君が来た
その日。
君が来た。
「やぁ」
君はにこやかに僕へ手を振る。
僕はそれを無視する。
「酷いね。無視するんだ」
君はそう言って僕の隣に立ち、そして僕と共に見下ろす。
横たわる一人の少年。
まるで、眠っているようだ。
「綺麗だね」
僕は君が大嫌いだ。
「まだ若いのに」
本当に大嫌いだ。
存在を無視し続けたいと思うほどに。
「それなのに。どうして死んじゃうんだろう」
「お前が連れて行くからだろう」
僕の声は周りの人に聞こえはしないだろう。
僕がマスクをしているからではない。
僕の周りで様々な音がしているからではない。
僕に協力している医師や看護師の全てが何も見えず、聞こえないほどに真剣だからでもない。
「私だってしたくないよ。こんなこと」
君が死神だからだ。
そして、僕の声は口を動かさずに君へ届いているからだ。
「それなのに、これが役割なんだ」
手術室。
瀬戸際。
正念場。
その中で君は一人泣いていた。
少年を助けようとする僕らの前でさめざめと。
「先生! 心音が!」
聞こえた言葉に僕は言葉を返す。
「焦るな」
僕自身に言い聞かせるように。
「無理だよ。わかっているでしょ? 私が来たってことは……」
君の声が響く。
腹立たしく泣きながら。
哀れにも泣きながら。
惨めにも泣きながら。
「必ず助ける」
僕は呟いた。
声に出して。
「はい!」
僕の周りに居た看護師と医師が力強く頷いた。
その中で――。
「信じてほしい」
君は呟いた。
「私。あなたみたいな人、大好きだよ」




