どうするか決まったよ
いかん、時間かかりすぎた。やばいな俺大丈夫か?
とりあえず5話どうぞ
「どうしよう?」
うんうんうなりながら目の前にある開いた通帳を見る。
前々から溜めてた金額から、いきなり5000万も金額が増えた記録を見てうなりながら悩む。
宝くじ販売店から数刻、家に帰り弁当を食べてから直ぐに銀行へ向かった、本当かどうかの確認に。
窓口で受け付けを済ませ、「おめでとうございます」の言葉と共に現金で受け取るか、そのまま通帳に入れるかを聞かれて、迷わず通帳に入れた。大金を持ち帰るなんて恐ろしい事が大学生にできるわけがない。そして受け取った通帳には見たことない金額が記載されていた。通帳を懐にしまい込み、やや速足で自分の部屋に入り、今に至る。
そして出した結論は・・・
「明日あいつらに相談してみるか」
二人の親友、ケンゴとクマさんに相談するという結論になった。友人二人を巻き込むというのは若干心苦しいが、それ以外の打開策は思いつかなかった。そうと決めたら通帳をいつもの場所にしまい、今日はもう寝ることにした。まだ夜の9時前と寝るには明らかに早いが、色々と余計なことを考えないようにするためにも寝てしまおうと思ったからだ。
「ところで何でお前がいる」
「何よ、居たっていいじゃない。別に知らない中じゃないでしょ?」
俺は当初の目的の通り、ケンゴとクマさんに空き教室で相談しようとしていたのだが、予定外の部外者が紛れ込んできていた。
工藤アサミ。確かに知り合いだ、互いの性格も趣味もよく知っている。だがむしろ、質の悪い方の知り合いだと思う。
「とりあえず出てけ、おまえに聞かせる話なんてない」
「いいじゃない、ただのオーディエンスよ。話の邪魔なんてしないから」
「いや!居ること自体が邪魔なの!そこをわかれよ!」
「まぁまぁ、カズキが悩んでるならみんなで考えた方がいいじゃない」
「そうだね、僕とケンゴくんじゃあ判断つかないかもしれないし」
「ぐっ」
確かに一理ある。この女、腐ってはいるが中々に的確な判断をするのだ。信じられないことに高校時代は生徒会長もやっていて敏腕と称されるほどの才を見せつけた。性格と趣味はアレだが優秀なやつなのだ。
「仕方ない、絶対に他言無用だぞ」
「「「はーい」」」
「あとそこ、スケッチブックを開かない」
「チッ」
舌打ちをするな腐女子め・・・
そして俺は昨日の出来事を打ち明けた。大金が手に入ったこと、どうしようか悩んでること。全部打ち明けた。それを聞いた3人は驚いた。まぁ、当然の反応だろう。
「それマジなの?」
「ああ、本当と書いてマジだ」
「すごいね、僕でもそんな大金どうしようかわかんないよ」
一応、証拠として通帳の写真をスマホで撮ってきておいたので、それを見せるとさらに驚いていた。
「はぁぁぁぁぁーー・・・・」
「なんだよ?」
写真を見てアサミは思いっきりため息をついた。こっちは真剣に悩んでるのにため息をつかれるなんて、本気で腹立たしかった。
「あんた馬鹿じゃないの?そんな相談を他人にするとかありえないわよ」
確かにその通りだ、金銭の相談なんて友達にするものじゃない。もちろん、お金の貸し借りの要求なんてゲスな真似は今までは・・・食費関係でやったことがあるな・・・。でも、大金のトラブルは一切しなかったし、されたこともなかった。危機的な状況じゃないとはいえ、今回が初めての事なのだ、どうすればいいかなんて全く思いつかない。
「うるせぇな!しょうがねぇだろ?わかんなかったんだから」
「まぁいいわ、とりあえずカナにも相談しましょ。あの子だけのけ者にするのは可愛そうだし」
「・・・・そうだな」
そう、カナも入れて5人。この5人が最も仲がいいグループなのだ。中学までは結構バラバラだが、高校で合流し、その関係が大学4年の今まで続いている。だから彼女も入れて相談するべきと決まり、今回はお開きということで解散した。
そして日をまたぎ、今度はカナも連れて空き教室で打ち明けた。
「ほんとなの?」
「ああ、本当だ。現物の通帳は持ってこれないからスマホの写真になるけど見てみる?」
前にケンゴ達に見せた証拠写真をカナに見せた。彼女は目は悪くはないが、覗き込むように、食い入る様に俺のスマホを見た。
「すごい・・・」
「ヘタレよねぇ、自分じゃどうしようかわからないから相談なんて」
はいはい、悪かったですねーヘタレで。悔しいが自覚があるので反論はしない。
「カズキはそれをどうしようか悩んでるんだって」
「普通に考えれば貯金か、豪遊って選択肢しかないわよね」
「豪遊はどうかと思うよ?散財に慣れるのは良くないと思うし」
確かにその選択肢は妥当だって思う。というか一般的に考えればそうなるのが常識でもある。でもそんなに物事に飢えてもいない。だが貯めるというのも違う気がする。豪遊ってのはクマさんの言う通りよろしくはないが、このまま使わないというのは絶対間違ってる。
これは何かのチャンスなのだ、だからチャンスを生かすためにみんなに知恵を借りたい。
「ひとつ、提案いい?」
「なに?」
スマホを見ながら考えていたカナから意見が出た。こっちを真っすぐに見て、いつもの眠そうな目じゃなくてパッチリと目を開いた状態で見てきた。ただそれだけで真剣だとわかる。だって普段は全然感じない目力をハッキリと感じるのだ。これで本気じゃないなら普段はどうなってるんだ?という事になる。
「これは私のワガママだから、嫌ならやらなくてもいい。でもカズキが認めてくれるならお願いしたい事があるの」
「何をしたいの?」
普段の彼女からは見られない謙虚な姿勢だった。というかこれほど畏まった事は無かった。引越しの手伝いで部屋に入った時でも、うっかり下着を見た時でも、「そう」と平然としてるのが彼女だ。そんな彼女がこれ程の態度になるということは、何かとてつもない事なのだろうか?ごくりと生唾を飲んで姿勢を正す。
「VRMMOユニットのレンタルをしたい」
「えっ!?」
予想外の願い(何の予想もできていなかったが)に驚いて一瞬硬直するが、割とすぐに理解できた。彼女の願いは金持ち御用達の案件だった。SD社によるVRMMOを作れる機会のレンタル。レンタル費用が高くて一般人には縁のない話。それが彼女の提案だった。
「私は自分が望む世界を作りたい」
自分の望む世界、同じゲーマーとしてよくわかる。誰しも自分が望んだゲームができたならばと願うのは良くあることだ。
「あれものすごく高かったわよね?幾らだったかしら?」
「1ヶ月500万だよ」
「うわ、カナ本気?」
「うん、でもカズキが嫌ならやらなくてもいい。大学終わって就職したら、いつか自分でやろうと思ってたから」
確かに大学生とはいえ、学生には手が出ない、もちろん社会人にも簡単には手が出ないだろう。だがそれでも手を伸ばす、彼女はそのつもりだったらしい。
今更ながら少し合点がいったことがある。彼女はメイド喫茶にてバイトをしている。もちろん本人が望んでではない。むしろ本心としては嫌々ながらやっているだろう。「なんでやってるのか?」と聞いた時には「時給が良いから」と答えてたが、彼女はそんなにお金に困ってはいない筈だった。だが今ならわかる。このために嫌な仕事でもやっていたのだ。目的のため、少しでも近づけるために陰ながら努力をしていたのだ。
「今までやってきたゲームが良くなかった訳じゃないの。でも、不満が全くない訳じゃない。こうしたらいいんじゃないのかっていつも思うことがあった。だからいつか自分が作る理想のゲームを作りたかった」
その気持ちは良くわかる。理想、空想、思いを形にしたいというのは同じゲーマーとして夢であり願いでもある。
「ワガママなのはわかってる。でも作りたいの!自分の思い描く理想の世界を!だから・・・お願いします」
そう言って頭話下げるカナ。
正直言ってずるいと思う。
こんな事されて突っぱねるとか外道だろ?美少女が頭を下げてのお願いとか断る男はカスだろ?嫌なら断ってもいいとか、全然退路なんてないよ。
「わかった、やろう」
「ほんと!?」
「ああ、でも条件がある」
条件があると言った瞬間、カナの体がこわばる。それも当然だ、何を要求されても彼女には嫌という権利が無い。そんなカナを察したのか、後ろにいたアサミがものすごい目で睨んでいる。そんなアサミに大丈夫だと視線を送ったが理解はしてなかったようだ。
「なに?」
振絞るように出た声は明らかに怯えが入っていた。成人したとはいえまだ小さな女の子でもあるカナには、どうすればいいかわからくなっていた。もちろん彼女にそんな経験などない。だが要求されたら拒否することなんて決してできない。普段なら対応できる筈の思考が、不安と恐怖によって固くなってしまっていた。だが、それもたった一言で変わる。
「俺も一緒に作らせてくれ」
その一言で雪が解けるように体の震えと心の硬直が消えていって、そして今度は安堵が体と思考を柔らかくしてくれる。
「手伝ってくれるの?」
普段の彼を知ってるのにどうしてそんなことを思ってしまったのだろう?と今更ながらカナは思った。少し考えればそんな事はないとわかるはずなのに、と。
ただ、それだけの後ろめたさがあったのだ。自分のワガママに大金を使わせるという事が。
「俺も作りたいって思ってたんだ。ま、こんな形で作ることになるなんて思ってもいなかったけどね」
「ありがとう」
ザ・パーフェクトスマイル。まさに天使の微笑である。そんな笑顔を見せてもらえるなら承諾したかいもあるというものだ。俺ロリコンじゃないけどこれは拝みたくなるわ、と思ったのは内緒である。
「ちょっと待ちなさい」
アサミが椅子から立って制止をかける。既に睨んではいないが、それでも威圧感がある目でこっちを見てる。
「なんだよ、どうするかもう決まったんだからいいだろ。ケチでもつける気か?」
「そんなんじゃないわよ、私も混ぜなさいって言いたいの」
思考が止まる。手伝う?コイツ(アサミ)が?ゲーマーでもないしそういうのはあまり好きそうではないのに?
「は?何言ってんのお前?」
「親友の夢に協力したいってのは当然なの。それに野獣と天使を一緒にして放置とかありえないから」
「誰が野獣だ!」
いつか見た肉食獣的な笑みになって、協力の意を言い出すアサミ。なんだよ、いつも通りな腐った女ではなくこんな男前なこともやる女だったのかよと思った。ちょっとは見直すかとも。
「それなら僕たちもやらないとね」
「僕もケンゴの案に賛成だよ、一緒に頑張ろう」
そして親友二人も手伝うと言ってくれる。本当にいい友達を俺も彼女も持ったものだ。嬉しさのあまりちょっとこっぱずかしい。
「ありがと」
肩を組んで拳を合わせる。ほんと、我ながら良い親友を持ったものだ。
「クハッ」
そんな仲を嫌な目で見る腐った女が興奮しながらこっちを見ていた。よだれを垂らすなよだれを!全く、さっきまでの良い女は何処行ったんだか・・・
とりあえずそんなこんなで今後の予定は決まったのだった。
さて、次はちょっと早めに上げます。