ようかいのおうち
バイクのぐるぐるは次第にゆっくりになり、やがて止まった。
バイクようかい男はバイクを降りると沙織をおんぶした。
「ようかいさん…」
沙織は小さな声で話し掛けた。
「あ、俺?そっかぁ、俺はようかいに見えたか。まあ君を誘拐したくらいだからね」
男は嬉しそうに大口を開けて笑う。
「ゆうかい?」
沙織が首をかしげる。
「誘拐の意味知らないかな?」
男はそう言うとドアを開けた。
中には女が煙草をふかして立っていた。
沙織にはようかいけむり女に見えた。
「ハローマイベイビー!」
ようかいけむり女は沙織を見るなり微笑んで、男と沙織を同時に抱き締めた。
甘い葡萄の香りと、苦い煙が3人を包む。
「ようこそ伊藤家へ!あなたは今日から家族よ」
女は煙草をくわえたままそう言った。
「家族…?」
沙織には状況がわからなかった。
「おうちに帰りたくないんだろ?じゃあそんなおうち帰る必要なんてないよ。帰りたいうちに来ればいい。そう思って君を誘拐、さらったんだ」
男は笑顔を絶やさない。
沙織は呆然としたが、男の言葉に納得した。
この人達ならずっと一緒にいてくれるかもしれない、と。
「あたしは美夏。あなたのお母さんになるね!みーちゃんでいいよ」
美夏は笑顔で言った。
「俺は千秋。ちあきって呼んでね。お父さんかあー」
千秋も沙織の隣で微笑む。
「あたしは…」
「小春ね」
美夏は沙織の発言を遮った。
「あなたがどんな名前か知らないけど、今日から伊藤家に来たんだもの。今日から小春ちゃんね」
美夏は長い髪を束ね直しながら言った。
「小春…」
沙織は少し複雑な気持ちもあったが、なぜかおうちにいるよりも安心した。