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444(Triple Four)  作者: SHIN
7/13

2-1 ~第一章・付き従う者~

          3



フィラルディア暦八百九十三年、一月四日。



最初に、確認しておきたいことがある。

もしかしたら勘違いしているのでは、と思うのだけれど。



僕は決して、強盗犯でも誘拐犯でもありません。




先月僕が“魔女屋敷”に侵にゅ……お邪魔してからというものの、僕の人生は三百六十度変わってしまった。

一周まわって元の位置に戻ってきていることに関しては、ツッコミはいらない。

正直、今でも混乱しているぐらいだ。


続いて、これまた急な話になるけれど。

先月末をもって、僕はアシュトリア騎士養成学校を退学処分となった。


当然といえば当然の処置である。

僕は騎士養成学校で騎士になるべく学んでいた。

その騎士候補生が、あろうことか無断で公爵の位を持つ人物の館に邸宅に押し入り、軒並み器物損壊をしたあげく全力疾走で出てきたのだから、そりゃ退学にもなるだろう。

無作法、不忠義にも程がある。


まぁ逃げた後のことは、あとで話すとして、だ。





実はあれから。僕は少し、銀髪の女の子とお話をした。


何故泣いていたのか。

何故ここには人間が君一人しかいないのか。

従者(アントラージュ)』とは何なのか。


そのうち、何故泣いていたのかと、何故ここには人間が君一人しかいないのかという二つの質問に、彼女は正確には答えてくれなかった。


「お気になさらないでください」


「ここでは、いつも私は一人ですから」


そう答えるだけだった。



従者(アントラージュ)』とは何なのか…これについては、色々と話をしてくれた。



でも僕の脳に保存するにはあまりにも訳のわからない単語ばかりだったので、覚えることが出来たのはたった二つだけだった。実に情けない。


一つ。『従者(アントラージュ)』とは、『誓約者(トランサー)』と呼ばれるものと特別な魔術の儀式を済ませることで生まれる、主従関係の「従」の方だということ。


「付き従う者」という言葉どおり、主の望み、目的のために働く者を指すらしい。


もう一つ。『誓約者(トランサー)』とは、『従者(アントラージュ)』と呼ばれる者と誓約を交わし、代価と引き換えに己の望みのために『従者(アントラージュ)』を使役する者のこと。


こちらは主従関係の「主」の方に当たる。




この説明から考えられることは。


「私を貴方の『従者(アントラージュ)』にしてほしい」という言葉の意味は。


必然的に、僕に『誓約者(トランサー)』とやらになってほしいということで。


誓約者(トランサー)』になるということは、『従者(アントラージュ)』と誓約の儀式を行わないといけないということで。


誓約の儀式を行うということは、銀髪の女の子を僕が使役できるようになると同時に、代価というものを支払わなければならなくなる、ということ。



なんだか意味不明な単語ばかりで頭が痛くなってくる。

僕みたいなバカに何を望んでそんな電波なことを言ってきたのか、全くわからなかったが。

一つの仮説が浮かび上がる。


僕が『誓約者(トランサー)』と『従者(アントラージュ)』という二つの単語を何も知らなかった以上は。儀式とやらを行って彼女に生まれるメリットはただ一つ。


誓約者(トランサー)から代価をもらえる」という部分だ。




おっと、ごめん。かなり話が脱線してしまった。


話を戻すと。

結局、僕はその問いにイエスともノーとも答えなかった。


突然名前も知らぬ赤の他人に、主従関係になれと迫られて正直怖かったのもある。

得体の知れない代価というのを払う気もなければ、出会ったばかりの女の子に好き勝手な命令をして楽しむ程、僕は下卑た性格でもないし落ちぶれてもいない。


流れるような銀髪がとても美しくて。興味をそそられる話ではあったけれども。

その日僕は、「上手い話には裏がある」ということを身をもって体験したばかりだった。


突然のことに頭が回らなかった僕は、急ぎの用があると至極侵入者……お邪魔した分際としては迷惑極まりない台詞を吐き、


「また逢いに来るよ」


と一言残して逃げ出してきてしまった。



入り口の方に向かう際に、一度彼女の方を振り返ったのだけど。

彼女は無表情のまま、ずっと僕の目を見つめていた。



やだなぁ、照れるじゃないか!……ポッ。

と言いたいが。怖いという気持ちの方が遙かに強かった。


だけど。









今思えば。彼女は一人ぼっちで寂しかっただけなんじゃないだろうか。


そう思ったことは、決して一度や二度ではなかった。


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