煉獄コンビニ 第三話「追跡者」
第三話「追跡者」
ユウは廃墟のバス停に腰を下ろし、周囲の静けさに耳を澄ませていた。
その静寂を破るように、ビルの影から亡者兵が三体、ゆっくりと現れた。
三体とも89式小銃を抱えており、それぞれが周囲の瓦礫や車両を遮蔽物にして配置についていた。
「……来たか」
ユウはすぐさまM4を構え、片膝をついた。
一体がこちらに気づき、歪んだ声を上げて突進してくる。
ユウは息を整え、照準を合わせた。トリガーを引く。
サプレッサー越しに乾いた発砲音が響く。
突進してきた一体が胸を撃ち抜かれて倒れる。
車の影に回り込んでいた敵も、頭を出した瞬間、発砲前に二発で仕留めた。
そのとき、遠くから銃声が響いた。89式からの発砲音。
ユウの足元に土煙が跳ねる。
「……危ない!」
ユウはすぐさま位置を変え、遮蔽物に身を隠す。
亡者のくせに射線を維持しようとしている。迷いも感情もない。
ユウは身を乗り出して反撃、数発で狙撃手を仕留めた。
『三体、排除確認』
「弾薬はまだ十分ある……」
ユウは息を吐きながら、辺りを警戒するように目を走らせた。
そのとき、背後から「コツ、コツ」と靴音が響いた。
振り返ると、月明かりもない闇の中に、黒いシルエットが浮かび上がる。
少女のような体躯。だが、その右手には禍々しい光を放つ長剣。
「黒魔女……っ」
ユウはすぐさま射撃姿勢を取るが、影はもう目の前にいた。
そのとき、黒魔女が初めて口を開いた。
「汚らわしい獣め……。息をするな」
その声は冷たく、淡々としていたが、確かに人語だった。
風を切る音。
反射的に身をよじると、右腕を斬られた。防弾チョッキ越しに感じる衝撃と、走る痛み。
体勢を立て直す暇もなく、今度は足元を薙がれる。
転倒。地面に背中を打ちつけた。
『ユウ、退避しろ。今は戦えない』
「クソッ……司令、お前、前もって言えよ!」
血が滲む腕を押さえながら、ユウは地面を転がるようにして立ち上がる。
撃っても、当たらない。動きが異常だ。人間の可動域を逸脱している。
気がつけば、黒魔女の剣が再び迫っていた。
反射的にバックパックを盾にして防いだ。火花が散る。
逃げ道を探す。すぐ右手に地下通路の入り口があった。
「……まだ死ねない」
ユウは飛び込むように階段を駆け下りた。黒魔女の足音は、もう聞こえない。
ユウは血を流しながら、通路の奥へと姿を消した。
彼はまだ、生きている。だが、今日は帰還する他ない。
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