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もんばん!  作者: 黒ぱんだ
第一章「始まりの終わり」
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【第02話】暗中模索!

〈暗中模索〉

「――はぁ」


 講義室には円香ひとり。

 渡辺の言葉も半分以上頭に入っていない。 

 糸の切れた人形みたく椅子に腰を落とす。


「ぅん!!」


 気合注入。

 もう一度だけ受け取った用紙に目をとおす。


「……ぁぅ~」


 だが、やはり文面は変わらず。

 最初の一文字たりとも変わっていない。


(ま、まずいわ)


 胃が痛い。

 昼食が近いからではない――多分。


(と、とにかくみんな(・・・)に隠して……ぅぅぁぁぁ、でも、どうしようぅ~)


 思わず頭を抱える。

 紙の隠蔽を最優先だが、その先の事態から逃げる術が浮かんでこない。頭をグシグシと掻くが、金の髪が舞うだけで妙案は浮かばない。


「えーと……前期の期末考査について?」

「!?」


 円香の肩が小さく震える。

 講義室に自分以外の声が響き、懊悩していた円香は現実に引き戻される。

 知らない声ではない。

 明るく張りのある声の主は円香も知っている。


(ど、どうしてここに!?)


 確かに約束はした。

 三限目の履修科目が終わったら全員集合。

 待ち合わせ場所もしっかりと覚えている。

 円香もこの忌々しい用紙を隠匿したら合流しようと思っていた。

 

「……履修言語(英語)の単位基準に達しておらず」


 先と違う不機嫌な低い声。


「明日の正午、追試する旨を通達する……ですか」


 先と違う無機質なアルト声。


(ぁぁ、ぅ!?)


 ゆっくりと振り向く。

 三人の幼馴染みが勢揃いしていた。

 彼らはいつの間にか背後に忍び寄り、円香の置いた用紙を覗き込んでいた。声もかけずに背後を捕る幼馴染みはどうかと思う。 


(た、タイムアップぅぅ!?)


 集合時間は過ぎている。

 待ち合わせ場所まで徒歩3分、余裕綽々に考えていたころが懐かしい。隠蔽ばかりに気が向いて、隠蔽する紙を放置するとは本末転倒であった。


「ったく、集合場所にいねぇと思えば」


 長身の男子生徒――上杉信綱(うえすぎ・のぶつな)が不機嫌そうに顔を(しか)める。

 第一印象で誤解を受けやすいが、これで信義に厚く、面倒見の良い好青年だ。

 円香の「白嶺学園に入学したい」という無茶な願いを徹頭徹尾、最後まで付き合ったのが何よりの証拠だ。

 だが入学から三ヶ月、幼馴染み以外の理解者を得られていない。


「あんま心配させんな」


 信綱はネクタイを緩めながら安堵の息を吐く。

 男子の制服は白のカッターシャツと黒のストレートスラックス。学年で色分けされたスクールネクタイのみである。

 女子に比べ随分シンプルだ。

 是正の声も出たが、橘京介に「男の制服などつまらん」と一蹴されたらしい。


(のぶ)の心配性はいつものことだけどさ。今日はちょっと遅いからな」


 男子生徒――鋼雪村(はがね・ゆきむら)が講義机に腰を下ろして笑う。

 自由奔放な性格と破天荒な行動力に全員がよく振り回される。

 だが、全員の方向をまとめるリーダーでもある。


「ったく、誰が心配性だ」

「だから信のこと。さっきの待ち合わせ場所でも睨み利かせてたじゃん。心配性じゃねえって言われても信じられねぇよ」

「好きに言ってろ」

「お、認めた」

「うるせ」


 信綱が右手で頭をガシガシと掻いた。

 これは信綱が照れ隠しをするときの癖である。苛立っているようにも見えるので、知らない人間が見れば誤解するのも当然だろう。


「――と言ってますが、初めに『様子見に行こう』と言い出したのは雪村さんです。わたしにすればどちらも心配性ですね」


 黒髪の女子生徒――鷹崎綾音(たかさき・あやね)の澄んだ声が割り込んできた。

 物事を俯瞰で見るような部分があり、自分を他人事のように扱うこともある。声の起伏が乏しいことから、感情を読み取ることも難しい。


「仲間を心配すんのは当然だろ?」

「……そうですね」


 昔は他人に興味を抱かなかったが、円香たちとの付き合いで少しずつ変わってきている。

 相変わらず言葉に少々の毒は混ざるが、実際は優しい女の子である。


「綾音ちゃんも心配してくれたの?」

「わたしの日課は円香さんをイジることですから」


 たぶん。


登場人物紹介も兼ねてます。

次から物語が半歩進む予定です。


※2014年3月12日(全文差し替え)

※2014年11月24日(本文修正)

※2015年7月23日(本文加筆)

※2016年10月16日(本文修正)

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