よりみち
学校へいくと、沙織の机がなかった。
いつものことのように沙織は廊下にある机を教室に運んだ。
「沙織ちゃん、おはよう」
声をかけたのは沙織の隣に座る優子だった。
「おはよう」
沙織は笑顔をつくった。
「どうして沙織ちゃんの机は毎日ろうかにあるのかなあ?」
優子が困った顔をする。
「たぶんあたしが悪い子だからだよ…」
沙織がうつむく。
「そんなことないよ!」
後ろから駿が沙織に言う。
「駿くん…」
沙織が駿を見ると、優子は沙織を睨んだ。
こんな1日にうんざりする沙織だったが、今日は午前授業だったため沙織はママに会える喜びと悲しさを歌いながら通学路を帰る。
「帰りたくないなあ…」
思わず口に出た沙織の言葉を、通りすぎたバイクの運転手が耳にした。
バイクは一度引き返し、沙織の元へ戻ってきた。
「ねぇねぇ、帰りたくないの?」
バイクを止め、沙織に話し掛ける。
「…」
沙織は黙って歩き続ける。
バイクから降りた男も一緒に隣を歩く。
しばらく2人は黙って歩き続けた。
「ねぇ、誘拐していい?」
「え?」
男は沙織の返事を待たずに沙織にヘルメットを被せ、自分のうしろに乗せるとバイクを走らせた。
「自転車もまだ乗れないのに…」
沙織はうしろでそっと呟いた。