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第7話 カルドレイン王国軍との戦争が終わった後


 さて、フランチーク・レンロスである。カルドレイン王国軍との戦争が終わった後も、彼は化外人とともにあった。戦後の秩序の再構成、取り戻した土地の差配について、彼は調停役となった。化外人の部族間には歴史的な軋轢や不和が存在していたが、外の世界からやってきたフランチークの中立性は信用に足るものとされたのだ。なにせ彼は化外人のために体を張った男だ──この上ない男だ。


 そして化外人土候たちは、部族の垣根を超えての連合体を組織した。かつてカルドレイン王国軍が大島支配のために建造した大島仮府は、この連合体に引き継がれることになった。


 ある日、この大島仮府に一人の男が大やってきた。

 彼はパヴェル・イオキア──この大島に渡ってから気苦労も経験し、幾分か精悍でいかめしい顔つきになった貴族の三男坊だが、それに加えてどこか思い悩むような表情をしていた。


 応接間にて彼はフランチーク・レンロスとしばらくぶりの再会をはたしたが──その顔をみて、ぎょっとした。

「見苦しくてわるいね」とフランチークはそっけなくいった。彼の顔には大きな矢傷が刻まれていた。この戦争の間、常に前線で指揮を執っていた彼は、無傷ではいられなかった。

「……また、傷が増えたんだな。こんどは随分目立つところじゃないか。最初にきみと会ったときは、いかにもな学者風だったんだがな。いまじゃあすっかり貫禄がついた」

「そういうきみもな、パヴェル。きみは気楽なお坊ちゃんだったが、いまじゃあ顔に苦労が沁みついているよ」

「そうだな、きみのおかげで散々苦労したよ。……それに、いまも一件、苦労を抱えている」


 パヴェルは懐から封書を取り出した。

「オルゴニア帝国の裁判所は、フランチーク・レンロスを有罪とした」

 フランチークはしばらく睨みつけてから、口を開いた。

「まさか反逆罪とか言わないだろうな」

「いや、罪状は異種姦通罪だ」

「異種姦通罪? なんだそれ」

「化外人と交わることは罪とされているんだ。もっともこの法律が制定されたのは、はるか昔のお堅い時代で、いまではほとんど死文化しているがね」


「おいおい、そんなもので──」

 もしもいまこの時代においても厳密に適用するのならば、オルゴニア帝国外征軍の将兵は余すことなく、化外人の遊び女と関わった罪で有罪になってしまうだろう。

 フランチーク・レンロス個人を標的とした政治的な策略であることは明白だった。

 パヴェルは、忌々し気に首を振って見せた。

「いいか、フランチーク。こんなことを企んでいる連中は、本当ならば、こんな回りくどいことをしなくてもお前を殺すことができる。そうしなかったのは、化外人たちへの影響を考えてのことだろう」

「どうにかならないのか、パヴェル?」

「今度ばかりはな……。相手はおそらく、きみに面子をつぶされた外征軍の上層部──もしかしたら皇帝陛下かもしれない」

「そうか。……それで、裁判所は、ぼくにどうしろといってるんだ?」

「蟄居、つまり自宅軟禁だ。異種姦通の罰はそう定められているらしい。それでも殺されるよりは、ずっとましだろうよ。……帰ろう、フランチーク。おまえはもう、この大島でなすべきことをなしとげたじゃないか」

「……」

 フランチークは椅子に深く座り込み、じっと思案した。


 結局、小姓として化外人の若者を一人連れ帰ることを条件として、フランチークは大陸に戻ることを承諾した。


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