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データ消失

 ゲームソフトでカートリッジが主流だった昔の時代。カートリッジをカセットと呼んでいたころだ。※ 地域によって違うかもです。


 ソフトによってはゲームを進めたデータをカセットに直接セーブするのだが、このデータが消えやすい。

 某ゲームでセーブデータが消えたときの呪いの音楽は、トラウマになっている者もいることだろう。


 消えてしまうに至る事象で多いのは、ほぼ差し込みに起因すると思われる起動失敗であろうか。

 差し込みを失敗してゲームが起動しない。そして、次の差し込みで無事に起動したと思ったらデータが消えている。

 ほこりを飛ばすか半ばまじないか、カセットフーフーして差し込む子供たちも多かった。※ 息は水分を含んでいるため、実際にはよくなかったらしい。


 あとは衝撃であろう。

 ハードにちょっとぶつかっただけで、ゲームは一定の音(ヴゥゥゥゥ——とか)がずっと続く状態でフリーズ。

 この状態もトラウマものだ。セーブデータが消えるかもしれない不安は生まれるし、セーブしないで進めていた時間がおじゃんになってしまうのだから(そのときの楽しさは残る、などとカッコいいことは言いたいが)。

 当時、私の近くでこのフリーズはショックと呼ばれていた。物理的な衝撃から発生することと精神に受ける衝撃をかけていたのか、うまいことをいうものである。


 ショック。 

 ハードを床置きしていることもざらにあった(よね?)。

 お母さんがかける掃除機がぶつかって、なんてのは見聞したことがある。

 私にそれはないが、足がぶつかってとか立ち上がった振動(微々たるものですよ)だとかはある。

 友達の家でそれをした時は肝を冷やした。セーブデータは無事だったが、消えていたら友情崩壊の危機だった。


 友情崩壊の危機。

 何らかの理由で、いともたやすく消えてしまうセーブデータ。なので、貸し借りは怖い所もあった。

 いくつかセーブできるタイプで「何番は使わないで」なんて言われることも。その番号のデータを消してしまったら——がたがた。


「いや、何番使ってもいいよ」


 そう言ってくれるような、セーブデータに頓着がない者から借りるのが望ましかった。


 とはいえ、前者も消えるかもしれないことは覚悟して貸していたとは思うけれど。

 あの時の、私のように。



 現在(私)から過去(僕)に変わります。



 小学生低学年の僕は、某RPGゲームをプレイしていた。

 主人公、勇者の名前は『しゅんし』※ ペンネームから。

 名前はひらがなで、濁点も一字と数えて四文字までだったため『じゅんじ』は使えなかった。『し゛ゅん』はなんだかバランスが悪い。だから『しゅんし』だ。


 ゲームは一日三十分という過酷(?)な条件ながら、僕は——しゅんしは進んだ。


 そして、ついに勇者最強の剣を手に入れるまでに至った。

 でも、そのあたりで僕はプレイすることをやめてしまう。

 終盤であったが、そこからの進め方が分からなかったのかもしれない。

 分かったとしても、ラストダンジョンを三十分で攻略できたかどうか。

(ラスダン内でセーブ? そんなん、できるわけないだろ)


 しばらくして、いとこが僕の家に来ていた時のことだ。

 いとこにはよくゲームのカセットを貸していたのだが、この時のいとこは(くだん)のRPGゲームを借りたがった。あるいは前からで、僕がプレイしていたために貸さなかったのか。

 さすが、パッケージがあの漫画家なだけはある。ゲームの中身を知らないとしても、絵で惹き付けられるよね。


 僕は迷った。


 たしかに、今はプレイしていない。

 が、いとこはまだ小学生になったかどうかという年齢。

 セーブデータを理解してプレイできるだろうか。

 下手をすれば、僕のデータが消えてしまう。

 その不安があったからだ。


 お兄ちゃんに相談してみる。


「説明してやれば大丈夫じゃないか」


 あんたほどの実力者がそう言うのなら。


 おそらくはそのくらいの気持ちで、僕は貸すことに決めた。


「セーブするとこはここを使うんだよ。作り方は——うんぬんかんぬん」



 更に時が経って、そのカセットは返ってきた。


 どこまで進めたのかな。

 僕も久しぶりに自分のデータを見てみるか。


 そして、表示されたデータは……。


 いとこ L.v.1 始めたばかり

 いとこ L.v.1 始めたばかり

 いとこ L.v.1 始めたばかり


 ※ 分かりやすいように実際とは変えています。


 セーブデータは三つまで。

 そのすべてが、作ったばかりのデータになってやがる。


 うわあああああああああ。

 勇者しゅんし、最強の剣があああああああああ。


 僕のデータは、ものの見事に消えていた。

 データがすべて消えてしまったため、とりあえず埋めてみたのだろうか。

 そういや、セーブする箇所は伝えたけれど、どうやってセーブするかは伝えたっけ? セーブ方法が分からなかったから、なんかデータを量産してみたのか。

 答えは分からない。消えた事実。事実だけが残った。


 すでにプレイしていなかったからか覚悟はあったのか、ショックはさほどでもなかったと思う。

 あるいは、おかしさが上回ったのかもしれない。


 そんな、データ消失。



 過去(僕)から現在(私)に変わります。



 あれから、うん十年。

 レトロゲームのゲームデータをインストールしてセーブデータも書き出しできる夢のような互換機が生まれた。

 あのデータが残っていれば、小さなころの継続の積み重ねという思い出を書き出せた。

 そして、あのデータを使っての、うん十年越しのクリアなんて乙なことができたかもしれない。

 それは、少しばかり悔やまれる。


 リメイクでトロコンするほどにやり込んでのクリアをしたが、それで満たされておくとしようか。

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