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5月28日 03:12(金)

幼い頃から霊感があるとかないとか。いや、そんなことはどうでもいいんだけど、何かそういった類に敏感なようで、墓場の近くとか曰く付きの場所だとかに近づくと必ず体調を崩した。



 胃が痛い。

 昨日もそうだ。3時を回ったあたりから胃がキリキリと痛むのだ。気分が悪い。先程の井坂のぱにくった発言が気になるが、もう俺は寝てしまいたかった。井坂が出て行く時に不穏な気配を感じた(こういうと非常に中二病臭い)から、呼び止めようと思ったけれど、基本的に厄介事は嫌いなので華麗にスルーしたが。

 それよりも、井坂の持っていった包丁の方が気がかりだった。ちゃんと返して貰えるんだろうか、ということと、包丁片手にドアの前とかに立ってるのを人に見られたら、色んな意味で勘違いされんじゃね?くだらないことばかり考えずに、さっさと寝てしまおうと目を閉じた。



 が、一つ、不思議なことがある。

 隣の部屋から、全く物音がしなくなったのだ。いつもなら、それなりに生活音が聞こえるもんだが。ドアを開ける音、閉める音はデフォ。それが、全く聞こえない。嫌な予感がした。


 もしかして、殺されてんじゃね?





「しかし、第一発見者が疑われるとか理不尽すぎるよな…」


 仮に泥棒だったとして、そいつに殺されてたとかね、で、まだ家にいて、俺も殺されてしまうとか。うわ、最悪だろ…と思いつつ、薄い黒のカーディガンを羽織りながら部屋を出て、サンダルを履く俺。マジ感謝しろよ。音のない井坂に心の中で唾を吐いた。しかし不思議なくらい物音がしない。


 部屋を出て、すぐ隣の301号室の前に立つ。が、物音はしない…か?

 とりあえずまだ中に犯人とかがいたら嫌なので、ドアに耳を当てたが、何も聞こえない。と、思ったら、微かな足音が聞こえた。井坂か?それとも犯人か?と首を傾げるのも束の間、耳障りな金属音。ガチャガチャガチャ、と微かにドアノブが動く。反射的に身をびくつかせた。


「井坂?」


 ドアの前で呟くも聞こえる筈がない。その尋常じゃない動きに、身の危険を察知した。鳩尾がぐっと痛む。気持ち悪くなってきた。しかし、その途端、中から微かに声が聞こえた気がして、ぱっとドアに耳を当てる。


『…ッ、…なんでッ…!?』


 確かに井坂の声だ。しかし、そのドアノブの金属音でかき消されて、何を言っているのか聞き取れない。鍵も回しているようで、鍵の開閉する音が繰り返し繰り返し聞こえるも、ドアが開く気配がない。井坂が中で何か喚いている。…ドアを、開けようとしてる?


「井坂、オイ、井坂!聞こえるか!」


 ドアを叩くも、反応はない。ひたすらドアノブの音、井坂の喚き声。どうしたんだ、警察か?警察を呼ぶか?と思った瞬間、ピタリ、とその音が止んだ。


「井坂…オイ、井坂…?」


 呼びかけるが、返答もナシ。

 念のためにドアノブに手をかけたが、鍵が開いていないようで開かない。どうするか、と思った時、声が聞こえた。


『ッい、いまい…今井…ッ!』

「井坂!?」


 気づいたか!とドンドンとドアを叩くも、井坂は錯乱したかのように声を張り上げるだけ。


『助けてくれッ!今井、今井ッ!』

「いるっつの!どうしたんだよ!オイ!聞こえてんのか!」


 思わず深夜だというのに声を張り上げた。が、井坂は反応しない。聞こえてないのか。様子がおかしいのは明らかだ。ひたすら、ドアを叩く。が、だんだん、だんだんと気持ちが悪くなっていく。吐き気がして、その次に頭がくらっとして、思わずコンクリートに膝をついた。迫りあがるような気持ち悪さ、眩暈。それは、墓場だとかに近づいた時と同じ。


 心の中で勘付いてはいたが、雰囲気に負けた精神的なもんだろうし、何よりこの歳で幽霊とかそういう類を信じるのも馬鹿馬鹿しくて考えようとはしなかった、が…この部屋には間違いなく何かいる。変だ、気持ち悪い。ずるずるとドアに寄りかかった。井坂の喚き声が聞こえる、が、それも遠く、遠く―…




『さ…最初の鬼はッ、い、井坂弘毅だから!』




 突如としてその声が耳元でクリアに聞こえて、はっと我に返る。井坂が何かを叫んでいる。眩暈が引いている。声がはっきりと聞こえたのは、そうか、ドアに寄りかかって座った俺の耳元にポストがあるからだ。除き防止の屋根が付けられたそこからは、中は見えないが音は十分に聞こえる。

 震えた声が叫んでいる。誰に?…鬼?鬼って、何のことだ。とうとう頭がいかれたのか?と思う矢先に、ふっとあることを思い出す。井坂がしゃべっていたことだ。



  なあ、ひとりかくれんぼって、知ってるか



 一方的に話し出した井坂の話を相槌も打たずに聞いていたが、気味の悪い話だったのだけが印象的で、その中に、そんなくだりが…。



  実行手順2

  3時になったら『最初の鬼は○○(自分の名前)だから』

  とぬいぐるみに向って3回言う


 

 はっと気付いて、俺は、気持ち悪さを残す体を起こして、ドアを叩いた。嘘だろ。バカか!


「井坂!やめろ!ばかか!」


ドンドンとドアを叩くが、井坂は繰り返す。




『最初の鬼は、井坂弘毅だか、ら…!』




 2回目を言う。聞こえていねーのかよ!もどかしさにドアを叩きまくるが、ついに、




『最初の鬼は、井坂、弘毅っ…!』






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