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僕と魔王  作者: 紅葉紅葉
2/5

1-1:痛い少女は魔王様

基本的な話数構造

1-1と表記しておりますが、これは所謂、上・中・下を表しています。

後に一話としてまとめますので、ご理解のほど、よろしくお願いします

 春。僕、早木 幸太は、新春に入ったと言うのに風邪をひいてしまった幼馴染、箱宮 小鳥の看病をしに、彼女の家に行っていた。

 新春故に寒い。この寒さなら、風邪をひくのは納得がいく。うん、納得はいくよ。問題はそうなった要因が、彼女が全裸で寝ていたことだったのだ。まったく。僕のお姉さんや妹たちがそういうだらしない生活をしていたから、そういうのに耐性があるからいいものを。もし僕以外の人間だったら、何をされていたか……。

 そんな、愚痴をたれながら、僕は絶賛帰宅中なのである。春だからって油断していた。薄着で出てきてしまったので、非情に寒いのだ。あぁ、さむっ。

 そんな寒い夜の中、街灯で照らされた桜が咲いていた。綺麗だ。早くも散っていく桜の花びらが、照らされた街灯の光で影を作り出し、美しい情景を作り出す。桃色と黒色、そして白色が闇の中で絵を作り出す光景があまりにも綺麗で、僕は思わず立ち止まってしまった。


「綺麗だなぁ……」


 そう、呟いた。

 その時、桜の花びらの合間の光に、一筋の闇が見えた。そんなことはありえなかった。街灯から照らされた光なので、断続的にそこは照らされ続いている。だというのに、真っ直ぐ垂直に落ちていくように見えた闇が現れるのは、明らかにおかしい。

 見間違いだろうか。そうだと思って、その街灯の光を抜けた。そして、その闇の先を見た時、


「あっ!?」


 見たのだ。いや、見つけたのだ。その闇の正体を。

 それは少女だった。黒髪の、長い、美しい少女だった。そんな少女が、傷だらけになって倒れているではないか! 服も破れている。ジャージ姿だけど。

 思わず彼女の元へ駆け出し、そして頭を手で支える。


「大丈夫っ!? ねぇ!」

「う、うぅん……ぅぅ……」


 そう叫ぶが、少女は唸るだけで目を開けない。何があったかは解らないけど、大した傷ではない。でも、頭を打ったなら話は別だ。頭からは血は出てないけど、中が揺れて脳震盪でも起こしていたら、とんでもないことになる。

 え、えぇーと、どうすればいいんだっけ? 救急車? いや、なんか訳有りとかだったら後が怖いし。いや、いやいやいやいや。それじゃ、助からないよ。

 ……黙って、救急車を呼ぶと言う選択をした方がよさそうである。


「っ……つぅー……」

「あ」


 と、そこで少女が気が付いたのか目をゆっくりと開けた。黒い髪の毛が垂れて僕の腕に絡まる。そんなことで心が躍るけど、とりあえず彼女をゆっくりと地面に降ろした。

 ゆっくりと座り上がり、頭を打ったようで、自分の頭をさする少女。その仕草が可愛くて、一瞬だけ呆然としてしまった。


「だ、大丈夫? 痛くない?」

「大丈夫だ、少年。頭を打ったぐらいでな」


 そう言ってこちらの目線と合った。男勝りな口調だけど、それに反比例するように可憐なその容姿は、あまりにも眩しすぎて目を逸らしてしまう。

 でも、本当に大丈夫なのだろうか? 傷はないけど、服は至る所が切れている。ジャージとは言え、こんなにボロボロなのはどうもおかしい。僕の考えでは転んだのか、それとも木とか高い所から落ちたのか。

 しかし、その割には傷と比例するほど高い場所はない。あの桜の木とも離れてるし、街灯から落ちてきたなんてことはないだろう。高い場所と言えば、目の前に見える高層マンションぐらいだし。


「いっつ……やはり、死ねないか」

「えっ」


 この少女、何を言い出したのか。え、死ねない? どういうこと?

 と、そう戸惑いをしようかと思った瞬間、目の前にいる少女が僕を見たようで、ハッとなって何か慌てだした。そんなあわあわする少女もまた可愛い。


「さ、さっきのはなしだ! 聞いてないことにしてくれ!」

「い、いやぁ……見逃せないなぁ」


 と、思わずそう言ってしまう。すると、少女はうぅん、と両手で頭を持って悩み唸り始める。ぶんぶん頭を振り回す。ヘッドバッティング、ヘッドバッティング。首が痛くならないのだろうか。でも、長い髪の毛が指に絡まっていく様子を見ると、何か心躍るのは嘘ではない。

 そういえば、さっきまで焦ってたから考えが回らなかったけど、この子の容姿、どこかで見たことがある気がする。


「そういえば、名前聞いてなかったね。なんて名前なの?」

「うん? あ、名前か」


 そう言って僕の方を見た少女は、急に立ち上がってそして仁王立ちをする。控えめな胸を張るが、そこには威厳はない。でも、雰囲気は厳格なものがあるように見えた。

 少女は目を見開き、僕を見て声を出す。


「我が名は魔王アウデス! 力を統べる、魔の王なりっ!」


 ……少女の言葉を聞いた時の、その時の僕の思考を、同情などの感情を一切抜きにして表そう。

 痛い子を見つけてしまったようです。それもとても可憐で、とても残念な。

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