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王位を捨てた最強騎士団長は、大太刀一本で王国の民を守る  作者: 竜太郎


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百話目の王命

セルディオンが平原へ踏み込むと、騒いでいた軍馬が一斉に首を垂れた。圧に耐えられない兵が膝をつく中、古参兵だけが呼吸を合わせて進路を空けた。

 今回の任務は、団長が再び前線へ現れ、崩れた軍を威圧だけで立て直すことにある。王命直轄という言葉を、貴族の命令を何でも通す印だと思う者は多い。だが副官エレナは、新兵へ最初に教える。王が団長へ預けたのは特権ではなく、誰の圧力にも順番を曲げず民を守る責任なのだと。

 鉄壁公軍の動きが見えたとき、古参兵バルドは剣を抜かなかった。先に数えたのは退路にいる住民、荷車、負傷者だった。敵を倒すだけなら早い。しかし乱戦にすれば、勝った側の足元に無関係な死者が残る。セルディオンが嫌う勝利だ。そこで二人は、次の区間へつながる事実を残すための手を組み直した。

 現場では反発も起きた。貴族の使者は面子を叫び、若い兵は功を焦った。古参兵バルドは声を荒らげず、空いた鞘を地面へ置く。「団長なら誰を斬るかではない。誰を斬らずに済ませるかから考える」。その一言で、兵たちは狭かった視野を広げた。

 夕刻、作戦は成功だけでは終わらなかった。逃げた者があり、失われた証拠もある。それでも避難列は欠けず、市民の名は死者名簿へ移らなかった。伝令兵セラは喜ぶ前に人数を三度数えた。騎士団が誇るべきものは討ち取った数ではなく、家へ帰せた数だと知り始めていた。

 回収した記録には、軍用ではない細縄が残っていた。それはこの事件だけで完結せず、王都の内側へ続いている。エレナは封をし、団長への直送箱へ収めた。

「判断を仰ぐのですか」

「違う。私たちが何を守ったか、報告するの」

 第100話の記録には、勝敗より先に、民間被害なしと書かれた。

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