2・うみ
うみ
「鳥海空」の名を語る小鳥は暫らくの沈黙の後、口を開いた。
「あの、こんな夜中にごめんなさい…。どうしても、その、伝えたくて…。
自分でも変なの。分かってるの。いままでと違う自分みたいで怖いの。
佐藤君の事考えると、その、何て言うか…。
あの、気がついたら私、鳥になっていたの。解らないけど、私は鳥で、ここに向かって飛んでいるの。おかしいよね、鳥って夜目が利かないはずなのに…。」
「でも、私、会いたかった…。」
「会いたかったの。その、佐藤君に。私の事知ってもらいたくて、自分でも変なのは分かってるんだけど…。
あの、それだけ。それだけなの…。だから気にしないで。
ごめんなさい。あの…本当にごめんなさい。」
一気にまくし立てた小鳥は窓から飛び出し、真一文字に暗闇に飛び去っていった。
気にしないでって…無理だよ。
何なんだよ、お前…。
僕はただ、混乱した頭で小鳥の飛び去った暗闇を見つめるしかなかった。
その夜、夢を見た。
今までにない、奇妙な夢。
ある時、僕は天使と出会う。
それは鳥海だった。
僕は彼女の手を引いて何処かへ逃げてゆく。
またある時は狭い部屋の中。
手錠をかけられた鳥海と、その体を抱きしめる僕。
次々と場面が変わってゆく。
でもその中で変わらないものは、僕と鳥海の存在だった。
機械の体になってしまった鳥海。
彼女に花束を贈る僕。
歌を歌っている。
あのCDの歌。
様々なイメージ。
せき止められていた何かが外れてしまった様に僕の中に流れ込んでくる。
僕は翻弄され、受け止め、そして変化してゆく。
少しづつ、時に急激に。
僕は、前とは違う、僕になってゆく。
そして僕は空になった。
雲を抱き、鳥を抱え、光を与えながら。
目の前に僕がいる。
青い空を映す大きな鏡。
でもどこかが違う。
雰囲気?
色?
風が鏡を掻き乱す。
それは海。
大きな、大きな、海だ。
そしてそれは鳥海。
そうだと確信する。
同じ青。
この世界を構成する青い色。
でも違う青。
深く。
暗く
薄く。
明るく。
僕達は同じ青色。
でも、独立したそれぞれの青色。
海の青と空の青。
僕は鳥海に手を伸ばす。
彼女もそうしてくれている。
でも、届かない互いの手。
僕達はどこまでも広がってゆく。
両手を広げたよりも遠く、遠く。
果てなく、果てしなく広がってゆく。
僕達は地平線の果てまで到達する。
そしてその果てで一つになり。
やがて、僕達は世界を赤く染めた。




