かげ
こはるはやさしく千秋の目を見つめた。
「千秋くんは誰からやさしさとか教えてもらったの?」
こはるのまっすぐな言葉に、千秋は泣き崩れた。
こはるは驚いて、とりあえず千秋に駆け寄った。
こはるを抱き寄せた千秋の体温は温かかった。
人って誰でも温かい。
なのに、その温かさに気付ける人って多くないんじゃないかな。
気付けたこはるはしあわせだなと、静かに思った。
ママはどんな温度だったかな…
こはるがママを想う頃、千秋は自分の母親を想っていた。
「おかあさーん!待ってー!」
幼い千秋が母親に駆け寄ると、母親は両手を広げて千秋を包み込んだ。
その瞬間、場面は変わり、母親は泣いている。
「千秋がそんなことするはずない…」
まわりの大人はきつねの目で口はカラスになり母親を見つめる。
「やめて…やめてくれ…!お母さんは何も悪くないんだ!」
千秋はそう叫ぶと我に返った。
「千秋くん…どうしたの?」
「ごめん!今な、頭の中でお母さんと会ってたんだ」
「頭の中?お母さんには会えないの?」
「生きてると思うけど、会っちゃいけないんだよ」
こはるはよくわからないがとても悲しい気持ちになった。
千秋くんはお母さんに会いたくても会えない。
こはるは…会いたいのかな?
こはると千秋くんは二人ともお母さんに会いたいのかな?
「なんで会っちゃいけないかわかる?俺に会ったらお母さん悪口言われちゃうんだよ。犯罪者育てた母親ってな」
千秋の影はあきらめとさみしさを映していた。
「犯罪ってなーに?」
無垢な瞳は千秋を見つめる。
「こはるはまだ小学2年生だもんな、わからないよな。俺2年前、人を殺したってことにされちまったんだ。つまりそれが犯罪者っていうんだ。殺してなんかないのに、みんな信じてくれないんだ。マスコミが俺を犯罪者に仕立てあげて、みんなを信じさせるんだ!だからテレビは嫌いなんだよ!」
表情を重くする千秋に、こはるは少し恐怖を感じた。