其の檻の名
初めての企画参加作品です。
よろしくお願いします。
ーー檻を作ろう。
君に心を奪われた瞬間に決めたこと。
僕は其れを実行に移す。
生きることを諦めた日から僕の世界は色褪せていった。
何に対しても無気力で、無関心。無頓着。
何でもいいよ。
どうでもいいよ。
僕が口にする言の葉。
何も宿さない。誰にも届かない。
無機質な自分。何も無い。
だって仕方ないじゃないか。僕は死ぬんだから。
暗澹たる未来。
残りの人生の目安を告げられた日。
僕は全てを放棄した。
そんな僕の目の前に現れた君は、眩し過ぎた。
純粋すぎる君は、僕の汚れ具合を滑稽なほど浮き立たせる。
光と闇に近い僕たちの姿。
燦然と輝く君を僕は直視出来ない。
目が眩んでしまうかと思った。
目が潰されるかとも思った。
それと同時にその光を遮断し、闇に染めることが出来たら、そんな思考が頭を過る。
その姿はどんなに。
美しいのだろう。
心が荒み、病んでいる自信はある。
しかし其れを恥ずかしいともみっともないとも哀れとも思わない。
今の僕は本来の自分の姿に近いと思うから。
自分よりも綺麗なモノが醜く歪んで行く姿を見てみたいと、誰もが心の何処かで考えていることだ。
其れを実行に移す人は極少数なのだろうが。
徐々に堕ちていくのが自分の最愛の人なら、どれ程のモノだろうか。
此の世のモノとは思えぬ程、極上で甘美な何か。
僕は喉から手が出る程其れが欲しい。
君の心が、君の何もかもが欲しい。
だから。
檻を作ろう。鈍感な君が気がつかないくらい広い檻を。
そして。
その全てを僕に頂戴?
周りから少しずつ囲って、檻を作り上げていく。
沢山の檻を作り捉えるのではない。
広大に築き何処に格子があるかさえも解らないほど広い頑丈で強固な檻を作る。
君は気が付かない。
君にあげた物も一緒に出掛けた場所も積み重ねた想い出も、君を自由を奪う檻でしかないんだよ。
プレゼントを見て、その場所に行って、僕を想い出す。
それだけのこと。
君はもう僕と言う存在に囚われただろうか。
僕無しでは生きられないくらい心を奪われただろうか。
絆されただろうか。
そんな僕が突然目の前から姿を消したらどう思うかな。
嘆き悲しむ?
激怒し憤慨する?
それとも…壊れる?
何でもいいんだよ。
君の中に残れるなら。
君だけが僕を覚えてくれていたなら、それだけで僕は幸せ。
それこそ本懐だ。
だからどうか僕を恨んで。
咎めて。嫌いになって。
罵倒して、激怒して。
もう二度と忘れることができないくらいに、傷付いて、ボロボロになってみせてよ。
そして絶望してくれないか。
その原因の僕を。
ずっとずっと忘れないで。
忘れられることはね。
忘却は死ぬより恐いから。
だからどうか君だけは覚えていて。
君だけが僕の名を呼んで。
純粋なくらい真っ直ぐに見つめる瞳に射抜かれる。
目は口ほどに物をいうという言葉があるが、君が僕を好きになっているのが解る。思慕の情に変わるのも知らずに。
それでいい。
全て上手くいった。
「今度逢ったときに、大切な話しがあるから」
耳元でそっと囁いた僕の甘い言葉に君は頬を上気させる。そして綻ぶ。
きっと待ちに待った言葉を言われるのだと思っている。
そんな素振りを僕は見せる。
でも言わない。
言ってあげない。
言うことはできない。
僕にはもうその時間がないから。
多分、君と逢えるのは今日で最後。
だから今日も僕は嘘をつく。
酷く優しい、そして残酷な。
嘘と言う名の桎梏を君に付ける。
「ねぇ」
ゆっくりと振り向く君の腕を掴み、強引にこちらを向かせる。
「⁈ …んっ」
君の柔らかな唇を奪った。
やっぱり甘いや。
その唇をもう二度と味わえないのが残念だけど。
「またね。バイバイ…」
僕は最後にまた嘘をつく。
「またね」なんて二度と来ないのに約束をする。
君は僕をずっと待ち続けるだろう。
あとはその最期を待つ。
僕が瞑目した日。この檻は漸く完成する。
君を捕らえ、心を奪う其の檻はー……
僕自身だよ。
なんてね。
ヤンデレになっていたでしょうか?
私にはこれが限界だぁぁ…
ヤンデレ大好物ですが、描くのは大変ですね。
何かありましたら、感想でも何でも言って下さい。
最後まで読んで頂きありがとうございました‼︎