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写真をダンボールにしまい、由良は乾いている自分の服を着ていく。
先程まで、同棲みたいだと浮かれていたのも嘘のように今は沈んだ顔をしていた。
「雅ちゃん…」
けれど、心の中の好きと言う感情は消えてくれなかった。
由良はベッドを直して部屋を見渡した後、玄関の扉を閉めた。
鍵を締めると、その鍵を見つめる。
この鍵はあの写真の子が持つ事になるのかしら…
眉を下げて諦めにも近い笑みを浮かべ、由良はエレベーターから一階へと降りていく。
あんなに素敵な人、もう会えない。
雅のマンションを見上げた後ゆっくりと店の方へと歩いていく。
「でも、恋人いるのに何でこんなに優しくするのよ…誰だって勘違いしちゃうわよ。
私が男だから、そうは思わなかったのかしら…」
小さく溜息をつく。
すると後ろから軽く肩を叩かれた。
振り返ると同じ社員の巴 音都が立っていた。
「やっぱり、由良さん
具合の方は大丈夫?」
ふわふわした髪をした音都は由良を見上げて心配そうにしていた。
「音都ちゃん。大丈夫よ、ありがとう。
今日は午後出勤?」
「うん。由良さんは休みだったよね?」
「…雅ちゃんに用があってね」
音都は隣に並んで由良と歩く。
「雅さん、カッコよかったよ。由良さんを抱きかかえて帰っていく姿。」
「そう、なの…
恥ずかしいわ、酔い潰れちゃって」
音都の格好良いと言った、雅の姿は容易に想像できた。その感触を覚えていたら良かったのにと後悔する。
あ…そういえば、連絡先聞くの忘れたわ。
由良は思い出したように、ハッとするが直ぐに思い直す。
彼女のいる男に個人的な連絡先を聞いても…惨めなだけだと。
「ね、由良さん」
音都は立ち止まり由良の袖を掴む。
「雅さんの事、好きなの?」
「え…」
ドキリとしながら音都を見下ろす。
音都は目を伏せていた。
長い睫毛が綺麗で、音都もまた繊細な印象を持たせる男性だった。
由良はゴクリと喉を鳴らす。
「な、何言ってるのよ…音都ちゃんたら」
「分かるよ、だって…」
由良は音都の手が震えているのに気付く。
頬も微かに紅潮させて一向に視線を合わせなかった。
「僕は…、由良さんの事…
ずっと見てきたから」
音都は顔を上げて真っ直ぐと由良を見つめた。
思わずその視線に目を奪われてしまう。
こんな事は初めてだった。
音都が自分のことを?いつから?
見てきたって…告白なのかしら…
由良は音都の本心を全部読めずにいた。
「お、音都ちゃん…。
年上をからかうもんじゃないわよ?
貴方、可愛いから誤解されちゃうわよ」
少し引きつっていたかもしれない。
由良は精一杯、気持ちを抑えて笑ってみせた。
音都は暫く見つめていたが、小さく笑って、ごめんねと言葉を発した。
「職場着いたね。
じゃあ、僕は支度するから」
柔らかく笑う音都から目を離せずにいた由良だった。