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それは、友を想う説明書

 少年時代、よくゲームソフトの貸し借りがあった。


 ソフトをなくすなんてのがトラブルの最上位だと思う。

 返してくれることを前提とするなら、次はセーブデータの消失であろうか。当時、ソフトにセーブされていたわけだが、そのセーブデータは消えやすかったし、消すなと言われていたセーブデータに誤って上書きしてしまうなんてこともあっただろう。

 もっとも、セーブデータに執着していない者から借りればよい話ではあった。

 セーブデータを三つ作れるソフトだとして。


「どこにセーブしたらいい?」


「どこでもいいよ。やりたくなったら、また最初からやるし」


 勇者よ。


 セーブデータの話をしてしまったが、今回の話はセーブデータに関係ない。

 あるのは説明書だ。


 小学六年生(かな?)の成野少年は、山角(やまずみ)という友人にゲームソフトを説明書付きで貸したのだが、見事に説明書をなくされてしまったのである。

 成野少年は大して気にしなかったと思うのだが、逆に山角は気にしたのかこう言った。


「俺が作ってやる!ヒント付きでな!」


 そして、山角は作り上げたのだ。自作の説明書を。



※ ここから説明書の説明に入ります。ひらがなが多かったのですが、読みやすさのために漢字にしている箇所が多数あります。また、敵味方の名前など固有名詞を使うといけないかと思って、カットしたり普通名詞にしたりしています。

()内は成野のツッコミです。()がなくなったら、いつもの過去話に入ったと思ってくださいませ。


 あらすじ


(おお。いいじゃあないか。どう書いてくれたんだ?)


 しゅどんこうがパンチやキッキを使い敵を倒す。


(しゅ『ど』んこうとは? そして、キッ『キ』。猿か、主人公は)


 主な技


 スーパーパンチ スーパーキック


(……そんな技はない。いや、後に判明したことだけれど、パンチやキックを使い続けることで上位のパンチやキックを覚える仕様ではあった。しかし、スーパーパンチやスーパーキックという名前ではない。捏造するんじゃあない)


 ヒント


 このボスは体力全回復のアイテムがないと倒せない。


(倒せる。個人の感想を書くんじゃあない。自分のプレイが上手くないことを伝えてどうする)


 ここの道のりは長い。


(知ってるよ!)


 ラスボスは強い。


(まぁ、大概のゲームはそうだろうね!)


 超ヒント


(満を持して? 少しは期待していいのか?)


 裏技はない。


(期待したのが馬鹿だったよ! というか、あるのかどうかすら知らんだろ)



 ヒントって何かね?

 そういやこいつ、この話の前後でとんでもないヒントを出したことがあった。

 ミステリー小説を読んでいた成野少年に、先に犯人だけ誰か読んで(ミステリー小説への冒涜か?)ヒントを出したがったのだ。


 犯人のフルネームが成野〇〇だったとしよう。山角が出したヒントは『淳司』だったのである。

 淳司の名字=成野。成野姓の人物が犯人。


 ばっかやろおおおおっ!


 ミステリー小説の最大の楽しみ、犯人推理をぶち壊しやがった。

 そのショックを、生活ノートという名前だったかの日記に書いて先生に提出した。


『犯人は分かってしまいましたが、犯人である理由を解くのはまだ残っているので楽しみたいと思います』


 ここまでの文章ではなかったと思うけれど、まぁこんな感じ。

 それに対して、先生の返事。


 『犯人が分かってしまっては、面白いものではありませんよ』


 せんせえぇぇぇぇっ! 追い討ちをかけないでぇ。フォローを入れてぇ。


 話を戻そう。



 山角の説明書? はここまででもクラスの一部では笑える仕上がりだったのだけれど、主な登場人物の敵の紹介で笑いは限界を超えることとなる。


 敵にアディッシュ(仮名)というキャラがいたのだが、山角はその名前をこう書いたのだ。


 あでっしゅ。


 ひらがなのうえ、小さい『い』を抜いたその書き方に、成野少年を含む一部のクラスメートは大爆笑した。


 思い出すだけでも笑ってしまう『あでっしゅ』。


 授業中、先生に当てられて回答している成野少年。少し離れた自分の席から『あでっしゅ』とでかでかと書いたノートを広げて見せてくる友人。


 やめてくれぇ!


 笑って怒られたかは記憶にない。が、そうなってしまいそうな状況であったのは間違いない。



 山角はコマンド式の対戦ゲームで、急に降参を選ぶような奴でもあった。


「なんで降参するんだよ」


「こうさんって何?」


 確かにひらがなで『こうさん』だったけれど、意味が分からないなんてそんな馬鹿な。


「まいったってことだよ。いや、意味が分からないコマンドを選ぶなよ」


「そうなのか。こうせん(光線)って見えたんだよ」


 ……。



 そんな読み書きが心配になる山角であったのだが、社会に出た後で大型車らしき車を運転する姿を見た。

 私よりも稼いでいて、社会に貢献もしているのではないかというのが容易に想像できた。

 人生とは、分からないものである。

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