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未来のセンシ

作者: 杏人

 我々には、火星を緑の星に変える資源も、スペースコロニーを作り上げる技術も、新天地たる惑星ケイロンもありはしなかった。

 だから、殺人衛星が大空の星々に幾つ紛れ込んだところで、なんの障碍も発生しない。

 地球外への移民が始まるより先に、地球外での戦争が始まった。それはもう200年も昔で、初めの頃こそ宇宙にまで跳躍した弾道ミサイルが地上に降るという悲惨なものであったが、今では高性能の迎撃性能を備えた衛星兵器が主力だ。

 開戦後間もなくに宇宙への進出を諦め、結局は広大な地球上にひしめき合って暮らすという現実的で合理的な選択を行った全人類にとっては、極めてクリーンな戦争と言えた。人が戦死するのはもう時代遅れで、建て前では人を殺すのが目的の無人衛星兵器たち同士が、昼も夜も無い無常の宇宙空間で人類に代わってドンパチやっている。

 人が戦死するのは時代遅れとは言ったが、全く死なないかと言えば、そうではない。

 というのも、兵器の製造や整備中の事故も戦死扱いになる為、そういったいわば身内の不手際によって名誉の戦死を遂げる者は一定数いる。

 どのあたりが名誉であるのかは、もう誰にもわからないが、人類史を紐解けば陳腐化した様々なモノは「伝統」という言葉で片付けられると相場が決まっているのだし、おそらく戦死の名誉はこの世では伝統なのだろう。


 だが、ある日本人の見立てでは、長く続く伝統にはならない。というのも、彼と彼の会社の従業員が新たな戦死のあり方を不本意ながら、遅かれ早かれ世界に提示してしまうからだ。

 彼はもう長い事、日本の使われもしない平和的な兵器の開発に従事してきたが、この先、半世紀も待たずに戦争事情はある事態に直面すると確信した。多少考えれば分かる事だが、戦争好きの国々は一貫してその問題というのに無視を決め込んでいるようだ。

 時機を見極めて彼は自衛用兵器の研究部門から身を引き、会社を設立するに至った。

 会社の事業の内容は極めて簡単だ。特別製の超大型スペースシャトルで宇宙へ上がって、壊れた殺人衛星たちを回収して、地球へ還ってくる。これを資金が底をつくまで行い、宇宙で拾ってきた金属塊を資源として売る。

 人工衛星を作る素材は手を変え品を変えで、今までどうにかやりくりしているが、とっくの昔に重金属製の衛星は、小国一つ傾けるほどの値段になっている。


 どこの国の追随も許さない自衛専用兵器のみを満載したスペースシャトルが、日夜発射場から飛び立っては放った武器の数だけ、利用した盾のスペースだけ、「宇宙の金脈」を豪快に掘り進み、戦争好きの国々へ売りつける。

 アメリカはいつしか、日本を守る為に使っていた軍事力を、日本から安く素材を買い付ける為の交渉手段へ変えるようになったし、その敵対国でさえその手法に習った。

 かくして彼とその会社は、いいや、日本は世界の覇者となった。

 しかし、宇宙戦争の永続性を高め、地上を二度と戦場にしないようにした彼の功績はノーベル平和賞を授賞するにふさわしいとの声が上がり始めた頃、彼は凄惨な最期を迎えた。

 新たな戦死のあり方として危惧されてきた、作業中のスペースシャトルが撃墜されるというものではなく、事故であった。


 スペースシャトルの整備不行き届きによって起きた爆発事故。やはり、身内の不手際による「名誉の戦死」である。

 図らずもシリーズ化。第二弾。やはり数十分で完成。

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