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「あの、由良さん!」
社員が帰り支度をしている由良を引き止めた。
何かしら、と振り返る。
「店長の歓迎会しませんか?
それで…由良さんに仕切ってもらいたくて…」
「あら、…良いじゃないの。良いわよ」
実は自分も雅の歓迎会をしたかった。
雅の意外な一面も見られたりして…という思いもあった。それに連絡先も仕事用ではなく、個人的に知りたかった。
「雅ちゃん、今夜空いてるかしら?」
「今夜?また急だな。
空いてるがどうした?」
歓迎会の事を言うと二つ返事で承諾してくれた。
由良はいつも行くお洒落な場所を選び、社員達に歓迎会の事を伝えた。
歓迎会は成功だった。
一日だけだったが店長である雅の仕事の出来具合、器の大きさ、そしてなんと言っても容姿端麗な彼に皆は心を許し、興味を持っていた。
質問攻めになっている雅を遠目に見ている由良。
なによ、あたしとも話しなさいよね…
一人カクテルを何杯も飲んでしまう。
「由良さん、飲み過ぎですよ?」
「音都ちゃ〜ん、良いのよ〜、飲みたい気分だったんだもの」
音都は苦笑いして水を差し出してきた。
「雅さん、人気ですね」
見破られてしまったのか分からないが、由良は必死に嫉妬心を引っ込めようとしていた。
「音都ちゃんも雅ちゃんのとこ行ってきたら?」
「あ、それ…」
近くのグラスを一気に飲み干すと目の前がクルクルと回っていく。
水では無く強い酒を飲んでしまったようだ。
由良はそのまま机に突っ伏してしまった。
「ん…」
由良は眉をしかめて重い瞼を開けていく。
見慣れない空間にいる事に気付き、勢いよく起き上がるとクラリと目眩がした。
「ん〜…、ここ何処よ…」
「お目覚めか?」
素っ頓狂な声を上げてしまった。
バスローブを着て濡れた髪をタオルで拭きながら雅が部屋に入ってきた。
「何で、雅ちゃんが…」
「何でって、此処は俺の家だからな。
居るのは当然だ。…何も覚えていないのか?」
記憶を辿ろうとするが店で酒を飲んでいた時の事しか覚えていなかった。
よく見ると自分の格好もバスローブだった。
ギョッとしながら服の中を確認すると何も履いてなかった。
「み、雅ちゃんがそんな人だと思わなかったわ!あたしが酔い潰れてるのを良い事に襲ったのねっ」
布団で隠れながら雅を見ると、眉根を寄せて溜息をついていた。
「店で酔い潰れて運んでる時に吐かれたから、仕方無く洗濯して洗ってやっただけだ」
「え…、そ、そうなの…。あたしったら勘違い…
ん?でも裸は見たのよねっ?」
脱がさないと洗えないだろう、と雅は呆れて水を渡してきた。
由良は水を受けとりながら顔が赤くなるを抑えられないでいた。
「意外と、力持ちなのね。あたしの方が少し大きいのに」
「なんてことは無い。君こそ意外と軽かった」
ふ、と小さく笑う雅。
その時の記憶が無いのが実に惜しかった。
しかし由良は嬉しそうに水を飲んでいった。