第6話 フランチークの遊撃隊
そしてついに、特務機関の任務が始まることとなる──
ここから先は、オルゴニア帝国の臣民が、『外地戦争の英雄』についてご存知のとおりである。
その数年にわたる戦争は、支配者を敗北者に変え、被支配民族を勝利者に変え、そしてなにより、大陸からやってきたひとりの男──ひねくれた歴史学者を英雄に変えたのだ。
フランチークはまず、カルドレイン王国の支配に抵抗を続ける数少ない土候の下へと派遣されることになる。
カルドレイン王国軍の監視を掻い潜り、追手を撒き、その土候の下へとたどり着いたフランチークは、それでいながら、当初は化外人たちから侮りを受けた。しかし、彼の語学と歴史学、そしてなにより戦史に関する学識の深さが、化外人たちのフランチークに対する評価を改めさせた。
化外人たちの信頼を得たフランチークは、同時に抑圧された化外人たちに対する深い同情の念を覚えたといわれている。
そしてフランチークは、この土候の信任の下、遊撃戦の指揮を執るようになる。粘り強くカルドレイン王国の軍を退け、抵抗を続けているうちに、周辺の土候もこの反乱に呼応していく。
反乱勢力を次第に糾合していったフランチークの遊撃隊は、いつしか大軍となり、ついには後世で『大島仮府の会戦』と呼ばれる決戦に臨むこととなる。
ここにおいて、フランチークは一世一代の見事な包囲殲滅戦を成し遂げることになる。これにより大島のカルドレイン王国軍は壊滅的な被害を受け、化外人たちは大島における主権を奪還した。
「ぼくがやったことといえば、歴史上の大戦の模倣劇を演じたに過ぎない」とは、この勝利に際しての本人の言である。
さて、これ以上の損失を恐れたカルドレイン王国軍は、このフランチークが率いる化外人反乱軍と停戦協定を結んだ。大島における大半の支配を放棄し、大島南岸にある港湾都市へと撤退し、そこを拠点として交易をする方針へと転換した。
実際のところ、カルドレイン王国の軍は、この大島において多勢だったわけではなかった。カルドレイン王国の軍は、巧みに化外人土候同士の不和を利用し、対立を煽り、分断させることで大島を支配してきたのだ。
反乱勢力の連合によって、カルドレイン王国は決定的に優位を失ったのだ。
この結果に喜んだのは化外人だけではない。オルゴニア帝国外征軍の兵士たちもまた、歓喜した。なにせ、化外人の反乱は、おおよそ化外人だけの戦力によってカルドレイン王国軍を撃退したのだ。実際の戦闘には、オルゴニア帝国外征軍の出番はほとんどなかった。大島くんだりまで連れてこられた末端の兵士たちは、殺し合いをしなくて済んだことを大いに祝った。彼らにとっても、フランチーク・レンロスは英雄だった。
一方で、オルゴニア帝国外征軍の将官はフランチークに対して憤慨した。
フランチークは、あまりにも見事に勝ちすぎたのだ。
本来ならば、化外人の反乱に乗じてオルゴニア帝国外征軍の勢力圏を押し広げる計画だったのに、フランチークに率いられた化外人たちは独力でカルドレイン王国軍と戦い、そして勝利によって戦争を終わらせてしまった。
結果的にカルドレイン王国軍が撤退した土地は化外人の手に渡ってしまった。オルゴニア帝国外征軍の勢力圏はほとんど伸張せず、結局、北岸港湾に押し止められたままだった。
いまさら進攻しようとしても、要所は化外人によって抑えられており、しかも彼らはいまや歴戦の戦士となっていた。