包囲された町――先に守るもの
城塞町ダナンで、衛生騎士ミレイは封蝋の欠けた命令書を拾った。小さな品だったが、今朝届いた報告と合わない。団長セルディオンはこの場にいない。それでも騎士団では、見過ごした者が身分に関係なく記録へ名を残す。衛生騎士ミレイは拾得時刻と場所を書き、推測を欄外へ分けた。
今回の任務は、敵味方が混在する町で、市民を一人も斬らず包囲を解く方法を探すことにある。王命直轄という言葉を、貴族の命令を何でも通す印だと思う者は多い。だが副官エレナは、新兵へ最初に教える。王が団長へ預けたのは特権ではなく、誰の圧力にも順番を曲げず民を守る責任なのだと。
南方反乱軍の動きが見えたとき、城下のパン職人ハンナは剣を抜かなかった。先に数えたのは退路にいる住民、荷車、負傷者だった。敵を倒すだけなら早い。しかし乱戦にすれば、勝った側の足元に無関係な死者が残る。セルディオンが嫌う勝利だ。そこで二人は、命令書と現場の食い違いを見つけるための手を組み直した。
現場では反発も起きた。貴族の使者は面子を叫び、若い兵は功を焦った。古参兵バルドは声を荒らげず、空いた鞘を地面へ置く。「団長なら誰を斬るかではない。誰を斬らずに済ませるかから考える」。その一言で、兵たちは狭かった視野を広げた。
夕刻、作戦は成功だけでは終わらなかった。逃げた者があり、失われた証拠もある。それでも避難列は欠けず、市民の名は死者名簿へ移らなかった。衛生騎士ミレイは喜ぶ前に人数を三度数えた。
回収した記録には、地下水の鉄臭さが残っていた。それはこの事件だけで完結せず、王都の内側へ続いている。エレナは封をし、団長への直送箱へ収めた。
「判断を仰ぐのですか」
「違う。私たちが何を守ったか、報告するの」




