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九尾の狐の娘  作者: 冬戸 華
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第1話  九尾の狐の娘

九尾の狐に娘がいた。生まれながらにして妖怪という運命を背負った娘は、一人の男と出会い、人間としての普通の暮らしを望む。が、過酷な運命に翻弄されていく。

小説初心者です。ところどころ話の流れや時代背景がおかしな部分が多いかもしれません。

文章も稚拙ですが、書く事の楽しさだけで書いてみました。

ご批判ご指導頂けましたら幸いです。

よろしくお願い致します。


 時は中国の殷王朝、第三十代の紂王(ちゅうおう)の統治する時代。長らく続く王朝は太平の世を迎えていた。その紂王には妲己(だき)と言う、一人の大変美しい寵妃がいた。

 

 とある嵐の夜、妲己は女児を出産した。生まれたばかりの女児は、未来の美貌を想像させるような整った面立ちに、透き通るような白い肌、嬰児でありながら微かな妖艶ささえ感じさせるような赤子であった。

 母親の妲己は中国随一の美女であり、その容姿を見た者は一瞬で彼女の虜になるほどの美貌の持ち主である。

 加えて大層な博識家でもあり、常に機知に富んだ会話で王を飽きさせる事がない。楽器、舞踏にも精通していた。彼女の舞う姿は流れるような優しさに、やや憂を帯びた艶やかさをはらんで、見る者の目を奪い一瞬たりとも離す事がなかった。

 

 そんな妲己を紂王は大変寵愛し、妲己の願う事は何でも叶えようとした。妲己が望めばいくらでも珍品を与え、知人を要職にし、政治に意見をすればその通りにし、宴を催せば酒池肉林と化し、妲己の助言で戦までもが起こった。正に傾国の美女であった。

 

 が、妲己の正体は実は人間ではなかった。

 

 本性は九本の尾を持つ狐の化身で九尾の狐と呼ばれる妖怪なのだった。何百年と生き続ける九尾の狐は、何度も美女として姿を変え、各地を転々としては男を虜にし、悪事の数々を重ねていた。

 そうと知らない紂王は妲己を寵愛し続け、太平の世は徐々に破滅の道へと進みつつあった。

 

 生まれた妲己の娘は、万姫(ばんき)と名付けられた。

 万姫も母によく似てまたとない美貌を兼ね備えていた。佇む姿は楚々として花のよう、話す声は鈴を転がした様に涼やかで美しい。幼いながらに見る者全てが振り返るような美少女であった。


 しかし万姫もまた、九尾の狐の化身であった。生まれながらに自身までもが妖怪であるという宿命を背負わされている事の意味を、この頃はまだ理解できなかった。


 万姫は幼い頃から母に厳しく躾けられていた。物心つかない頃からおしろいをはたかれ紅を塗り、母の言う事には決して逆らわないよう育てられた。

 物の正誤が分からない万姫にとっては母の教えが全てであり、母が笑えば自分も笑い、母が怒れば自分も顔をしかめる。毎日母の選ぶ豪華絢爛な衣装に身を包み、常に笑みを絶やさないよう優雅に振舞った。


 母の教えは体の隅々まで染み渡り、まるで見えない糸で雁字搦めにされているようだったが、万姫にはその糸をほどくという事さえ気づけない。

 それは愛に見せかけた母の呪縛だった。母は確かに万姫を愛していたが、その歪んだ愛情はいずれ大きく育った万姫を苦しめる事になると、母は全く思っていなかった。


 妲己の悪事は留まる所を知らず、時には宴で見世物として人を殺して楽しみ、世の中の罪のない多くの民を些細な理由で殺戮し、必要のない戦まで引き起こそうとしていた。

 そんな残虐非道な政治に、民衆の怒りは爆発し反旗を翻した。それに乗じて周が攻め入り、もはや傾国と化していた殷朝はあっさり滅亡した。

 そして妲己の正体は巫術氏たちに九尾の狐と見破られ、術によって結界を破り滅された。九尾の狐は退治されたのだった。一つの血筋を残して…。


 万姫は九死に一生を得、命からがら逃げ伸びた。各地を転々としながら妖術で姿を変えて潜伏し、とある港町まで辿り着いた。

 

 そこで万姫は見た物に驚いた。何かの建物の様にとてつもなく大きな船だ。押し寄せる波をものともせずゆうゆうと入港してくる。

 どこかの国から運ばれてきたであろう木材や珍しい品物など、沢山の物資が船上にうず高く積まれていた。船が停泊し浅黒い屈強な男たちが勇ましい声を上げながら錨を降ろすと、連携のとれた作業で積み荷を降ろし始める。


 万姫はその珍しい光景をしばらく眺めていた。そして一人の男に声を掛けた。

「ねえ、おじさん。これはどこから来た船なの?」

 積み荷を降ろしていた男は、涼やかな声に呼び止められ振り返った。そこには歳の頃十五、六といったところだろうか、それにしては大人びた美貌を持つ少女が佇んでいた。

男は一瞬、娘のあまりの美しさに目を奪われた。が、はっと我に返り、

「東の島国だよ。興味あるのかい?」

 と答えた。すると万姫は目を輝かせ

「これに乗ると、遠くの国へ行けるの?」

「ああ、そうだよ。積み荷を降ろしたら、しばらく停泊してまた東の島国へ向かうのさ。」

 万姫は好機だと思った。

「おじさん、私も乗せて行ってくれない?」

「え?おまえさん一人かい?親御さんはどうした?」

「両親は亡くなりました。私一人ですが、だめでしょうか?」

 万姫は上目遣いの目にありったけの色気を混ぜ、男を見つめた。男はその美しい目に魅入られながら、思わず

「ああ、仕事の邪魔にならないようならいいさ。」

 と、つい答えてしまった。


 万姫は喜んで大きな船に駆け入ると、見た事もない大海原を見渡して、きっとこの先に自由がある…と期待を胸に遥か水平線の彼方を見つめ続けた。



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