地下の生存者――閉じた鉄扉
セレス水門で、伝令兵セラは番号だけの収容者名簿を見つけた。団長セルディオンが前線にいなくても、騎士団は討ち取った数より、家へ帰せる人数を先に数えた。誰の圧力にも民を守る順番を曲げない責任だった。
偽王命に従う地方隊が通路を塞いだとき、工兵長ガレスは剣を抜く前に退路を調べた。敵を倒すだけなら進める。しかし狭い場所で斬り合えば、救出を待つ者と武器を捨てた兵まで巻き込む。工兵が別路を開き、衛生騎士が敵味方を分けず重傷者へ札を付けた。
反発する兵へ、古参兵バルドは空の鞘を示した。「団長なら誰を斬るかではない。誰を斬らずに済ませるかから考える」。若い兵は功を急ぐ足を止め、避難列の最後尾へ回った。騎士の仕事は、大太刀の一撃を真似ることではない。その一撃が必要になる前に、守れる命を拾い切ることだった。
回収した番号だけの収容者名簿には、事実と噂が混ざっていた。伝令兵セラは推測を別欄へ移し、確認できない部分を空白のまま残した。空白を物語で埋めれば、偽王命を作った者と同じになる。
夕刻、作戦は完勝では終わらなかった。逃げた責任者も、失われた証拠もある。それでも避難列は欠けず、降伏した一般兵も処刑場へ送られなかった。町の人々が呼んだのは英雄の名ではなく、帰ってきた家族の名だった。エレナはそれでよいと思った。
「団長へ判断を預けますか」
「違う。私たちが何を守ったか報告するの」
工兵長ガレスは民間被害なしと最初の行へ書いた。その下に、次の事件へ続く番号だけの収容者名簿の写しを封じる。街道で大太刀の鞘が鳴ったという噂が届き、古参は笑ったが、新兵はもう威圧だけを強さとは思わなかった。団長が不在でも同じ順番を選べる者が増えること。セルディオンが王国へ残そうとしている騎士の形だった。




