煉獄コンビニ 第五話「機構体の咆哮」
第五話「機構体の咆哮」
旧駐屯地の前に立ったとき、ユウは背中を流れる汗が冷たいのを感じていた。
瓦礫と鉄条網の間を抜け、兵舎跡を抜けた先の武器庫に足を踏み入れる。
埃とオイルの匂いが鼻を突く中、ユウは崩れかけた棚の裏に目をとめた。
「……あったか」
そこにあったのは、RPG-7。旧式の対戦車火器。
一本の弾頭付きロケットがケースに収まっていた。
『対象は旧型の戦車級機構体。RPG-7でも十分有効だ。……その装備は、最後の一発だ。慎重に使え』
「司令、お前ほんとにこれが使えるって保証あるんだろうな……」
『信じるかどうかはお前次第だ。だが、あれを止められるのは今、お前しかいない』
ユウは武器を担ぎ、建物の裏手へと回り込む。
そのとき、金属の軋みと共に、地鳴りのような音が辺りに響いた。
駐屯地の奥、倉庫跡地から、何かが這い出してくる。
砲塔。履帯。複数の赤いセンサーライト。 それは──61式戦車。
「まさか、まだ動くのか……!」
錆びついたはずの砲塔が音を立てて動き、主砲がゆっくりとこちらを向く。
『人間さん?──殺してあげる』
合成音声のような声が響く。まるでそれが、意思を持っているかのように。
ユウは身を低くして遮蔽物に隠れ、息を殺した。
その瞬間、爆音と共にコンクリ塀が吹き飛ぶ。照準は正確だった。
「マジかよ……戦車が、喋ってる……?」
ユウは走った。距離を詰め、建物の裏手から回り込み、戦車の背面に迫る。
だがその途中、61式が旋回を始める。履帯が地を削り、こちらに砲塔が回ってくる。
『逃げても無駄だよ。人間さん、大人しく死んで』
声が再び響き、同軸機銃と榴弾で攻撃してくる。
ユウは廃材の陰に飛び込み、ギリギリで爆風を避ける。瓦礫が飛び散り、腹に鈍い衝撃が走る。
「──これが本気ってわけかよ……」
息を整え、立ち上がりRPG-7を構える。
「……今だッ!」
RPG-7の引き金を引いた。
発射音と共に放たれたロケット弾は、戦車のエンジングリルを正確に捉えた。 爆風と閃光が駐屯地を包み込む。
ユウは吹き飛ばされ、地面を転がった。
耳鳴りの中、ゆっくりと体を起こす。
『ぐわぁ~痛い死ぬ死んでしまう!』
61式は炎に包まれ、沈黙した。
そして──
空が、白み始めていた。
長く続いた夜が、ようやく終わろうとしていた。
「……朝か」
ユウは、空を見上げた。
……それにしても人間、か。
黒魔女は、俺を“獣”だと言った。
けど、61式は俺を“人間”として攻撃してきた。
「どっちが正解なんだ?」
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