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もんばん!  作者: 黒ぱんだ
第一章「始まりの終わり」
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【第08話】嘘は身を滅ぼします!

〈嘘は身を滅ぼします〉

 学生食堂(カフェテリア)はいつも人気だ。

 白嶺定食(日替わり定食)を始め、定食だけで三十品目から選び放題。和食、洋食、中華、デザートにも豊富なメニューが用意されている。季節でメニューも入れ替わるので食べ飽きることはないだろう。味付けだって文句なしだ。

 全品が四百円以内でカロリーも表記されているので、財布や女性にも優しい。

 育ちざかりの生徒がそれを放置するはずもない。硬貨一枚を握りしめ、食券機に並んだ顔はとても幸せそうだ。


「でもよく席がとれたわね」


 人気に比例して席数は圧倒的に足りない。

 これは設計ミスでなく、ゆったりと過ごすための最適空間が設計されている。


「しかも窓側とはね」

 

 学生食堂では四人、六人、八人の席が各四十組用意されてある。

 間切りに観葉植物を使用しているので息苦しさは感じさせない。グループ使用が便利なことから、かなりの好評を博している。

 特に窓側の人気は高い。

 綿密に計算されたガラスの大窓は、陽光を眩しいと感じさせない。紫外線を屈折させるのでお肌にも優しい。

 学園を眺望するのに、これ以上に最適な場所はないだろう。

 昼休みと同時に確保されるのが常であり、座れずに卒業する生徒も多い。しかし、そんな競争率の激しい窓側の四人席を確保したらしい。


「おーい、こっちだ」


 雪村が手を振りながら呼んでいる。

 別行動した雪村もそれなりの戦果はあったらしい。テーブルの上には戦利品の入った紙袋が鎮座していた。


「ったく、ガキか」

「雪村らしいじゃない?」

「限度ってもんが……ったく、まあいい。で、あいつらに話さないつもりか?」


 心的損傷後ストレス障害の発症は、見過ごせることではない。

 報復のないように忠告(・・)したが、それも確実とは言えない。


「二人に心配させたくないの。それに雪村が知ったら後悔すると思う」


 それは「もしも」の話だ。

 発症の原因が岩水たちにある以上、雪村の別行動は責められることではない。立場が逆でも雪村は信綱を責めないだろう。


「あたしが話すから信綱は適当に合わせて、ね?」

「……分かった」


 円香に強く念押しされては「否」と言えない。


「ありがと。じゃ行こっか?」

「ああ」

「遅かったじゃねぇか。なんか――……なんかあったか?」


 二人の雰囲気を察した雪村が一転して真剣な顔になる。


「……」


 綾音も探るような目を向けてくる。


「ぇえっとぉ~」


 嘘を躊躇わせるほど二人の眼差しは真剣だ。

 心配を喜ぶ半面、強い罪悪感を覚える。

 だが、最終的に必要と割り切った。


「じ、実は自動販売機に――……そう!! 飲み物を買ったら小銭を落としちゃって。あたしドジだから!? そ、それで……ぇぇと困ってたら信綱がこ、小銭を」


 動揺した言動は暗に「何かあった」と示唆している。

 円香に任せたことを早くも信綱は後悔していた。

 すでにフォローできるレベルは超えている。

 普段は嘘を吐かない円香にはこれでも精一杯の嘘なのだ。


「そ、そうよね!?」


 同意を求める目で「誤摩化して」と合図を送ってくる。

 その行為もすでに意味はないが、約束した手前、信綱は頷いて肯定する。


「……ああ」

「でしょ!? だから」


 そんな円香の嘘は、


「ダウト」


 綾音にばっさり切られた。

 

「うぇ!? な、なんで?」

「誤摩化せると思っていたほうに驚きです。円香さんが信綱さんのシャツを握っているのも久々に拝見しました」

「え……あぁぁ!?」


 無意識の行動を指摘され、円香はシャツから手を離す。

 だが時既に遅し。


「これ以上の説明は必要ですか?」

「ぅぅ……」

「ったく」


 信綱は雪村の隣に腰を下ろす。

 そして早々に黙秘権を行使して追求を拒む構えを見せる。


(信綱、逃げたわね!?)


 その対応は間違ってない。

 信綱に黙っておくように頼んだ以上、円香はその行動に感謝こそすれ、文句を言える立場ではない。


(でも、この状況でその対応ってどうなのぉ!?)


 雪村は真剣な面持ちで考えに耽っている。

 暗い雰囲気を吹き飛ばす雪村にそれを望むのは無理がある。どれだけその人柄に救われてきたかを改めて思い知らされた気分だ。


「……ですが、円香さんが『何も無い』と仰るのでしたら、わたしは――わたしと雪村さんはその言葉を信じます」


 だが、場の雰囲気を変えたのは、意外にも綾音だった。

 表情に変化はない。しかし声には「信じる」という想いがはっきりと籠められていた。


「だな。円香と信が言うなら、俺たちは信じるだけだな」


 その言葉に雪村も大きく息を吐きながら同意する。

表情は幾分か柔らかくなり、雪村にしては珍しく苦笑いを浮かべていた。


「はい。でも本当に困ったことがあったら相談して下さい。迷惑に思うほど薄情ではありません。それにわたしたちはその、と、友達です、から」


 綾音はプイッと顔を逸らした。

 肌が白い分、頬の赤みはとても目立つ。

 いつもは毒を吐く綾音の偽らざる本音だった。


「綾音ちゃん――ぎゅ♪っとしていい!?」


 そして、この娘はなにを言い出すのだろう。

 重い雰囲気を彼方に置き去り、円香は目の前の「萌え」に夢中だった。

 綾音が恥ずかしげに頬を染め、照れ隠しに顔を逸らす。

 普段なら絶対に見せない愛らしさ。

 ツンデレのデレる場面に興奮しない信者などいないだろう。

 円香はコンプレックスから逃避するためゲームとアニメに嵌った時期があり、現在も抜け出せずにいる。むしろ年々悪化の一途を辿り、信綱たちを巻き込んで盛り上がれるほどだ。


「そんなことしたら」


 綾音の見せた変化は一瞬のみ。

 頬から紅は失せ、普段と変わらない冷徹な顔に戻る。しかし、目元に残った柔らかさはきっと気のせいではないだろう。

 

「死ぬかもしれませんよ?」

「死!? え、どっちか死んじゃうの!?」

「ふふふ」

「断言しない所が妙にリアルだわ」



昼食が食べられない。

次回は昼食です。


※2014年4月4日(全文差し替え)

※2014年12月17日(本文修正)

※2015年7月24日(本文加筆)

※2016年10月17日(本文修正)

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