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5月27日 08:12(木)

 携帯のアラーム音がうるさい。まだ眠い…と、枕に顔を押し付けたまま手探りで携帯を探し当てる。眠い、まだ眠い…ところで今何時。僅かな理性で目を開けて大きな携帯のサブディスプレイを見ると、うん、ばっちり目が覚めた。目が覚めただけならまだいい、心臓が口から飛び出た。やばい、遅刻する。起こられる。今度こそ単位やべえよ。


 二段ベッドからソッコー飛び降りて顔を洗いに風呂場に走ると、風呂場の洗面台から昨夜戻ってきたときから続く生臭さが鼻についた。


 先日、妹に部屋を貸したのだ。俺はその日はちょうど友達のカラオケの予定だったから、普通に貸してしまった。けれど、今は少し後悔している。そうだ、貸す前に俺もちょっと考えれば良かったんだよな。理由を尋ねたら、友達とお泊り会をしたいという。へえそうじゃあいいですよ、と快く明け渡したが、よくよく考えればお泊り会は実家でやればよくね?と気づいたのは時すでに遅し、俺が家に帰ってきてからなのだ。妹は17歳、まあ、年頃ですよね。年頃の娘が部屋借りたいって言ってね、うん、油断をしていたね、俺は。帰ってきたらこの生臭さですよ、すぐにピンと来て怒りのメールを妹に送ったけれど、当然の如く返信はなかった。ですよねー、ラブホ代わりに使っちゃったとか、言えませんよねー。


 夜中に生まれた行き場のない怒りは、今朝になるとすっかりと冷え込んでいた。落胆のため息しか出ない。そのままに、冷たい水で顔を洗う。髭も剃って、石鹸を落とす。全て洗い終えた後、綺麗に剃れたか鏡を見る。


「うーん、いい男」


 自分で呟いてにやにやした。俺以外にこれは誰も言ってくれないのだ。

 暫く髭の剃り残しチェックをしていると、ふと、鏡の中に違和感を感じた。鏡がやたら黒っぽいのだ。汚れか?と思って指を鏡に滑らせるけれども、消えない。いつの間にか黒ずんだ鏡を不審に思いつつ、風呂場を後にした時であった。ふと排水溝に目をやると、無数の黒い髪が詰まっていた。はあ、ともう一つため息を吐き、風呂場を出た。ヤる前の身支度も俺の家かよ、ガチラブホか、勘弁しろよ。部屋着のTシャツを脱ぎ捨てた。





 ぎりぎりながらも授業の部屋につくと、すでに友人の今井が一番後ろに席を取っていた。


「おはよう」


 その隣の席に座り、今井に声を掛けるが今井はドンシカト。恐らく機嫌が悪いんだろう、俺などに目もくれず、無表情で本を読んでいる。機嫌が悪いとこいつは絶対に俺と話してはくれないのだ。こういう時は、俺が何を話しかけても俺の独り言に終わってしまうので、機嫌が自然に治るまでなるべく話しかけないようにしよう、と苦笑いを浮かべて鞄を床に置いた時だった。


「…君、昨日やたらうるさかったよね?」


 今井の方が先に口を開いてくれたことに、驚く。が、恐らくこれは機嫌が治ったんでもなんでもなくて、恐らく、俺に文句を言うためだけに口を開いたんだろう。そしてその節も思い当たる。今井は俺の部屋のすぐ隣の部屋の住人なのだ。


「あー…うーん…そう、だったのか?」

「キャーキャーうるさかった」

「…キャーキャー言ってたのか…」

「…君じゃなかったの」

「おめー俺はキャーキャー言わねーよ」

「は?ちげーよ…はい?君は昨日家にいなかったの?」

「あー…そう、妹に部屋貸してたんだ」


 ラブホ代わりにされたんですよ…と小さく付け加えると、今井はにやっと笑った。


「ざまあ。で?妹は乱交でもしてたの」

「は!?」

「すっっごいうるさかった。あれは女2、3人いたね」

「ま、マジでか…もうやだ…高校生の性は乱れてるな…」

「井坂くんはもうちょっと色々考えてから行動した方がいいと思います」


 もう色々ぼろぼろだ。妹の貞操が、というのも勿論、いや、俺は妹の云々に口出す気はないけれども、部屋をラブホ代わりに使われたとか、お兄ちゃんのライフはゼロですよ。

 項垂れた俺には、今井がぼそりと言った言葉は聞き取れなった。



「まあ、4時頃にはピタリと止んで、もの音一つしなかったんだけどね」



 ななみ、許さん…。





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