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終章

 直巳が自分の部屋に戻ると、すぐに扉がノックされた。どうぞと返事をする。マルファスが入ってきた。

 封筒に便せんを始め、万年筆や羽根ペン、インクまで持ってきた。直巳は普通のボールペンを受け取ったが、それだって触ったことのないような重厚感だった。高級品なのだろうか。

「ありがとう」

 直巳が素っ気なくいうと、マルファスは静かに頭を下げた。

「書き終わりましたら、私にお渡しください。投函しておきますので――大丈夫です。主様のお手紙を覗き見したりはいたしませんよ。内容を検閲しろとも仰せつかっておりませんし。終わりましたら、コーヒーでもお煎れいたしますね」

 マルファスは直巳の返事を待たずに部屋を出ていった。Aとはまた違った威圧感があるな、また変なのが1人増えたなと思い、直巳は苦笑した。

 便せんを前にして、ボールペンを握る。何を書くかは、もう決まっていた。

 花鳥神社で起きた事件の真相についてだ――真相というには、隠し事は多いのだが。令にすべての真実を告げることはできないし、告げない方がいいだろう。下手に巻き込むわけにもいかない。

 しかし、できる限りのことは伝えたいと思った。手紙というのは丁度いい。質問を受けることなく、こちらの言いたいことだけを選んで、一方的に伝えることができるのだから。

 直巳は慎重に言葉を選びながら、令への手紙を書いた。

 その昔、花鳥神社と慶が天使教会に狙われたこと。ハナガラスという男が、それを守ろうとしたこと。天使教会の喚びだした天使を防ぐために、慶は禁忌とされる花鳥召喚をしたこと。それで花鳥神社の守りがなくなり――巫女がハナガラスを無理矢理に封印し、守護にしたこと。

 それだけだった。後のことは書けない。アイシャのことも、悪魔達のことも。

 直巳がそれをマルファスに渡してから数日経つと、令から返信があった。

 前回とは違い、令もボールペン書きで、多少砕けた手紙だった。


「直巳さん。お手紙ありがとうございます。

 あなたのおかげで、少しは真実に触れられたのかなと思います。それでなぜ、あなた達の手元に、「花鳥ノ嘴」が渡ったのかなど、気になることはあります。しかし、それは聞きません。そういう約束で、あなたは秘密を教えてくれたのですから。

 しかし、ハナガラスには気の毒なことをしました。愛する女性のために戦い、裏切られたのですから、子孫である私を恨むのも仕方のないことでしょう。私は、巫女の血筋として、せめて彼の魂を慰められるように、これからも彼をお祀りいたします。

 この話はこれでおしまいです。これ以上のことを聞く気はありません。花鳥神社の昔話として、花鳥奇譚として残すのには十分でしょう。多少、変化はあるかもしれませんが、話が残るようにお婆さまに相談してみます。

 これに懲りず、また、花鳥神社に遊びに来てください。菜子も会いたがっています。お食事に行く約束、忘れないでくださいね。

 最後に。直巳さんは、私の知らない世界で過ごし、戦っているのだと思います。何のためかはわかりません。しかし、もしもそれが女性のためであれば、どうかハナガラスにはならないようにしてください。

 女性のために命を賭けて、挙げ句の果てに騙されて死ぬなんて、悲しすぎるとは思いませんか? あなたのことを想っている人がいることを、どうか忘れないでください。私や菜子のことを、どうか忘れないでください。

 私も花鳥神社も、これ以上、悲しい男性をお祀りするのは、嫌です」


 直巳は手紙を読み終わると、小さく溜め息をついた。

 とりあえず、最低限のことは伝えられたようだ。ハナガラスが生贄にされたことはショックだったと思うが、令は冷静に受け止めてくれたようだ。何よりも、それにほっとする。

 直巳は、返事を書こうと思い、マルファスからもらった便せんの残りを取り出す。これ以上、令に伝えられることはない。それでも、彼女の手紙を読んで、思ってしまったことが、一つだけあった。


「令へ。

 僕はハナガラスになりたいとは思いません。

 自分の腕だけで乱暴に生きていた、ろくでもない男。

 女性のために戦い、最初から最後まで騙されていた男。

 大きなカラスに取り憑かれ、人間すらやめてしまった男。

 令と菜子に心を許し、恨みすら貫き通せなかった、甘い男。

 自分勝手で、バカなロマンチストだと思うでしょう。僕だってそう思います。

 もう一度言います。僕はハナガラスのようになりたいとは思いません。

 だけど。理由はよくわからないし、わかってもらえるとも思わないけれど。

 それでも、ハナガラス。僕はなぜだか、彼に少し憧れます」


 直巳は書いた手紙を読み返すと、そのまま破いてしまった。

 窓の外でカラスがギャアギャアと鳴いた。

 直巳が窓を開ける。カラスの姿は、もう見えなかった。

 ただ、どこかへと飛び去っていく羽音だけが、直巳に聞こえた。

ツバキ黙示録 第五篇 「花鳥奇譚/花烏奇譚」をお読みいただき、ありがとうございます。


以下、五編のネタバレを含みますので、本編を読み終わってからお願いします。



なんだかんだで、一番投稿間隔が空いてしまいました。

お待たせしてしまい、大変申し訳ございません。


長くなった理由は読んでいただいたとおりで、

「話を2本書いて、さらにそれをリンクさせる」ということをしたからです。

作業時間の半分以上はプロット作りでした。

難航に続く難航で、途中、本当に完成しないかもと思い始めるぐらいでした。

いつにもまして長いですが、楽しんでもらえれば何よりです。


以下、作品について少し。


話自体は、結構前から考えていた内容でした。

なんでカラスをモチーフにしようかと思ったのかは、思い出せません。

鳥と烏が似てるから、ぐらいだったかもしれません。

実際、構想中に満開の桜にとまっているカラスを見にいったことがあります。

桜もカラスも良く見ているはずなのに、組み合わさると不思議な光景でした。


新しい悪魔のマルファスは、詐欺の総統でカラスの悪魔です。

マルファスがいたから、今回の話を現代に繋げられました。


今回は作中に祝詞や呪文がいくつか出てきます。

あれは僕が勝手に作ったものなので、怪しいところがあったらごめんなさい。

細かい意味や訳は書きませんが、読んでいただければなんとなくわかると思います。

慶の祝詞は、とても慶らしい内容になっています。

本当はああいう物騒な祝詞は存在しませんので念のため。


過去篇の文体は最初の方、ちょっとだけ雰囲気変えました。

露骨にやると読みにくくなるので、本当に気持ちだけ。


次回作については、ネタはあるけどどれにしようかな、という感じです。

またお時間いただく「かも」しれませんが、頑張ります。



最後に諸々のお願いを。


感想や評価などいただけると励みになりますので、なにとぞよろしくお願いします。

全部目を通しておりますし、返信もさせていただいております。

投降サイトでもツイッターでも構いませんので、よろしくお願いします。


また、宣伝してもいいですか、と聞かれることがあるのですが、

こちらからお願いしたいぐらいです。ぜひ、よろしくお願いします。


後、絵とか描いてくれる方いたら伏してお願いいたします。

Aのような耽美系のキャラがお好きな方。

アイシャやBのような可愛いキャラがお好きな方。

伊武のような長身、筋肉、巨乳好きなこじらせた方など、お待ちしております。


それでは、繰り返しになりますが、読んでいただきありがとうございました。

今後も、「ツバキ黙示録」をよろしくお願いいたします。


各種連絡はなろう、またはツイッターまでお願いします。

ツイッターアカウント:@sasakikeiji

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