やさぐれ令嬢 幸せな時間
やさぐれ令嬢シリーズ、最終話
ごゆっくりお楽しみください。
……四年だよ、四年。 此処まで来るのに四年だよ!!
そんで、今年、二十一歳だよ!! もう、誰も嫁に貰ってくれないよ!!
生まれは、グスターボ。 クリストバーグ侯爵令嬢として、生まれたんだよ。 お母様は六歳の時にお空に旅立った。 お母様が居なくなる前年の春、五歳の頃に、何でか知らんかったけど、グスターボの聖王太子と婚約してね……
良かったね、って頭を撫でてくれたお母様……一言、言わせてね。
” 良い事 ” なんて、一つも無かったよ!!!
十八歳までの十三年間、後宮に御妃教育って名目で、何度も何度も何度も何度も呼び出されて、あの意地悪御妃様に、苛め抜かれたよ。 それは、もう、陰湿に、徹底的にね。 お母様が居なくなってから、クリストバーグ侯爵家に入って来た新しい御義母様も、同じように、それはそれは、陰湿にいじめて下さたので、こんな性格になってもうたんだ。
人格二重構造だよ。 全く!!!
微笑みの面をかぶってさ、その下で目釣り上げて、必死に出来ない事を出来るようにしてさっ!努力しました!って顔をすると、もっとイジメられるから、”出来ますけど、それが何か?”で、相手を ”ぐぬぬ”って、させるくらいしか、ストレス発散できんかったんじゃん!
其れをあの 聖王太子ジュリアス=グスターボ殿下が、スゲー嫌ってね。 ”愛らしさが無い”、”いつも、ツンと取り澄ましている” だってよ。 耳も良くなったから、お前の声なんぞ、良く聞こえんだよ! 挙句の果てに、 聖女カタリナ=ウエーバー男爵令嬢の、”貴方の事大好きです。婚約されているのは知ってますけど、この想いは止まりません”攻撃に、あっさり陥落。
其れを クリストバーグ侯爵家の跡取り息子である、エーリッヒ=クリストバーグ 子爵が、私の排除目的で利用する……んだと!
確かに、愛らしくて、暖かそうな見た目と、聖女の持つ ”神聖”さを兼備えた「カタリナさん」は、大変魅力的だったでしょうね。 振り返って我が身…….、長年の”教育”の賜物で、張り付けた笑顔、隙の無い言動、努力で得た成績と実技……ん、可愛く無いよね。 たしかに……
でだ、マリューシュ帝国学院の舞踏会。
全部をチャラにされた。 うん、完全にチャラ。 何も知らない乙女ならば、ここで、聖王太子に泣きついて、それでも、牢屋にぶっこまれるんだろうなぁ……長年の後宮での”教育”舐めんな! そんな事、こちとら全部お見通しだ! 小さな世界の王様になって、さぞや気分が良かったでしょうな、聖王太子、その軍師役は、血沸き肉躍った事でしょうね、愚弟。
生まれ故郷の”大人たち”は、事情を知らず、私を見捨てた。 だから、事情を知ってる私は、知った上でこの国を見限った。十八歳の時に婚約を取り消され、グスターボの戸籍を抹消されて、冤罪で牢屋にぶち込まれそうになって、生まれた国を飛び出し、お母様の生まれ故郷に、アデレーに向かった。
ーーーーーー
そんで、お母様の故郷に帰ってきたら、いきなり領主様になっちゃったよ。 そりゃ、アデレーの王族のみなさんは、なんか後悔してたみたいですし、喜んでとは言いませんが、御言葉通り、爵位と領を引き受けました。 こっちで、何とか生きてはいけると思った。
私自身、端っことは言え、王族だし、それに、五歳の頃から十八歳まで、御妃教育って言う、王族になるべく教育を受けていたからね。 なんとかなるとは思ってた。 けど、……現実って厳しいよね。 うん、とってもね。 自然は容赦なんかしてくんない。 爵位貰って、領地貰って、さて引き篭もるぞ!!って思ったら、それが、とっても厳しい事に気が付いた。
こんなに貧乏な領地って、どういう事よ!!!!
お陰で、二十一歳まで、必死に、ほんとに必死にやってきました。 で、今日は記念すべき日なんだな。
王城の国王様からの親書で、ついに、私の領が黒字転換した事が判ったのよ!!
で、お祝いしてくれるって言うから、行くの。 ほんと、長い道のりだった。
あれからクローゼットはもっと寂しい状態になったけど、やっと、大事に取ってあった夜会用のドレスの出番! 体型が少しずつ変わるから、気が付いたら、ちょっとずつ自分でお直ししてたし、ちゃんとサイズも合ってる。 これだけは、どんなにお金に困っても、換金しなかった、唯一の御飾りも付けた。
侍女さん達、渾身のフルメイク、と髪型。
うん、本当に四年ぶり。 鏡で見たら、別人がうつってた。 自分じゃ無いみたい。 と、特殊メイクか?ちゃんと、お礼は言った。 侍女さん達の腕を腐らせててゴメンね。
今日は、例の四頭立ての馬車を使うんだ♪ ルワンの目から汗が浮かんでるね。侍女さん、屋敷のみんなも、本当にお疲れ様。 領地の経営もやっとこ、軌道に乗って、ちゃんと税も過不足なく収められるしね。 さて、行きますか! 来年からは、ちょっと貯蓄も出来るし、生活の向上を図ろうかな。 よし……
いざ、王城へ!
王城では王太子様がお部屋を用意してくれるって云うし、向こうで全部手配してくれるって言ってるから、 今回は本当に王太子様に全部任せようと思う。 ついでに、護衛も近衛騎士さんがしてくれるって親書に書いてあったから、それを頼る事にした。
まだまだ、アデレー公爵家は「見栄」を張れないからね。
*************
護衛の近衛騎士さん、見覚えが有った。 グスターボ から アデレー まで、護衛してくださった方だ。 馬車の中での護衛官として、同乗してもらっている。お名前は、エルクシール=ヴァン=ヴァイス伯爵。
「こうやって、護衛して頂けるなんて、大変光栄ですわ」
「いえいえ、妖精領の姫様の護衛は、私の方こそ、光栄至極にぞんじます」
「まぁ、お上手だ事 ほほほほ」
張り付き笑顔でない、本当の笑顔が出来ますよ。 やっぱり、この四年間、泣いたり笑ったりしたのが良かったんだよね。 みんなの笑顔がとっても素敵だったし、私も、それに影響されたようなものだねぇ……
馬車の中で、色んな事聞いたよ。 領地の事で精一杯だったから、外の事あんまり知らなくてね。 それに、ヴァイス伯爵がお隣の領地の領主様だったとは知らんかった。 御多分に漏れず、お隣の領地もヴァイス伯爵の御手当と、直轄領給付で持ってるらしいけどね。
「是非、領地経営について御指南頂きたく……」
なんて、言ってくるのよ。 国力が増すんですから、情報の共有は大切よね。 王都に着くまで、ずっとそんな話ばっかりしてた。 うん、色恋沙汰には、発展せんなぁ……なんでだ? フラグは何処だ? まぁいいか。 楽しかったし。 恙なく、王都に着いたのは、ひとえにこの方々のお陰だから、素直にお礼を申し上げよう。 では、また後程……
*************
せっかくのお祝いだってのに、めっちゃ空気が悪い。 王太子殿下に挨拶に向かうと、早々に自分に割当てられた部屋に押し込まれた。 物凄く豪華な部屋なんだけど、人の気配がものっそ薄い。 うん、ほんとに人、居るのか? 誰も、相手、してくれんぞ? 仮にも私、本日の主役だぞ? 頑張ったご褒美にパーティしてやるって、国王様が直々に親書まで呉れたんだぞ? ちょっと扱いひどくない?
扉がノックされた。 私付きの侍女さんが、取り次いでくれた。 ヴァイス伯爵だった。 入ってもらう。
「何だか、とても、忙しそうですね。 ヴァイス様がいらっしゃった、という事は、今回はお流れになって、領地へ帰る事に成ったんでしょうか?」
「私も、詳しくは存じません。 ただ、王太子殿下より、此方で姫様の護衛を務めよと……」
「何が、あったんでしょうか? ちょっと、不安になりますね」
寂しい、笑いが出た。 うん、なんか、ヴァイス様の前だったら、素直な表情が出せるねぇ……そんな私を勇気づけようと、騎士の礼を取って、ヴァイス様が控えてくれた。
「姫様は、わたくしが、命を懸けて御守いたします。 どうぞ、ご安心を」
「ありがとうございます。ヴァイス様。 心強くありますね」
ホントに、心強い。 領主として同じ悩みを持っているし、なんか、物凄く近くに感じるよ。 いや、マジで。 ヴァイス様もニッコリと微笑んでくれた。 めっちゃ眩しい笑顔だ。 聖王太子みたいな表面の美しさじゃなくて、こう、内側から放射される、イイ男オーラがね……眩しい。 枯れてる我が身には、その笑顔とっても滋養になりそうです。 ハイ。 見ててもいいですか? 心の潤いの為に。
「如何なさいました? 私に何か?」
「いえ、 眩しい御姿に、見惚れておりましたの」
「えっ?」
「ごめんなさい、はしたないですわね」
「いえ、そんな事は」
ヴァイス様の、はにかんだ様な笑顔も素敵です。ええ、本当に。 でも、あまり、ジロジロ見ても、いけないので、下を向いて待機です。 ……二十一にもなって、何やってんだか…… 一つ下の王太子様のお嬢様。 私の従妹なんて、もう二児の母よ……ホントにもう……
ーーーーーー
バタバタ走って来る音が聞こえる。 うちで、お客様にそんな足音聞かせる使用人は一人として居ないぞ。ここ、本当に王宮か?
扉が、激しくノックされ、王太子妃殿下が飛び込んで来た。
「た、助けて……あの人を、助けて!」
真っ青な顔をなさっておいでだ。なんかとっても一大事だ。 とりあえず、何が有ったかを聴こう。 自分で何とか出来るんだったら、お手伝いするよ。
「ジュリアス=グスターボ王が、謁見の間で暴れてらっしゃの。 ベル様を出せって」
「はぁ? なんで、グスターボの若き国王が此処に? 使者も来なかったんですか?」
「突然の来訪です。 た、助けて」
「行きます。 ヴァイス様、一緒に来ていただけますよね」
「もちろんでございます」
「では。 謁見の間ですね?」
「は、はい……」
ガタガタ震え、一心にお祈りを捧げ始めた王太子妃殿下を侍女さんにお願いして、二人して謁見の間に急いだ。
*************
まぁ、控えめに言っても、謁見の間は滅茶苦茶。 肩で息をして、狂気に取り付かれた様なジュリアス陛下が、其処に居た。 国王様の椅子は転がっていて、その主はきっと近衛騎士さんに護られて退出。 うん、御高齢だからねぇ…… 代わりに王太子殿下が強い瞳で、ジュリアス陛下を睨みつけていた。
周囲に、ジュリアス陛下の取巻きと、その親がいた。 うん、公館の大使の姿もあるね。よっしゃいっちょやったるか!
取り敢えず相手を確認っと。
主敵: ジュリアス陛下
取巻き
宰相閣下の息子 アンリ=ホルヘ 子爵? と、その親、ホルヘ公爵
近衛総軍司令官の息子 ピーター=フォリオ 子爵? とその親 フォリオ公爵
宮廷魔術師 愚弟 エーリッヒ=クリストバーグ 子爵? と、その親……うん御父様だね。
後は、公館の大使だったね。
うん、殲滅対象だ。
「どうなさいました? 騒々しい」
「おお、ベル! さぁ、祖国に帰ろう!」
「はぁ? なんですか、いきなり」
ジュリアス陛下がいきなり手を取ろうとしやがったので、軽くバックステップで躱す。 こちとら、毎日鍛えてんだ、お前の動き位見えるわ!
「お前が帰って、我が妃になれば、それでいいのだ」
「だから、なんで、そんな事、おっしゃってるんですか? 事態が良く呑み込めません」
横から、御父様が口を挟んで来た。
「ベルダンディー、 父の言う事を聞くのだ。 お前は陛下の御妃になり、グスターボの国母になるのだ」
なんか、無茶苦茶腹が立ってきた。
「わたくしは、……グスターボの戸籍を失っております。 庶民以下で御座いますよ?」
「そんなもの、我が一存でどうにでもなる。 娘よ、さっさと帰るのだ」
うん、相変わらず、冷たい目をしてるね。 そうだねぇ……・とっとと、死ねよ、クソが!
「なぜ、今更? ……ああ、魔法障壁の消失ですね。 此方でも観測できました。 大変ですね」
「な、なに!」
「だって、もう、グスターボには魔法障壁を作り出す人物も、方法も御座いませんもの」
取巻き達が、驚いて私を見ている。
「あら、先代の聖女様からの引継ぎ事項、お忘れになりましたの? 私、まだ、七歳でしたが、よく覚えておりましてよ?」
「ぐ、ぐぅ……」
取巻き達と、御父様……なんか言葉を失ってる。 そうよね。此処に来て、私を取り戻そうって思って行動されたのは、きっと聖女様の日記をお読みになったからね。 あれ、聖女候補に読ませるために、私が書いたのよ。 聖女様の御言葉を聞いて書いたんだから、間違いないわね。 でも、二、三ヶ所、重要な部分、敢えて書かなかったのよね。 だって、廃聖女が死なないと、次代の聖女が生まれない何て、そんな非人道的な事、書けないでしょ。 まして、口述筆記したの七歳の女の子よ?
「遠くから、ジュリアス陛下と、聖女カタリナ様がご結婚されて祝福しておりましたのに……お子様までもうけられて、これでグスターボは盤石だって、周辺国に発布されましたでしょ? 聞き及んでおりますよ」
「だから何だと云うのだ! そうだ、私はカタリナを愛している。 それがどうした。 お前を側室として迎えると云うのだ。 王家に入れるのだから、それでいいだろう」
ジュリアス陛下の言葉を聞いて、ぶちっ ってなんか切れた。
「ほう、側室ですか……聖女の処女を奪い、廃聖女となし、義務を怠り、障壁を消滅させ、魔物の跳梁を許し、一国の王がなんと、情けない。 最後の頼みは、自分で捨てた女ですか。 雁首揃えて、馬鹿か貴様等!」
やっちった。 ヴァイス様……めっちゃ驚いてる。 ごめん、止まんないや。
「お、お前は、なんと不敬な……」
「自分の妻を見殺しにして、娘を使って宮廷魔術師 に成りあがった男の事なんて知らん。 血の半分がお前から来てる事は、私の恥だ。 死にたい位にな! それと、馬鹿弟。 お前、何か魔法使おうとしてるよね。 封じさせてもらうよ! ”ストンコフィン彼の者を捕らえ放すな!”」
エーリッヒが固まって倒れた。
「自分だけが魔法を使えると思うなよ。馬鹿が。 アンリ、グスターボの財務状況最悪だってね。 商人を介して色々聞いてるわよ。 もう、都には荷は入れないって! 代金も払わず、物を買おうってのは、虫が良すぎるじゃないのかな。 それをこの国では、物乞いって言うんだよ、知ってた?」
アンリ=ホルヘ とその親が顔を真っ赤にして下を向く。 そうだよ、魔法障壁が消えた今、周辺国は鉄貨一枚も拠出しないよ。 自分の国の防衛に物凄いお金かかるんだもんね。 護ってもらう防壁を作り出せない国に、拠出金は出せない。 当たり前だよね。 さしたる生産物もないグスターボが、今まで通り消費すれば、三年と持たないのは、財務を預かる者だったら誰でもわかるはずだよね。
「お、お前は、国を見捨てるのか?!」
御父様がなんか言ってる。
「ほほほほ、自分から捨てたくせに」
冷たい視線で、にこやかに笑ってあげた。 打ちひしがれてるわね。 でも、許してあげない。そうだ、こないだ、教えてもらった事、いっとこ!
「ピーター、 近衛師団はご健在? ああ、そういえば後宮警察って、まだ、あったのかしら? 戦力にならない式典用の軍隊は脆いわね。 国内で発生した魔物にすら対応できない。 無様ね」
そう、グスターボの軍は、魔物に対応できず、壊滅している。 もはや自分たちの身すら守れない。 なんで、周辺国が攻めないのか判ってないらしい。 うん、面倒なの。 自国の防衛でみんな精一杯なのよ。 お金も、戦力も、権威も何もかも喪失してしまっているグスターボ。 最後の望みが私なのよね。
良い事、教えておきましょう。 希望が打ち砕かれる瞬間は、一瞬の方が楽になれるわ。 それから、前を向くか、絶望するか、それは、あなた方次第。
「ジュリアス陛下、貴方が、この場所に来て、私を連れ去ろうとされてますが、理由は聖女様の日記でしょうか?」
「……それが、なんだ」
「廃聖女様の元では、私は何の役にも立ちませんよ?」
「なに?」
「わたくしは、聖女様の”結界を結ぶ御力”の”重要な魔力成分”を持っているだけで、わたくし自身は、”結界を結ぶ力”を持ってはおりませんから」
ちょっと、嘘ついた。 小さい結界なら結べる。 でも、聖女様程の大きさと強度は出ない。 だから本当に無理なのよ。なんか、ジュリアス陛下がヘラヘラ笑い始めた。 とうとう、現実を見ちゃったか……壊れるね。 多分ね。 うん、確実にね。 そんで、壊したのは私。 うん、敢えてやった。何もかもの決着をつける為にね。
ブツブツ口の中で呟ていたジュリアス陛下が、突然絶叫して、抜刀したよ。 ここ王宮だよね? 何やってんの? 冷静でいられたのはそこまでだった。 目を真っ赤に狂気に支配された隣国の王様が其処に立っていた。
「ダメだ……もう、おしまいだ……こうなったら!!!! みんな纏めて……殺してやる!!!」
え、えええ、ええええ?!?!? どうして、そうなるの? 結論が飛躍してる。 俺が何とかするじゃなくて、全部壊してやるって!!! ば、ばか!!!
幾らなんでも、こんな近距離で、騎士の一撃を躱すのは無理……ああ、やっぱり私も死んじゃうんだ。そうか、半分はグスターボの血が入ってるもんね。 グスターボの血はやはり、流れるのね……そっかぁ。 観念して、目を瞑る。 最後に見るのが、ジュリアス=グスターボなのは、絶対に嫌だったから。
「何故、諦める! 我が愛しい人よ! 」
えっ? 何が起こったの? 馬鹿に切り殺されるんじゃ? あ、あれ? 瞑った目を開けると、馬鹿がぶっ倒れてた。 ヴァイス様が肩で息をしてる。 ……殴り飛ばしたんだ…… こっちに向いたよ。 なんか、とっても悲しい目をしている。
「なぜ、貴女はご自身を粗末にするんです。 あの、何もない大地に恵みを導いた妖精領の姫様。 アデレーは・・いや、私は貴女を必要としています。 貴女無しでは、生きて行けません!!」
は、はい? 何ですと? いま、なんつった? ヴァイス様の声に、我に返った、アデレーの近衛騎士たちが、グスターボの阿呆共をみんな引括っり始めたよ。 ヴァイス様? いや、でも、なんで? 混乱に混乱を重ねている私に、王太子殿下が声を掛けて来た。 とっても優しい目をしていた。
「ベル……なんにも気付いてなかったのか……ホントに、母親に似ているな」
「殿下……何が起こっているのでしょうか?」
「グスターボ脱出から、こ奴はお前だけを見てたんだぞ?」
「えっ? マジで?」
「ああ。 お前の領地を決める時に二、三ヶ所候補が有ったのだが、こ奴が強硬にあそこを押したんだ。”姫様は絶対に護るから、御側に居させて下さい”ってな。 お前、……鈍感にも、ほどが有るぞ?」
「えっ……マジで……し、知らなかった……」
「ルワンにも聞いてみろ。 なにくれとなく協力してくれていたはずだ」
「……なんで、もっと早く教えてくれなかったんですか!!」
「”待ってやってください”って言われてただろ」
「……ルワンの言ってたのって……」
「ああ、お前が気づくまで待てと言われたんだよ」
あああああああ! もう、なんで!!!
「父上がもう待てん、っていってな。 確かにお前は領主として良くやっている。 お前の御爺様は、随分と我慢されていたぞ。 だが、痺れを切らして、褒美を遣るって事で、エルクシールの気持ちを聞かせようとしたんだ。 聞いてやってくれ」
「……はい」
伯父様は、私たち二人を残して、他の者達をみな謁見の間から出した。 馬鹿どもは、そのまま国にお帰り願う様だし、国境も閉じるって聞こえてた……
「ヴァイス様……」
「姫……私の気持ちをお伝えいたします。 一目惚れでした。 あの日、最初にお会いした日から。 護衛で二週間ご一緒いたしまして、思いが募りました。 さらに、隣の領から御護り申し上げておりました四年間……辛う御座いました。 貴女を幾度も御見掛けする度に、この想いは降り募りました」
「……私は……暴れ馬らしいですわよ?」
「私が手綱になりましょう」
「口が悪いですわ」
「辺境ではその位でないと」
「もう二十一になりますのよ?」
「私は三十一です」
「それから……それから……それから……・」
「お許しは、当の昔に済んでおります。 後は、貴女の言葉のみです」
「……はい。 不束者ですが……鈍感ですが……・こんな私で良ければ……」
「貴方でないとダメなのです」
「喜んで!!!!」
なんか、視界がぼやけて仕方なかった。 そっかぁ……だからかぁ……屋敷のみんななんか妙に力が入ってるなぁって思ってた。 私だけ知らなかったのか……そっかぁ……私、幸せになっていいんだ……
ヴァイス様に思いっきり抱き着いてた。 なんか、色々在り過ぎて、処理能力超えてる…… でも、とっても幸せだよ。 うん、なんか全部終わったって感じ。
「国王様にご挨拶したら、領地に帰りましょう。 あの者達が待っております。 式はいずれ良き日に」
「はい……・ヴァイス様」
「姫・・ベルダンディー」
「……・エ、エルクシール様」
心からの熱いキスを受けた。 うん、私、幸せ掴んだみたい。
fin
PS:
グスターボは、その後、周辺国家より見捨てられ、国民が逃げ出し国家として成立出来なくなった。 庶民は、周辺国に吸収されていったが、貴族達にその門戸は開かれず、グスターボ領内の各所で、その命の終焉を迎えた。 王族も例外ではなく、此処にその偉大な血の一族は滅んだ。 都は森に埋もれ、今は誰も訪れる者はいない。
いずれ、時が経ち、どこかの勇者が国を作るその時まで、グスターボは時の流れの中からそっと退場した。
やっと、終了。
ざまぁ が、書けた。
うん、満足。
とっても、満足。
何とか収束した。一万文字近くかかった。 蛇足も多かった。 むしろ蛇ではなくムカデになった。
連載の方が良かったかもしんない・・・でも描き切れて良かった。
読んでくださった皆様へ 万感の思いを込めた ”有難うございました”を 捧げます。