1-1:痛い少女は魔王様
基本的な話数構造
1-1と表記しておりますが、これは所謂、上・中・下を表しています。
後に一話としてまとめますので、ご理解のほど、よろしくお願いします
春。僕、早木 幸太は、新春に入ったと言うのに風邪をひいてしまった幼馴染、箱宮 小鳥の看病をしに、彼女の家に行っていた。
新春故に寒い。この寒さなら、風邪をひくのは納得がいく。うん、納得はいくよ。問題はそうなった要因が、彼女が全裸で寝ていたことだったのだ。まったく。僕のお姉さんや妹たちがそういうだらしない生活をしていたから、そういうのに耐性があるからいいものを。もし僕以外の人間だったら、何をされていたか……。
そんな、愚痴をたれながら、僕は絶賛帰宅中なのである。春だからって油断していた。薄着で出てきてしまったので、非情に寒いのだ。あぁ、さむっ。
そんな寒い夜の中、街灯で照らされた桜が咲いていた。綺麗だ。早くも散っていく桜の花びらが、照らされた街灯の光で影を作り出し、美しい情景を作り出す。桃色と黒色、そして白色が闇の中で絵を作り出す光景があまりにも綺麗で、僕は思わず立ち止まってしまった。
「綺麗だなぁ……」
そう、呟いた。
その時、桜の花びらの合間の光に、一筋の闇が見えた。そんなことはありえなかった。街灯から照らされた光なので、断続的にそこは照らされ続いている。だというのに、真っ直ぐ垂直に落ちていくように見えた闇が現れるのは、明らかにおかしい。
見間違いだろうか。そうだと思って、その街灯の光を抜けた。そして、その闇の先を見た時、
「あっ!?」
見たのだ。いや、見つけたのだ。その闇の正体を。
それは少女だった。黒髪の、長い、美しい少女だった。そんな少女が、傷だらけになって倒れているではないか! 服も破れている。ジャージ姿だけど。
思わず彼女の元へ駆け出し、そして頭を手で支える。
「大丈夫っ!? ねぇ!」
「う、うぅん……ぅぅ……」
そう叫ぶが、少女は唸るだけで目を開けない。何があったかは解らないけど、大した傷ではない。でも、頭を打ったなら話は別だ。頭からは血は出てないけど、中が揺れて脳震盪でも起こしていたら、とんでもないことになる。
え、えぇーと、どうすればいいんだっけ? 救急車? いや、なんか訳有りとかだったら後が怖いし。いや、いやいやいやいや。それじゃ、助からないよ。
……黙って、救急車を呼ぶと言う選択をした方がよさそうである。
「っ……つぅー……」
「あ」
と、そこで少女が気が付いたのか目をゆっくりと開けた。黒い髪の毛が垂れて僕の腕に絡まる。そんなことで心が躍るけど、とりあえず彼女をゆっくりと地面に降ろした。
ゆっくりと座り上がり、頭を打ったようで、自分の頭をさする少女。その仕草が可愛くて、一瞬だけ呆然としてしまった。
「だ、大丈夫? 痛くない?」
「大丈夫だ、少年。頭を打ったぐらいでな」
そう言ってこちらの目線と合った。男勝りな口調だけど、それに反比例するように可憐なその容姿は、あまりにも眩しすぎて目を逸らしてしまう。
でも、本当に大丈夫なのだろうか? 傷はないけど、服は至る所が切れている。ジャージとは言え、こんなにボロボロなのはどうもおかしい。僕の考えでは転んだのか、それとも木とか高い所から落ちたのか。
しかし、その割には傷と比例するほど高い場所はない。あの桜の木とも離れてるし、街灯から落ちてきたなんてことはないだろう。高い場所と言えば、目の前に見える高層マンションぐらいだし。
「いっつ……やはり、死ねないか」
「えっ」
この少女、何を言い出したのか。え、死ねない? どういうこと?
と、そう戸惑いをしようかと思った瞬間、目の前にいる少女が僕を見たようで、ハッとなって何か慌てだした。そんなあわあわする少女もまた可愛い。
「さ、さっきのはなしだ! 聞いてないことにしてくれ!」
「い、いやぁ……見逃せないなぁ」
と、思わずそう言ってしまう。すると、少女はうぅん、と両手で頭を持って悩み唸り始める。ぶんぶん頭を振り回す。ヘッドバッティング、ヘッドバッティング。首が痛くならないのだろうか。でも、長い髪の毛が指に絡まっていく様子を見ると、何か心躍るのは嘘ではない。
そういえば、さっきまで焦ってたから考えが回らなかったけど、この子の容姿、どこかで見たことがある気がする。
「そういえば、名前聞いてなかったね。なんて名前なの?」
「うん? あ、名前か」
そう言って僕の方を見た少女は、急に立ち上がってそして仁王立ちをする。控えめな胸を張るが、そこには威厳はない。でも、雰囲気は厳格なものがあるように見えた。
少女は目を見開き、僕を見て声を出す。
「我が名は魔王アウデス! 力を統べる、魔の王なりっ!」
……少女の言葉を聞いた時の、その時の僕の思考を、同情などの感情を一切抜きにして表そう。
痛い子を見つけてしまったようです。それもとても可憐で、とても残念な。