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鳥海空  作者: よしき
1/3

1・とり

とり


「ちょと待って!」

呼んでも振り返りもしない、彼女の肩を反射的に掴んでいた。

彼女は静かに振り向く。

教室で見せるいつもの無表情。

誰かがこんな事を言っていた。

-あいつには感情がないんじゃないか?-

実は僕もそれには同意見だった。

近くで改めて見る彼女の顔は奇麗だと思う。

しかしその顔から感情が表れることは一度もなかったからだ。

やっとの事で振り返った彼女はじっと僕の顔を見る。

真っ直ぐに、僕を射抜くような視線。

まるで、子犬や子供の様な無垢な眼差し。

何故か分からないけどそれが僕の胸を締め付け、言葉を失わせる。

彼女に聞きたい事は山ほどある。

ここ数日の不可解な出来事について。

でも僕の心は躊躇する。

ー何をどう聞けっていうんだ?−

こうやって考えていても、答えなんか出てくるはずもないのだけれど…。











最初は一枚のCDだった。

いつの間にかカバンの中に入れられていた。

中身は聞いた事のない音楽。

奇麗な声の主は不思議な言葉で歌う。

歌詞の意味や、そのジャンルは全然解らない。

でも、懐かしいような、新しいような、不思議な音色。

それを聞いた途端、僕の体の中でパチンと音がした。

そして次の瞬間、僕は涙していた。

意味も理由もなく。

暫らく泣き続けた。

後で気がついたのだが、CDの白いレーベル面に「空」とだけ書かれていた。





それから数日経った頃。

家に帰ると僕の机の上に手紙が置いてあった。

僕宛の封筒で差出人については何も書かれていない。

封を切ると一枚の写真が出てくる。

広い芝生の野原に立っている男女の後姿。

2人は僕らの通う学校の制服を着ている。

気のせいか男の後姿は自分のような気がしてならなかった。

でも、こんな写真を撮った覚えも無いし、隣の長い髪の女性に特に心当たりも無い。

何故こんな写真が送られてきたのだろう?

疑問に思い封筒を見直すと切手が貼られていなかった。

それだけならば、誰かがポストに入れたのだろうと考えられる。

しかし、家族は誰もその封筒の存在すら知らなかったのだ。

となると、誰かが僕の机の上に直接置いていったとしか考えられない。

何かが僕の周りで起こっている。

それだけは分かる。

湧き上がる不安と、胸の中で何かざわめくものを感じる。

でも今は、それが何なのか分からない。

ざわめく胸を押さえながら、何気なく写真を机の引き出しにしまった。





そして昨日の夜の事。

夜中にふと目が覚めた。

いきなりだった。

何かのスイッチが入ったように。

電気を点けようと立ち上がった時。

コツコツ。

窓から小さな音が聞こえた。

カーテンを開けるとそこには小鳥が僕の部屋を覗き込んでいる。

小鳥は何度も窓をくちばしで叩いている。

窓に近づくが逃げる気配を見せない。

僕はそっと窓を開けた。

チョン、チョン、と跳ねるように部屋に入ると羽ばたきグルリと天井近くを回る。

そして机の上に飛び降りた。

その人懐っこさに呆れながら、小鳥を覗き込む。

小さな頭を2度3度傾げ、僕の顔を見上げている。

かわいい仕草に顔がほころんでしまう。


「お前、人が怖くないのかい?」


答えるはずもないのに話し掛ける。

自分でも幼稚な行為だと、顔を赤くしてしまう。

でも。

でも小鳥は、こう答えた。


「ごめんなさい。あの、佐藤…洋一君。私、鳥海なの。同じクラスの…」









-とりうみ そら-

僕は全てを理解した。

まるで数学の公式が当てはまった時の様に。

英単語や文法の全てを思い出し、英文を読めた時の様に。

誰が今までの出来事の犯人なのか。

「鳥海 空」

長い髪をした、おとなしい女の子。

背が低くて、極度のあがり症。

そういえばそんな女の子がいたかな、と言った程度のクラスメート。

疑問が頭に渦巻く。

何故彼女がCDをくれたのか?

どうやって手紙を机の上に置いたのか?

小鳥をどうやって喋らせているのか?

そして、何故こんな事をするのか?

この日から僕の中で「鳥海 空」の名前は特別な物となった。




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