煉獄コンビニ 第二話「交戦区域」
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第二話「交戦区域」
夜の町を、ユウは歩いていた。肩から提げたリュックには、さっきコンビニで手に入れたカップ麺と数本のライフルマガジン。両手は自由に使えるように開け、M4カービンは胸元のスリングに斜めがけされている。
『第三観測区へ。北東に一・八キロ。旧駐屯地跡地の手前だ』
「……了解」
司令の声に応じて、ユウは歩を進めた。朽ちかけた標識、割れたアスファルト、沈黙した住宅街。
かつて訓練で何度も通った場所だ。それが今や、崩れた世界の一部となっている。
「懐かしいようで、まったく別物だな」
『記憶は時に、風景を改ざんする』
司令の声は、どこか遠い。だが確かに、自分だけは見てくれている。
交差点を抜けたところで、ユウの足が止まる。
瓦礫の向こうに、ゆっくりと動く影。
『三体、接近。スタンバトン装備を確認。近接戦型』
「了解」
ユウは腰のナイフを抜き、膝をついた。「弾は節約だ。サプレッサーでも音はゼロじゃないしな」
亡者兵が瓦礫を越えて現れた。黒い軍服、腐敗した顔面、手には電撃を帯びたバトン。
足音を殺して接近し、最初の一体の喉元を一閃。
二体目が振るうバトンを後方へ回り込んでかわし、足を払って地面に叩きつけ、手早く首筋へナイフを突き立てた。
最後の一体は無言でこちらに詰め寄ってきたが、ユウの膝蹴りを食らい、その隙に心臓を一突き。
すべてが静かになった。
「ふう……思ったより動けるな、俺」
『反応速度、通常値より上昇。精神集中が安定している』
「褒めてんのか、それ」
『評価している、という意味では』
ふっと笑って、ユウは周囲を見渡す。
近くの角を曲がると、コンビニが現れた。外観はひび割れ、看板も傾いている。だが、自動ドアは健在だった。
「ウィーン」という機械音と共に開いたその中は、明るく清潔だった。
ユウは新しく補充された品の中から、防爆シールドと止血帯を選び、支払いを済ませる。
「補給係がいるなら、直接礼の一つも言いたいとこだな」
『君がそれを必要としたから、そこにある。それだけだ』
「相変わらず、便利な理屈だ」
外に出て、空を仰ぐ。
そのとき、違和感。
高いビルの屋上に、何かが――誰かが、立っていた。
一瞬、風が吹いたような錯覚。
だが、次の瞬間にはもう誰もいなかった。
「……今、見られてたか?」
『観測妨害の兆候を確認。あれは……おそらく、“彼女”だ』
「黒魔女、か」
ユウはM4のグリップを握り直した。
黒魔女とは頭のおかしい少女の姿をした処刑人だ。
ここから先は、油断が死につながる。
彼の中に、じわりと緊張が満ちていった。
夜は、まだ終わらない。