神田にて
フワフワとした足取りで、どこか彷徨うようように、痩せた中年の男が歩いていた。うつむきながら歩く彼は、ヤジロベエのように肩を上下に動かしている。しばらく歩いた後、彼は地面にノボリを立てるためのブロックを見つけ、下を向いたいた顔を地面と水平に保つと、そのまま神田駅舎の向かいの通りにある立喰のソバ屋へ吸い込まれていった。カウンターの1番道路寄りに陣取った彼は、水を持ってきた店員に囁くようにその日の昼飯を伝えると、そのままコップの水を一口飲んだ。2分ほど経つと彼の前にはもう昼飯が提供されていた。男はそれが熱いのか、冷たいのか、上に何が乗っているのか、そんなことを気にするふうもなく、ものの5分ほどで丼の中身を啜りきった。男はチラと時計を気にすると、入店時に出された水を飲み干し、そのまま店を出た。男の足取りは少し早くなっていた。しかし、相変わらず足元は安定せず、顔は汗が薄く広がっていた。これは、十月も終わりにさしかかり、落葉が凍りそうな秋の風が吹く街頭には不似合いな様子であった。
この店の人気メニューは、店主が言うには鳥ソバだそうだ。しかし、鳥であろうとテンプラであろうと、この中年の疲れ切った男にとっての価値は、10分に満たない時間に他ならないのである。




