橋の上の中央部
橋は一本しかなかった。
村の外に出るには、その橋を渡る必要があった。
渡った先に何があるのかは、誰も知らなかい。
戻ってきた者がいなかったからだ。
それでも、人々は毎朝、橋の前に立った。
渡るかどうかを決めるためではなかった。
立つことが習慣だった。立てば一日が始まった。
橋は不思議だった。
渡ろうとすると、足が重くなる。
戻ろうとすると、背中が引かれた。
進んでも、下がっても、同じ感触が残った。
村には「選ぶ」という言葉がなかった。
その代わりに、「立つ」という言葉があった。
橋の前に立つことを、そう呼んでいた。
ある日、一人の人が橋の中央まで行った。
進んだつもりはなかった。ただ、立ち続けていたら、そこにいた。
村の人々は何も言わなかった。
中央にいることと、手前にいることの違いを、誰も説明できなかったからだ。
その人は、向こう岸を見た。
何もなかった。
こちら岸を見た。
やはり何もなかった。
橋だけが、そこにあった。
しばらくして、その人は座り込んだ。
立つのをやめただけだった。前にも後ろにも動かなかった。
夕方になり、村に戻る者が現れた。
橋の前に立ち、いつも通り一日を終えた。
中央に座る人のことは、誰も話題にしなかった。
夜、橋の上にいた人は眠った。
落ちることはなかった。渡ることもなかった。
翌朝、橋の前に立つ人は一人増えた。
中央に座っていた人と、区別がつかなかった。
橋は相変わらず一本だった。
渡られた形跡はなかった。
戻られた形跡もなかった。
誰かが言った。今日は選択が多い、と。
その言葉が何を指しているのか、橋は何も答えなかった。




