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上着を脱いで名札を付けて身だしなみを整えている音都を見てから、店長室へと顔を向ける。
小さくノックをすると、中から雅の優しい声が返ってきた。
そっと開けて中を覗く。
雅はパソコンと用紙を見て、丁寧な字で書き込んだりと業務をこなしていた。
「由良か。
休みなのにどうした?酔いは良いのか?」
手を止めて真っ直ぐ見てくる雅に由良はドキリとした。
「あ…合鍵を。返しに来たのよ。
何かと困るんじゃないかと思って」
棘のある言い方になっていないか、焦りながらポケットから鍵を取り出す。
「わざわざ持ってきたのか。」
目を細めて雅は笑って鍵を受け取る。
「特に急ぎとかじゃないから無理せずとも良かったんだがな…。由良に余計な気を遣わせたか?」
「そうなの?だって彼女…
彼女とか居たら渡せないじゃないの…」
雅は目をパチクリさせた。
そして、あ、と小さく声を零した。
「ふ…、さては写真を見たな?」
「うっ!…ごめんなさい、つい…
可愛い子よね?どのくらい付き合ってるのかしら?」
「…。…さあ、長い事いたから」
由良の胸がズキリと痛む。
軽く胸を抑えて雅を見る。
しかし雅は口元を手で隠して声を殺して笑っていた。
「な、何が可笑しいの、かしら…」
「ふふ…すまない。
あの写真の相手は妹だ。」
「へ?」
素っ頓狂な声が出てしまう。
目も丸くして雅を呆けた顔で見ていた由良だが、ギュ、と手を握る。
「ひ、酷いじゃないのっ騙すなんて」
「由良が勝手に私物を見たから、その仕返しだ」
口角上げて意地悪げに笑う雅。
由良は目を奪われながらも、安堵の溜息をついた。
「な、何よ。ほんと気を遣って損しちゃったわっ」
頬を赤らめながら顔を背け口を尖らせる由良。
「ふふ…。しかし、もう少し家でゆっくりしていても良かったんだぞ?夕飯くらいまで居るのかと思っていた」
「…あたしに待っていて欲しかったの?
何だかそう聞こえちゃったけど…」
「ん?そうだな。由良とは話も合うし楽しいしな。
それに正直、体調を心配していた。」
由良は顔をこれでもかと赤く染めてしまう。
なによ、それ。
そんな事言われたら期待しちゃうじゃない。
雅ちゃんの馬鹿。
あたしの胸をこれ以上苦しませないでよ。
雅は由良を見上げていたが、不意に立ち上がると由良の頬に手を添えた。
「み…」
「ほら、顔が赤いし熱い。万全でも無いのに出歩くからだ。…一人暮らしか?」
由良はこくりと頷く。
「何か作ってやる、今日も泊まっていいから先に俺の家で休んでいた方が良い。」
由良は足元がふらつきそうになるのを我慢して、雅の提案にのった。
そして再び合鍵を握らされると帰っているように促される。
由良は改めて、雅が好きだと感じた。