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君が来た

作者: 小雨川蛙
掲載日:2026/01/21

 

 その日。

 君が来た。


「やぁ」


 君はにこやかに僕へ手を振る。

 僕はそれを無視する。


「酷いね。無視するんだ」


 君はそう言って僕の隣に立ち、そして僕と共に見下ろす。

 横たわる一人の少年。

 まるで、眠っているようだ。


「綺麗だね」


 僕は君が大嫌いだ。


「まだ若いのに」


 本当に大嫌いだ。

 存在を無視し続けたいと思うほどに。


「それなのに。どうして死んじゃうんだろう」

「お前が連れて行くからだろう」


 僕の声は周りの人に聞こえはしないだろう。


 僕がマスクをしているからではない。

 僕の周りで様々な音がしているからではない。

 僕に協力している医師や看護師の全てが何も見えず、聞こえないほどに真剣だからでもない。


「私だってしたくないよ。こんなこと」


 君が死神だからだ。

 そして、僕の声は口を動かさずに君へ届いているからだ。


「それなのに、これが役割なんだ」


 手術室。

 瀬戸際。

 正念場。


 その中で君は一人泣いていた。

 少年を助けようとする僕らの前でさめざめと。


「先生! 心音が!」


 聞こえた言葉に僕は言葉を返す。


「焦るな」


 僕自身に言い聞かせるように。


「無理だよ。わかっているでしょ? 私が来たってことは……」


 君の声が響く。


 腹立たしく泣きながら。

 哀れにも泣きながら。

 惨めにも泣きながら。


「必ず助ける」


 僕は呟いた。

 声に出して。


「はい!」


 僕の周りに居た看護師と医師が力強く頷いた。

 その中で――。


「信じてほしい」


 君は呟いた。


「私。あなたみたいな人、大好きだよ」





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