花鳥ノ巫女
姉様はいつもお綺麗でした。
私に同じ血が流れているなど、信じられないほどでした。
花鳥の巫女様というのは、やはり余人とは違うものなのでしょうか。
ただ、同時に恐ろしい人でした。
どこを見ているのかわからない。
何を考えているのかわからない。
何を求めているのかわからない。
それはそれは恐ろしい人でした。
一度、姉様と巣から落ちたツバメの雛を見たことがあります。
私が戻してあげようというと、姉様に止められました。
すると姉様は、少し離れた場所を指差しました。
そこには一匹の蛇がおりました。
蛇は雛に近付き、容赦なく飲み込んでしまいました。
私が恐怖のあまり固まっていると、姉様は蛇を優しく見守っておりました。
どうして助けてあげなかったのと私が聞くと、姉様は優しく答えてくれました。
だって、あの蛇はお腹が空いていたように見えたから、と。
そして姉様は蛇に近付くと、表情一つ変えずに踏みつぶしてしまいました。
腹の中には、先ほど食べた小鳥もいたでしょう。
姉様が、わざわざ食べさせた小鳥がです。
どうして蛇を殺したのと私が聞くと、姉様は優しく答えてくれました。
だって、神社に蛇がいたら危ないでしょう、と。
姉様は楽しそうに笑いながら、足で蛇の頭をすり潰しておりました。
さあ、これで大丈夫よ。怖がることはないのよと、笑っておりました。
姉様は恐ろしい人です。
人の理で計ろうとすれば、こちらの気が狂ってしまいそうです。
ですから、私は姉様と向き合うのをやめました。
それでも、それでもやはり、姉様はお綺麗でした。
そして、あの子は段々と姉様に似てきます。
性格はもちろん違います。姉様と違い、まともな娘です。
それでも私は、日に日に姉様に似てくるあの娘が怖いのです。
また、よからぬことが起きはしないかと、恐ろしくなるのです。
あの日、消えてしまった姉様は、どこへいったのでしょうか。
花鳥様と巫女を巡る奇怪な話――花鳥奇譚の真相は、誰も知らないのです。