俺は首肯した。

 ボロボロで疲れ張てた俺たち。

 しかし、ここで止まるわけにはいかなかった。

 こうなったら、もう少しだけ——俺は「勇者」でなければならなかった。

 俺は走り出し、みんなもそれに続いた。

 ハルカンディア軍も俺の姿を見て歓声をあげた。

 俺は、みんなの希望を受け、みんなに希望を返している。

 俺は今勇者だった。

 偽物だとか、本物だとか今は関係ない。

 俺はそうあるべきにそうあった。

 希望を受け、希望となった。

 そして、その希望は未来へ繋がる。


 ——そのはずだったのだが……。


   *


「なんだあれは!」


 俺らが乗り込み制圧しようとしていたその母船は、不気味に震えると、その姿をゆっくりと変え始めていた。

 船のシルットはありえないほどに伸び、盛り上がる。

 あっというまにそれは海上にそびえ立つ。

 俺たちは、歓声を止め呆然とそれを見つめる。

 それはは巨大な竜であった。

 母船が変わった。いや我々が船と思っていたもの——それは巨大な竜なのであった。

 巨大な竜は沖からこちらに向かって移動しながら、こちらを睨んだ。

 咆哮が聞こえた。

 勇猛果敢に海に漕ぎ出そうとしてたハルカンディア軍の動きは止まった。

 軍はさすがにまだ逃げ出す者はいなかったが、皆立ち止り、迫り来る絶望——巨大な竜を呆然と見つめていた。

 圧倒的な敵の姿であった。山のような大きさの竜がこちらに向かって進んで来るのだった。彼にくらべ我らの卑小——何か抗う手段があるとはとても思えないような差があった。

 我々はなすすべもなく倒される——そうとしか思えないような怪物が、だんだんと我々に近づいてくるのだった。あの竜を倒すなどもってのほか、ここは——この海岸の確保は諦めて早々に軍を退いて、損害を少なくした方が良い。そう思わざる得ない状況であった。

 しかし……。


 俺は剣を構え、一歩前に出た。

「勇者様……」

 そんな俺を見てハナがびっくりしたような声で言った。

 ブレイヴも、バローも無言で、同じように驚いた顔で俺を見つめた。

「俺はあいつを倒したい」

 俺はそうつぶやいた。

 でも、何か手段があるわけではない。

 大賢者ウィズのアエギスは海の上には設置されていないし、海岸にあったものもさっきまでの戦いで全て使いきってしまった。

 ならば、本物の勇者ではない俺が振るう聖剣、それはただの鉄の塊にすぎない。

 でも俺は——守りたい。

 みんなを、あの竜から……。

 そう思い、剣を俺が強く握れば、

「勇者……」

 それはほのかに光る。

 それはほんのわずかな光だった。

 見逃してしまいそうなほど——俺というちっぽけな存在を精一杯に燃やしてもその程度の力しかない。そんな残酷な事実を照らし出す極々弱い光であった。

 しかし、その光はこの昼に現れた闇——絶望を照らす小さな希望であった。

「お前は、本物だよ……」

 その明かりは、希望はあらたな希望をうむ。

「あの敵を見て、引かぬばかりか、進むこと……それが蛮勇でなければ、確かに勇者ですな」

 俺は正直、怖くて、足がブルブルと震え、ほとんど立っていられないような状況だった。でもおれは——それでも俺は前に出た。

 それを見て満足そうに頷くバロー。

 ならば——新たな希望がもう少しだけ強く、俺の剣を光らせれば、それはさらに希望を呼ぶ。

「私を負かしたあなた様が偽物なわけないじゃないですか。もし、偽物でも今のあなた様は本物以上の偽物ですよ」

 俺の剣はまた少し光った。


「勇者さまあああああああ!」


 なんだか俺を呼ぶ声に、振り返れば、軍の最後尾、こんな最前線にライラが——横にはジュエルとアップル、リリィも……。

「私は、信じています。あなたは、間違いなく勇者です」

「そうじゃな。我らは見つけたんだものな——なのじゃ。希望を——なのじゃ」

 俺は、顔を戻し、ゆっくりと迫ってくる巨大な竜を睨む。 

 後ろから感じる視線、それは信頼し、希望を託された、みんなの気持ちがビンビンと伝わって来て……。

 俺は首肯した。

 剣はますます光る。

 あの神殿で一つ目の巨人を倒した時と同じか——それ以上に。

 希望——。

 俺は心の中でつぶやいた。

 それがどんどんと俺に流れ込んできているのを感じた。

 みんなの希望が、心が、一つになって俺に集まってくる。

 勇者——。

 俺は思った。

 もしかして、それが勇者なのではないか?

 希望を集め、それが……。

 勇者——。

 いや、希望こそが——勇者。

 俺はみんなの希望がどんどんと剣に流れ込んでいくのを感じた。

 剣は光る。これ以上はないほどに輝く。

 希望がそこにあつまり溜まっていくのを感じる。

 そして、それが最高潮に達した時、


「全き希望のグラディウス・オムニ・スペム!」


 俺はその剣を振るうのであった。


 すると……。


 光——希望——は天をも切り裂かんばかりに空に伸びると、そこから一直線に竜に向かっておりていく。

 俺は、対抗して炎を吹き出した竜に向かい、周囲の空に稲妻を発生させながら、それを振り下ろすのだった。

 希望——と絶望の戦い。

 俺の剣——希望——は竜の炎——絶望——に押し返される。

 しかし、俺は手にまた力を込め、その剣をぜったいに話さない。

 なぜなら、


 ——勇者!

 ——勇者!

 ——勇者!

 ——勇者!

 ——勇者!


 俺は無数の声援を——希望をその背に受けているのだった。

 それをますます感じながらさらに振り下ろす希望は——少しづつ絶望に打ち勝って……。


「うぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 俺の剣はついに巨竜を切り裂くのだった。


   *



 竜が切り裂かれたはずの海上には、切り裂かれた巨大な竜が燃え上がり、消えつつあった。

 それを見て、緊張の糸が切れ、疲れ果てた俺は、その場でそのまま倒れてしまいそうになるのだが……、


「勇者様、今はこの歓声に答えないとカッコ悪いぜ」


 そう言いながら俺を支えてくれたのはブレイヴ。

 俺は首肯しながら、奴の肩をかりてなんとか立ち続ける。

 振り返ると、そこには大歓声をあげながら俺に向かってくる今日一緒に戦った騎士たち。

 それを見て、

「まったく、あんたは、やっぱり本物の勇者だな」

 ブレイヴが言う。 

 しかし、

「違うよ……」

 俺は、

「これが勇者だ」

 大歓声をあげるみんなの姿を指差しながら言うのであった。

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