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一万年も寝て起きた、俺の正体あいつにバレる?

 俺が敵を壊滅させたあと、アスヒ公はすぐに制圧の指示を出した。この期に、敵の一掃された海岸を超えて戦線を前に移動させる。そこに新たな柵を築いて、ハルカンディアは久々の反攻を成功さえることになったのだった。

 これで、敵の橋頭堡のほぼ三分の一を取り戻したことになる。

 まあ、大勝利と言ってよかった。

 毎回、敵に攻め込まれるたびに多くの犠牲者をだしながらジリジリと押し込まれるだけだったハルカンディア軍が、敵の上陸を許して以来で最大の勝利を得たのだった。

 だから——。

 最前線から山の中腹の陣地に戻った俺は、騎士たちから熱烈な歓迎を受けた。

 あちこちから勇者を讃える声が聞こえた。

 それに手を振りながら、俺はできる限り笑顔でこたえた。

 今日の戦勝に陣の雰囲気は一変した。

 陽気に、剛気な気分が砦の中を満たしていた。

 ——もう勝利は確定したような事を口走る騎士も多数いた。

 しかし、そんな少し浮かれた様子ともいえる陣中であったが、アスヒ公やバローなどはさすが冷静に事態を分析していた。

 勇猛果敢なドラコア軍であれば、このくらいの被害で逃げ帰ることはなく、むしろ失った陣地を取り戻すために、残りの総戦力を投入して決戦を仕掛けてくるだろう。と、二人ともそう事を考えていた。

 そして、ならば、今勢いづくこちらが、向こうが戦力を回復させる前に攻め込んだ方が良い。

 「英雄」である俺の力が使えるのなら、その攻勢も可能なのではないか? 

 そのように考えるのだった。 

 でも、

「勇者様のあの力は……」

 そのためには、俺の力はどんなものなのかの確定がいるだろう。

 だから、俺は、アスヒ公の質問に答える。

「同じ力をつかって残る敵の陣地を吹き飛ばすことはできます」

 すると、

「なるほど……」

 一応は満足そうな表情で首肯するアスヒ公。

 しかし、その目は、少し物足りなさそう——それだけではダメだと語っているようだった。

 ——実は俺も同意見だ。

「……でも、それだけでは、またすぐにこちらの隙を突かれ橋頭堡を築かれてしまうのでしょう? 戦局を完全に覆すには……沖にいる奴らの母船。あれを破壊する必要があるでしょう……」

 また首肯する公。

 そして、

「確かに。この後にまた一進一退を続けぬためには、ワイバーンのほとんどが潜む沖の母船を破壊する必要がありますな。でもそのためには、手薄なこちらの竜騎士の編隊でも制空権が取れるよう、ドラコアの竜騎士達をおびき出して殲滅しておく必要がありますが……だがそれができますかな?」

 やはり、陣地の破壊だけでは戦局の根本的打開にはならないと——公と同じ考えのバローが言う。

「なら——」

 俺は自分の考えた作戦を披露する。

 それは、勇者である俺に竜を集め狙わせるというものだった。

 相手に気づかせるのだった。

 この俺が——勇者が——現れたと。

 この勇者を倒さないとお前らが倒されると。

 総力を結集して俺を倒さないと自分達が倒されるのだと。

 俺は、みんなに、俺の作戦を語った。

 俺を潰そうとやって来るワイバーンが集まったところを聖剣の力により一気に叩く——と。

 勇者ではない俺には、実はそんなことはできるわけもないのだが、俺はハッタリをはった。

 俺には勇者の力はない。でも別の——企みがあったのだった。

 俺は、その本当の企みを隠しながら、嘘の戦略を、アスヒ公以下の前線の軍の幹部、ジュエル騎士団のバロー、ブレイヴなどに言い……。

 ——軍議の結果、反攻作戦は明後日の早朝と決まった。

 付近に散らばる招集可能な軍を集め、一気に敵の橋頭堡を崩し、そのまま母船まではしけで乗り込んで潰すと言う作戦であった。

 そうすれば——ドラコアと戦っている世界の同盟各国に送り込んだ調査員からの報告によれば——世界中で戦っているあの竜の国は、今この国にまた新たな母船を送り込めるのは相当先になるのではないかとの予想であった。

 そして、次の攻撃までの時間が稼げればその間にハルカンディア軍を立て直す。各騎士団の再編成や、竜騎士の育成。それでこの国はだいぶ防御を固めることができる。今後の戦局を考えるのならば、母船の奪取、もしくは沈没は必須の作戦であったのだった。

 それを——ドラコア母船の殲滅を確実とするために——内陸の軍や、ハルカンディア海側の軍まで招集してさらなる大群で攻めることも検討された。

 だが、結局その案は採用されなかった。遠方からの招集には時間がかかりすぎ、今日の失地を回復すべく向こうが先に攻めてくることも考えられたし、それにあまりに大群で攻めて向こうが守りを固めて、「誘い」に乗らなくてもまずい——。

 そんないろいろな要素を取捨選択して考えた結果、反攻軍の編成は、王都よりジュエル騎士団他の明日に駆けつけ可能な騎士団の招集のみとし、そのまま明後日の朝には攻撃を開始するのが最適。と俺たちは判断したのだった。


   *

 

 そして議が終わり——陣内は今朝訪れた時の重苦しい雰囲気とは打って変わり、明るさに満ちた感じとなった。反攻に向けての決定的な打ち手のないままに閉塞感に囚われていたこの戦いに、勝利の希望が生まれたのだった。

 陣の騎士たちははまずはこの希望に、その可能性に大いに心が救われたようだった。そして、夕方、今日はとばかりに振る舞われた酒に、まずは今日の勝利に、そして明後日の戦いの勝利を祈念して杯をあげるのであった。

 それは王都での俺の歓迎の式典ように盛大ではなかったが、ささやかながらも皆の思いが強くまとまる、良い会となったのだった。

 ジュエルは演説でまた言葉の意味を間違え(「みなさんも浮き足立っていると思いますが」と「浮き足立つ」を歓喜していると勘違いしていた)て、ライラに突っ込まれたりをしているうちにやっぱり漫才になってしまったりの和む展開のほか、バローとブレイヴによる、明後日は共に戦うジュエル騎士団を代表しての檄の言葉に、前線軍も意気を新たに叫ぶなどの戦場らしい一幕もあったりした。

 しかし、やはり騎士達が一番盛り上がったのは、今回この最前線を守る軍を出しているガルツ公国の姫リリィの激励の挨拶であった。

 故国の公女が、姫としての建前、飾りを剥ぎ取って、真摯に皆を心配し涙を浮かべながら行う挨拶に、騎士たちは静かにしかし強い闘志を心の中に溜めていくのだった。

 その強く密な思い——心は——強く誰にも崩せないものに思えた。

 俺はその様子を見て確信した。

 ——この人たちとならなんとかできる。いや、なんとかしてみせる。

 そう思い俺もまた杯をあげるのだった。



 そして、会は進み、みんな少しくだけた感じで人が入り乱れて談笑となる。

 さすがに泥酔しているものはいなかったが、戦場での一時の休息を皆この時ばかりはと楽しんでいたのだった。

 明後日の大攻勢に向けてここで一度休むことで戦う力を養う。それは間違ったことではなかったのだが、もしかしたらそこに少しの気の緩みがあったかもしれない。

 もちろん戦場であるので、こんな祝杯の場でもある一定の緊張感は保たれているし、それが油断していたとまで言うのは連戦に疲れた騎士達に過酷というものであるが……。

 それは——そんな一瞬の隙をついてあわられたのだった。


「曲者!」


 ほろ酔い気分を断ち切るような鋭い声があがる。

 そして——それはいきなり俺の横の騎士を突き飛ばすとその後ろから腕を突き出す。

 リザードマンであった。

 ドラコアよりの刺客。

 いつの間にか宴の中に紛れ込み、俺の横まで来たところで奇襲をする。

 俺は、その直前まで赤ら顔の騎士であった男が一瞬で蜥蜴に変わる瞬間を見ても、何もできずにその場に止まる。

 突き飛ばされた男がおれに向かって倒れて来ると、それを避けようと反射的に横に動いてしまうが、それが奴の狙いであった。

 俺が動いたその場所に向かってちょうど奴は長い手を伸ばし、その先の鋭い爪が俺の喉元を狙う。


「はぁああ!」


 そこに気合一閃きりかかったのはブレイヴであった。

 彼はリザードマンの爪が俺に届く寸前にその手に向かって剣を振り下ろす。

 すると、次の瞬間、俺の喉笛を掻き切るはずだった爪もろともその腕は切り離されて俺の顔の横を霞むように後ろに飛ぶ。

 しかしそれで諦める刺客ではなかった。リザードマンは、切られた腕のことなどまるで気にせずに反対の腕に握った短剣を俺の胸に向かって突き出して——!


 カンっ!


 乾いた金属音がしてリザードマンの刃を俺の剣が薙ぎはらった。

 体が勝手に動く——自動勇者ヒーロー・オートマタであった。

 本物の伝説の勇者ジェイドの剣技をコピーした霊力回路が俺の中にあり、それにより俺はジェイドのコピー剣士となるのだった。

 眠っている間にいつの間にかジェイドに行われていたその処置によって、俺は彼と同じ剣技を振ることができるようになっていたのだった。

 俺の意思とは関係なく体が自動で剣を振るう。

 短刀を薙ぎはらった俺は、そのまま剣を滑らせるようにリザードマンの心臓に向かって突きを放つ。

 が——剣は少しだけ届かない。

 奴は俺の剣を掠るか掠らないかぐらいのギリギリで避けると、体を屈ませて俺の腹を狙って、下から短刀を切り上げる。

 恐るべき敵であった。コピーとはいえ、ジェイドの剣技をことごとくかわす。

 相当の手練れであった。

 正直、俺自身はまるで反応も出来ず、その短刀が俺に向かってくるのを見つめるだけであったが——自動勇者はまた勝手に俺を動かす。

 俺は、その刃が届く前に、その鱗だらけの顔に向かって剣を振り下ろす!

 それは絶妙のタイミングで蜥蜴の顔を切り裂くはずであった。


「キィー!」


 しかし、その剣は空を切る。

 俺の腹を狙ったかに見えた、切り込みはフェイントであったのだった。

 リザードマンは剣を避けながら、軟体動物のように不気味に体をくねらせるとそのまま横に回転。何度かバク転を繰り返し、大きく後方に飛び……


「しまった!」


 リザードマンは戦いから離れ、事態を見守っていた、ジュエル、ライラ——そしてアップル!

 

「えっ!」


 虚をつかれた三人のうち、アップルが棒立ちの状態のまま、リザードマンに後ろに回られて捉えられる。

 尻尾で巻きつかれ、体の動きを封じられた上、短剣をその首筋に当てられたのだった。


「むっ!」


 その一瞬の出来事に素早く反応したのはアスヒ公であった。

 いち早く、囚われのアップルとジュエル、ライラの間に割って入り、自分の娘に向かって剣を構えるのだった。

「アップル……分かってるな」

「はい、お父様。この賊は敵の元に帰してはいけません。私のことは無視をして、この賊をお斬りください」

「うむ……」 

 アスヒ公は、最愛の娘に向かって剣を構え前に出る。

 リザードマンは金属音のような声を立てながらそれに合わせて少し後ろに下がる。

 だが、

「人質などという卑怯な手が武人に通用すると思うなよ」

 公は、少しの迷いもなく剣を構えまた一歩前にでる、

「いけない!」

 俺はそう叫ぶと公の後ろに駆け寄る。

「勇者様、賊の狙いはあなた様でございます。ここは下がってください」

「でも、あなたが実の娘を切るなんて……そんなことは」

「いえ……私も、なにもアップルを切るなどと考えているわけではございません。私が切るのは賊でございます」

 でもそのためにアップルは公の剣に巻き込まれ斬られてしまうかもしれない。

 そんなことはとても認めることは……。

 俺はそう思って彼を止めようと、公の前に出た。

 すると、

「キィー!」

「待って……えっ……」

 その瞬間、リザードマンは瞳に野獣が獲物を追い詰めた時のような満足げで残虐な表情を顔に浮かべると、とても人一人を抱えているとは思えない跳躍力で俺に向かって跳んだのだった。そして、そのまま、俺に向かって、アップルを投げ出すと、その後ろから、背中を切り裂こうと彼女の後ろで短刀を振り下ろすのだった。

 それを呆然と見つめる俺のことなど無視をして、俺の自動勇者はまた勝手に動き出していた。

 だが、それはアップル公女を救おうとする行動ではない。ジェイドならすることを、彼が乗り移った俺の体はしようとしていた。アップルが切り裂かれ、血だらけで床に落ちたその瞬間、後ろの敵を電光石火の剣で斬ろうと、俺は足を止め、剣を振る力を腕に込めながらそのタイミングを待っていたのだった。

 しかし、

「できるか!」


 俺には、それができなかった。

 俺は、自動勇者の枷から外れ、叫びながら一歩踏み出して、跳び、アップルの体とリザードマンの間に入り込み、その振り下ろす短刀に向かって剣を突き出すのだった。

 しかし。その剣は軽くかわされる。

 リザードマンの短剣は、いつのまにか喉元近くにすでにあり……。


「キィエエエー」


 ——倒れたのはリザードマンだった。

 混戦の中にうまく入り込み、俺に向けて剣を振るう一瞬の隙を捉え、敵を切り裂いた——ブレイヴであった。

「ご無事か!」

 そのまま——今更——敵の剣をかわすかのように後ろに下がる俺はバランスを崩しそうになるところ、後ろから支えてくれたのはアスヒ公だった。

 そして、集まった騎士達が、騒然となって、俺とジュエル、ライラ、アップルを囲みながら他に敵がいないかと部屋の中を、外を警戒する。

 ——だが、それは杞憂のようであった。

 忍び込んだ賊はリザードマン一人だけ。陣地とその周辺をくまなく捜索して、見つかったのはリザードマンが化けていた、歩哨で陣の外に出ていた騎士の死体が一体。そして——リザードマンは魔法による変身により忍び込んでいたものだったようだが——同じ手を使われていないかとガルツ軍所属の魔導士が人も物もくまなくあらためたが特に問題は無しとなる。

 それでやっと安全を確かめて、——それはすでに真夜中を回るような時間になっていたのであった。


「このアスヒ一生の不覚でございました」


 騒ぎにやっと収集がついて、今夜の見張り番の他は休息に入ろうと言う前に、陣の中央で炊かれた篝火に照らされた公が言う。

 公は深く反省し、また悔やんでいるようだった。

 普段ならば歴戦の公の部隊は、変身の魔法の処された敵の侵入などけっして許しはしなかっただろう。結局、いくら外見を取り繕ったにしても、その内側からでてくる違和感を、歴戦の戦士たちが見逃したりするはずがない。

 しかし、その異常に、異常な高揚状態であった皆は気づくことができなかったのだ。久々の戦勝にわく、異常な状態であればこそ、異常に気づくことができなかったのだった。

 ——しかし、それは、侵入を許してもしょうがないという理由にはならない。

 あやうく、勇者というこの後の作戦における最大のキーマンを失ってしまいかねない状態に陥ってしまったのだから。

 それを責任者である公は反省し、

「この罪はこの後の戦いで償います」

 俺は首肯した。

 起きてしまったことの分析と再発の防止は必要だが今はその責を公に問う場面ではない。

 公はこの後、重要な作戦の総指揮をとってもらわねばならないのだ。公以外にそれができるものはいないのだった。ならば、今、彼を罪に問い解任するなどは愚の骨頂。公にはこの後の戦いでこそ、失敗を償うのが求められていることなのであった。

 それに、——侵入を許したのは皆の失敗と誰もが思っていた。

 この陣の責任者がアスヒ公だったにしても、公だけが賊の侵入を見逃していたのではない。誰もが、戦勝ムードに、気づくべき異変を小さいものとして見逃してしまっていたのだった。誰もが自らの罪と、その償いを次の戦いで果たすべく、闘志の再確認を行っていた。

 そう思えば——結果的に犠牲者は最小限に抑えられたのなら、今夜の敵襲は、正直少し浮かれて慢心があった心に浴びせられた冷水——なまくらになりかけた我々を鋼へと強く鍛えた役割を果たしたといえるのかもしれない。

 だからと言って、起きて良かったとはならないが——今の現状から我々は戦いに向かって進まねばならないし、そのための心のあり方は一つだけ。もう疑問の余地はないのであった。

「あとは戦いのことだけを考えましょう」

 公の言葉に俺はまた深く首肯するのだった。

 すると、

「ただ、それにしても……」

 公は、話変わって、と言った様子で言葉を続ける。

「勇者様には大きな借りができた」

「……?」

「アップルを助けていただいた」

「いえ……」

「アップル共々、このご恩は御身に一生を変えても返すつもりです。この後も私にできることならば何でも申し付け下さい。何、この田舎貴族の娘を正妃になどと大それたことを言う気はありませぬが、こうなっては、あれはもう勇者様しか目に入りますまい……できればどんな形でも良いので、あなた様のそばにおいてはもらえませぬか」

「それは……」

 アスヒ公は、俺の言葉を遮るように、答えは今でなくても、とか言いながら、一礼をするとその場からいなくなるのであった。

「アップル……」

 俺は闇に消える公の後ろ姿を見ながら思った。

 俺がやったこと。彼女が殺されると思った瞬間、思わずリザードマンとの間に入り込んでしまっていたこと。

 それは、深く考えずに、衝動のまま動いてしまったことであった。それはその瞬間はそうするしかないと思ったし、その判断が人として間違っていたとは思えない。

 しかし、それは、俺の今の「勇者」としての大任を考えれば迂闊な行動ではあったし、結果として、アップルの人生を俺に強く結びつけてしまうようなことになってしまったのだった。

 こんな偽物の俺に、彼女の人生が縛り付けられるのだった。

 俺が「消えた」後も。

 それは——俺がしたことは……

「勇者殿は少しお優しすぎるようですね……」

 自分の立場の重大さに今更ながら気づき、後悔とも少し違う、自分への戒めの念を思っていた俺に声をかけたのは、

「ブレイヴ……」

「勇者殿、少し時間を頂いても良いだろうか?」


   *


 俺とブレイヴは陣の中にある剣の練習場に入った。

「戦いの前に是非名高き勇者殿とお手合わせ願いたい。我が身がどうなるともわからぬ戦いの前に、ぜひ伝説の勇者と剣をかわさせていただければと——お願いいたす」

 俺は無言で首肯して剣を構えた。

 ブレイヴの雰囲気、単に剣を交えたいと言う以上何か思うところがありそうだったが、……何それならば「かえって」都合が良い。

 俺はそう思うのだった。


「とぅあ!」

 

 一気に間合いを詰め模擬刀を鋭く打ち込んでくるブレイヴ。

 それは式典で戦ったハナ・ミズキの剣技には勝るとも劣らない素早さ。

 それに男の筋力が勝る分だけ、より強力な剣であったが、

「……さすがやりますね」

 俺の自動勇者ヒーロー・オートマタが発動。その剣をいなすと、逆に彼の面を狙う。

 しかし、ブレイヴは間一髪それを交わし、つばぜり合いになりながら言う。

 その後、離れ際に、フェイントを交えながら胴狙いに斜めに切り下された剣を、おれはなんなく受けると、そのまま三連の突き。それを危うく防いだブレイヴはよろめきながらも俺の剣に自分の剣を絡めて再びつばぜり合いへと持ち込む。 

「まこと、伝説の勇者の名にふさわしき剣の技です。当代、剣の技ならば誰にも負けぬつもりの私でも、あなたに技でさえ勝てるかどうか……しかし」

 ブレイヴが消えた。

 いやすごい勢いでかがみ、俺の足にタックルを仕掛けてきたのだった。俺は腰を引きそれをかわそうとするが、さらに横に滑り込みながら俺の足をつかもうとする彼の手からさらに逃れる。

 いきなりのブレイヴお変則的な攻撃にあっけにとられたが、俺の中の自動勇者は冷静にその攻撃に対処したのだった。

 しかし、俺が打ちおろす剣から転がり逃げる時に一瞬目があったブレイヴは、俺のそのあっけにとられた様子をしっかりと見つめていた。俺がなすすべもなく呆然とした様子を彼はしっかりと見ていたのだった。

 俺が、俺の力でこの剣技をふるっているのではない。そう気付いたのかもしれなかった。

 だからこそブレイブはこう言ったのだろう。

「勇者殿……あなたは本当に勇者どのですかな……」

 とは言え、そのままブレイヴは攻撃を止めることなく、雷撃のように剣を振るう。

 俺も、それを全て防ぎきった。いや、むしろカウンターで打つ剣は相手を追い詰めていたとさえいえるだろう。

 だが、

「一万年の眠りの後ですから……勇者殿が万全の体調とは思いませんが……随分とお疲れのようですね」

 ブレイヴの猛攻を防ぎきった俺は息が上がる。俺は体力の限界を迎えていたのだった。いくら自動勇者が俺の体を動かそうとしても、俺の体の限界がくればどうしようもない。俺の腕は上がらず、ブレイヴの剣を防ぐこともできないだろう。

 そんな俺を見るブレイヴの目は明らかにもう俺の正体がわかっている者の目であった。

 だから、

「それに——こんな手にもかかるご様子だ」

 俺は、それに引っかかった。

「えっ……」

 俺はブレイヴが懐から、何か取り出しておれにひょいと投げるのを見た。

 ——? それは子猫だった。

 可愛らしくびっくりしたようにゴロゴロと鳴く。

 おれは思わず手を伸ばしその猫を受け取ろうとした。

 俺の中の自動勇者はその猫は無視をして剣をかまえようとしていた。

 しかし、俺はそのよわよわしものが宙へ投げ出されたそのままでよしとはできなかった、

 だから、

「ニャー!」

 俺が子猫を受け取ったその瞬間。

「勇者殿。心やさしきは良いことですが——本物の勇者が仮にも戦いの最中に猫などに気を取られますかな?」

 ブレイヴの剣を喉笛に突きつけられながら、これ以上この男に俺の正体を隠すことは無駄と悟った俺は、

「……お前が思っているように、俺は本物の伝説の勇者じゃない。でもだからこそ、俺は、俺の役目を果たすため……」

 彼に俺の計画——企み——を話し始めるのだった。

 もともと、明後日には、ブレイヴか誰かに俺の共犯者となってもらう必要があったのだった。

 ——むしろ今の状況は、俺にとって願ったりかなったりの状況と言えた。

 その「共犯者」が勝手に向こうから名乗り出てくれたのだった。

 俺の笑顔に、ブレイヴが当惑するのにも構わずに——俺は俺の「企み」を話す——。



   *



 偽勇者が先に出て行った夜の練習場には、残されたブレイヴが一人、憂鬱な表情で立っていた。

「あんなことを企んでいるとは……」

 それは聞いてしまったら断ることのできないが、気乗りしない願いを頼まれてしまった者の複雑な思いの感じられる難しげな顔であった。

「どちらにしても、聞いてしまったからには、やらぬわけにはいかないのだろうが——幸いにも聞いたのは一人だけではない? そうですねバロー卿」

「ふん、やはり気づいておったか」

 練習場の物置の部屋のドアを開けて出てきたのは、ジュエル騎士団のバロー。

「あなたも全て聞いたのでしょう。この後は、あの勇者と間違われてしまった不幸な男の最期を看取る罪深き役目はあなたも共犯となると言うことになりますね」

「この古兵——そんな罪の一つや二ついまさらいささかもビビらぬが、ブレイヴよ、お主、あの男が勇者ではなく、偽物と申すのか?」

「何を? あなたも聞いていたのでしょう? あの男が語るのを。一万年の眠りにつくうちに勇者と間違われていたこと。その剣の発動の秘密。そして今日の海岸での敵を殲滅した秘密……」

「ふふ、ブレイヴよ。そなた、やはりまだ若いな」

「……?」

「あの方はまことに勇者様だよ」

「はて? 卿は何を言って——」

 からかわれているのかと疑い少し厳しい目つきになるブレイヴ。

 しかしその目にはふざけたところはないバローは、ごくごく真面目に、

「勇者は在るものでなく——なるものだから……あの者は我らの勇者様なのだ」

 と言うのだった。

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