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かあどだす

 小さなころ大好きだったものといえば、何があるだろうか。

 僕はといえば、トレーディングカードがそのひとつだった。

 当時、一枚二十円で引けるカードの自販機(臆病なので名称は出すまい)に夢中になったものである。


 小学生になっているか、なっていないかくらいのころだ。

 父に連れられて、僕と兄は近所の雑貨屋に来ていた。

 お目当ては、そう、トレカの自販機。タイトルは『SDガ◯ダム』だ。

 とはいっても、僕にはお金がなかった。

 兄がガチャハンドルを回してカードを出すのを、見ているしかない。

 兄には輪ゴムを使用するほどの多くのカードがあり、この時も所持していた。


 大して持っていない僕とは大違い。

 年齢差というものはいろいろと残酷である。

(以前も書いたが、ひとつふたつの年齢差ではないとだけ)


 だが、兄はお兄ちゃんであった。

 最初からその約束だったのか、弟を不憫に思って最後にそうしたのか、僕に最後の一枚を回させてくれたのだ。


 たしか、百円中の一回。五枚中の一枚。貴重な一度。

 さらに、出てきたカードは「あげる」ということで。


 僕は嬉しさとともに、意気揚々とガチャハンドルを回した。


 出てきたカードは、キラキラのシール仕様のキラカードではなかったものの、ファーストガ◯ダム(たしか、HP100。どうでもいいが)だった。

 そして、兄が持っていないカード、でもあった。

 ジ○とかザ◯だとか(分からない人、ごめんなさい)が出ると思っていたのだろう、兄の目の色が変わった。

 兄が所有権を主張し始める。

 お金を出した兄と、回した僕。

 もらう約束があったといえど、所有権はどちらにあるものか。

 兄の主張に負けず、僕は頑張った。泣きながら頑張って渡さなかった。


 そんな状況を見て、家に帰る前か帰ってからか、父は兄のほうを叱責した。


「約束事は守れ」

「そろそろカードは卒業しろ」※ 当時は「いつまでもカードで遊ぶな」なんて時代でした。

「お前が兄貴だろう」※ 昔の話。お兄ちゃんだから、お姉ちゃんだから、我慢しろというやつ。


 泣いていて覚えていないか、僕の前で叱責しなかったのか、なんて言ったのかは定かではないけれど。(上記のセリフは想像による推測です)


 家に着いてから、目の部分を手で覆った兄が僕に近付いてきた。おそらくは泣いていたのだろう。

 そして、僕にこう言った。


「これと交換しよう。それならいいか?」


 それは、ZZガ◯ダムのキラカード(たしか、HP170。やはり、どうでもいいが)だった。

 兄がダブって持っていたカードではある。あるが、持っているには嬉しいカード。それに、友達とのトレードにも有力であっただろう。


「うん」


 僕にキラカードは眩し過ぎた。簡単にオーケーする。


「よし。いい子だ」



 兄よ、大人になった今なら言える。

 いい子だったのは、そしていい兄だったのはあなただ。

 きっと僕が弟として生まれたあの日から、ずっと。


 家族を持った今でも、僕を気にかけてくれるあなたへ。


 あなたが僕の兄で、よかった——。



 僕が先に亡くなってしまった場合の遺書のような手紙としても、これを書き残す。







 ふっふっふっ。

 いいことを書いたから、もういいよな。

 これからの話に、どのようなことを書こうとも。


 いい兄とは違い、弟はゲスであった。

 当時の兄弟間の上下関係を生きてきた弟の復讐は、これから始まる——のかもしれない。

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