寝言が答え合わせ
なろうラジオ大賞6参加作品
子供の声で起こされた。
唸るような声、そして、もぞもぞ動いている。
「どうした?苦しいか?」
明かりをつけようとした時、その唸りは笑い声に変わった。そして、手を叩いている。
「寝言?」
同じく起こされた妻が言った。
「そうらしい」
私は拍手が止まるのを見届けて、布団をかけなおした。
「まだちょっと笑ってるな」
私は息子の寝顔を覗きこむ。
今年小学校に上がった息子。
色々あった。
「叩く子がいるから学校行きたくない」
そう言って泣かれた翌日、先生と電話で喧嘩した。ただただ宥めるような先生の応答に納得がいかず
「何もしてくれないなら自分がやる!相手とその親と話をさせてくれ」
と詰めよった。
加干渉の懸念を盾に『まぁ、一旦落ち着いて』と言われたが
「子供がSOSを発したら、大人が動いて見せるのも教育です!」
と引かなかった。
その甲斐あってか、それなりの対応はしてもらった。ただ、学校からは、きっとモンスターペアレントと思われているだろうな。
別にいいさ。
他にも細かい心配事は、色々あった。
いずれも解決し、「今は楽しいよ」と息子は言う。
(ホントかな?)
自分を鑑みるに、いまいち安心できない。
自慢じゃないが、私は小学校、いや、保育園年長の頃には立派に嘘をついていた。
「人を叩いたら、なんで悪いと思う?」
そんなことを問われた時は、本心ではなく、親や先生が好きそうな内容を考えて答える子供だった。
「考えすぎだよ。この子は、そんなにヒネクレてません!」
と妻は言う。
しかし・・・オレの子だぞ。。。
最近、何かにつけて思い出す。いじめられた時、特に親に悟られないように気を使っていたことを。
「この子はちゃんと相談したじゃない!パパとは違うよ」
そうだろうか?
生来、楽観的な妻とは、この件に関してなかなか話が合わない。
そんな日々があっての今日だった。
「楽しそうだよ」
妻が言った。そして、寝ている息子の頬をつついて、布団に入った。
「楽しそうだな」
私も息子の鼻をつついて、布団に入った。
さすがに寝言まで、親に気は使わないだろう。もし、そこまで気が使えたとしたら、逆に、たいしたもんだ。
一旦は、そう思うことにする。
「だが、まだ安心は出来ないぞ」
「はい。はい。おやすみ」
「・・・おやすみ」
「ふふふっ・・・」
しばらく断続的に、寝言笑いをしていた息子は、次第に深い寝息を立てていった。
了
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