一万年も寝て起きた、俺がこの時知らない話?
ドラコアを撃退し、大歓声にわくハルカンディア軍の後方、そこに妙におちついた様子の騎士が二人いた。
一応周りに合わせて喜んだふりをして手をあげていたりするが、——甲冑の隙間から覗くその目は、極めて冷静にこの戦闘の結果を、勇者を眺めているのだった。
「なんとも——奴はやりおったな。お前さんの言うことが正しかったようだ。本物の勇者はやはり『あいつ』のほうのようだ」
「ふん。随分と長くかかってしまったがな。——待ちくたびれたよ。俺みたいな天に選ばれただけの偽物でなくて、本物の勇者それがこの地上に現れるまで……」
「一万年か。確かに長かったな。でもついにそれは現れた。ならば……」
「お主の希望も叶うということだな」
首肯する片方の騎士。
「ああ、本物の勇者に偽物が勝てるのか? それを試すのが俺の一万年の悲願であり……」
「儂の生涯の研究でもあるな」
「だが……」
「そうだな、ひとまずはあいつの成長を見守ることとするか。本物の勇者とはいえまだひよっこ。お前も、今の奴と戦うのもばからしかろう」
「ああ……」
——その通りだと首肯して、兜を脱ぐ騎士。
一万年を待ったと嘯くその男は、二十代後半くらいにしか見えない。
若々しく精悍で今が盛りの騎士ざかり、そんな男のようである。
しかし、もし、今騎士たちに胴上げをされている勇者は、彼を見ていたならなこう言うのだろう。
「ジェイド? なんで君が今ここに?」
そう、不敵な笑みを浮かべながら勇者を見るその男は、一万年前に魔王を倒した「本物」の勇者——ジェイドであったのだった。