表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

煉獄コンビニ 第五話「機構体の咆哮」

第五話「機構体の咆哮」


 旧駐屯地の前に立ったとき、ユウは背中を流れる汗が冷たいのを感じていた。

 瓦礫と鉄条網の間を抜け、兵舎跡を抜けた先の武器庫に足を踏み入れる。

 埃とオイルの匂いが鼻を突く中、ユウは崩れかけた棚の裏に目をとめた。

「……あったか」

 そこにあったのは、RPG-7。旧式の対戦車火器。

 一本の弾頭付きロケットがケースに収まっていた。

『対象は旧型の戦車級機構体。RPG-7でも十分有効だ。……その装備は、最後の一発だ。慎重に使え』

「司令、お前ほんとにこれが使えるって保証あるんだろうな……」

『信じるかどうかはお前次第だ。だが、あれを止められるのは今、お前しかいない』

 ユウは武器を担ぎ、建物の裏手へと回り込む。

 そのとき、金属の軋みと共に、地鳴りのような音が辺りに響いた。

 駐屯地の奥、倉庫跡地から、何かが這い出してくる。

 砲塔。履帯。複数の赤いセンサーライト。  それは──61式戦車。

「まさか、まだ動くのか……!」

 錆びついたはずの砲塔が音を立てて動き、主砲がゆっくりとこちらを向く。

『人間さん?──殺してあげる』

 合成音声のような声が響く。まるでそれが、意思を持っているかのように。

 ユウは身を低くして遮蔽物に隠れ、息を殺した。

 その瞬間、爆音と共にコンクリ塀が吹き飛ぶ。照準は正確だった。

「マジかよ……戦車が、喋ってる……?」

ユウは走った。距離を詰め、建物の裏手から回り込み、戦車の背面に迫る。

 だがその途中、61式が旋回を始める。履帯が地を削り、こちらに砲塔が回ってくる。

『逃げても無駄だよ。人間さん、大人しく死んで』

 声が再び響き、同軸機銃と榴弾で攻撃してくる。

 ユウは廃材の陰に飛び込み、ギリギリで爆風を避ける。瓦礫が飛び散り、腹に鈍い衝撃が走る。

「──これが本気ってわけかよ……」

 息を整え、立ち上がりRPG-7を構える。

「……今だッ!」

 RPG-7の引き金を引いた。

 発射音と共に放たれたロケット弾は、戦車のエンジングリルを正確に捉えた。  爆風と閃光が駐屯地を包み込む。

 ユウは吹き飛ばされ、地面を転がった。

 耳鳴りの中、ゆっくりと体を起こす。

 『ぐわぁ~痛い死ぬ死んでしまう!』

 61式は炎に包まれ、沈黙した。

 そして──

 空が、白み始めていた。

 長く続いた夜が、ようやく終わろうとしていた。

「……朝か」

 ユウは、空を見上げた。

……それにしても人間、か。

 黒魔女は、俺を“獣”だと言った。

 けど、61式は俺を“人間”として攻撃してきた。

「どっちが正解なんだ?」 


読んでいただきありがとうございます。

感想いただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ