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海と重力

作者: 九龍

僕が好いていた女の子が屋上から飛び降りて、死にました。一昨日見たときは元気な様子でしたのに、一体何故死んだりしたのでしょう。担任の先生がその女の子が死んだことをクラスの皆に言ったときには、まるで生まれてからせいぜい一度や二度しか会ったことのない親戚の人が死んだのと同じくらいにしか感じませんでしたが、休み時間におへその辺りが変にむずむずとし、胸ががらんどうにでもなったような気分になり、放課後にもなると一杯の水でも詰め込まれたように胸が苦しくなりました。その時僕はようやく空っぽになった胸に沢山の悲しい気持ちを詰め込まれたからあの子が死んだことを痛いほどに実感するようになったのだと分かったのでした。


放課後にはいつもなら友達と校庭で野球でもして遊ぶのですが、先生が今日は寄り道をせずに帰りなさいと言ったので、仕方なく家に帰ることにしました。どちらにしろ、あの子が死んだショックで遊びに身が入らないことでしょうから、僕は構いませんでした。ですから仕方なく家に帰ることにしました。今は遊ぶ気分なぞにとてもなれなかったので、僕は構いませんでした。僕の胸の中に悲しい気持ちでできた水が注ぎ込まれていて、僕はちょっと泳いでいるのが大変になりました。僕は小学四年生なのにまだ背丈が一三〇センチしかないので、少し不安になりました。だけど泳ぎは得意なので僕は自分を勇気づけるように大きく手を掻き始めました。僕の胸の中の悲しい気持ちでできた水は、その許容量を超えたせいで台風のときの川のように氾濫し始めました。僕は背丈が一三〇センチしかないので不安でしたが、泳ぎは得意なので自分を勇気づけるように大きく手を掻いて、頑張って岸辺まで辿り着こうともがきました。


しかしながらいくら泳いでも身体は前に進まず、岸辺なぞ見えやしません。僕は段々と疲れ、少し立ち泳ぎをしていたら一際大きい波が押し寄せ、その拍子に僕は水を大量に飲んでしまいました。するとどうしたことでしょう。水はまるで涙のように塩辛いのです。ここは川ではなくて海なのでした。それもそのはず、涙という悲しい気持ちの水で一杯になったら、海ができるに決まっているではありませんか。先程とは比べものにならないくらいの大きな波が押し寄せてきました。僕は波に呑み込まれながらあの子もこんな悲しい気持ちになって飛び降りたのかな、などと思いました。

*                     *                       *

                   



わたしが好きだった男の子が海に死体で浮いているのが発見された。警察の人の話によるとあの子は服を着たままでこの町に流れる川で泳いでいて、それから海にまで流されたらしい。どうしてだろう。一昨日見たときは元気そうだったのに。先生から最初に話を聞いたときはまるで実感が湧かなかったけれども、お昼休みになって急に足元がぽっかり開き、どこまでも落ちていくような感じがした。そのときわたしはようやくあの子が死んだことを受け入れて、悲しくなったのだと思った。


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