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なみだ
しばらくするとバイクは川原に止まった。
千秋はこはるの手をやさしく包み、歩き出した。
何も言葉をくれない千秋が心配になり上を見上げた。
すると千秋の目には雫が数滴流れていた。
こはるは驚いて尋ねてみた。
「どうして泣いてるの?」
千秋はいつものやさしい笑顔でこはるを見つめて話した。
「こはる、なみだって知ってる?こはるはきっとなみだを知らないよね。でも笑うことも知らないだろ?それはきっと親を見て育ってきたからだ」
「何を言ってるのか難しくてわからないよ」
「こはるは怒ることも知らなければ悲しいことも知らない。甘えることもできない。」
そう言うと千秋はこはるを強く抱き締めた。
「でもおまえはやさしさの天才だ。誰にも教わってないはずなのに知ってる」
こはるは千秋の腕をほどいた。
「あたしは天才なんかじゃない。ママがやさしいからきっとやさしいんだよ。ママはいつもあたしがさみしくないようにって昔から毎日クッキーを焼いてくれてたよ」
千秋はこはるの瞳を見て驚いた。
そこには初めて色が彩られていた。
そして同時に、千秋の瞳も色を取り戻しつつあった。