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444(Triple Four)  作者: SHIN
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2-7 ~第一章・付き従う者 その7~


            5


とかなんとか言っちゃって、何これから熱いバトルを繰り広げるような展開になっているのか。


冗談はよしてくれ。自分で言ってしまうのもアレだが、僕は軍人とガチで戦って勝てるような戦闘技術など持ち合わせてはいないのだ。

そんなものがあるくらいなら、訓練校に在学していた時点で、全戦全敗なんて最低な結果を残しはしない。


先程お互いの銃が放った弾丸は、シンクロしたかのごとく見事にお互いの右肩に直撃した。


(はぁ……っつ……痛い、マジで、普通に、痛いっ)


普通に痛い、なんてもんじゃない。傷口がジリジリと焼け付くような痛みで神経を蝕む。

幸いなのか弾丸は肩の骨にぶつかって貫通こそしなかったものの、確実に骨にヒビが入っているであろうことは検査しなくても直感でわかる。

溢れ出る血液も生々しい。


(んにゃろぉ~~……)


相手の軍服の男も同じような痛みを感じているのだろうか。

それとも軍人っていうのは、何度も体に弾丸を浴びていて、ある程度銃撃の痛みというものには慣れているのだろうか。

実際本人に聞いてみない限りはそんなことは分からないが、間違いなくこの痛みは生涯慣れるなんてことはないだろう。慣れたくもないし、出来ればもう一発も喰らいたくもない。


とりあえず今は、逃げるべし。

右肩の激痛に時々意識を失いかけながらも、状況故の冷静さが脳をクリアにさせ、傷ついた体にムチを打つ。


「こういうときは! 三十六計、逃げるにしかずっ」

「ちっ、右肩に一発喰らっちまったか……って、おい、お前! 逃げんじゃねぇ!」


銃を持った相手を目の前にして、回れ右で逃げ出す僕。

まともに相手になんかしていられるか。

銃撃を受けないように急いで角を曲がり、中庭へ通じる通路とは反対の通路に入り込む。

右肩の痛みは、不思議とそこまで痛みを感じなかった。

この状況を少なからず楽しんでいるということが、脳がアドレナリン的な脳内麻薬を生成していて痛みを和らげているのだろうか。

そういうことにしておこう。気にしたら痛みが増しそうだ。



屋敷に来たのはこれで二回目なので、未だ建物内の構造については全く把握していない。

来た道を戻るのも悪くないが、以前罠が作動して以来放置され続けているので、逃げるにしては足場が悪い。それに直線的な廊下が多く、姿を隠すのには向いていなかった。


なるべく曲がり角の多い通路や、隠れる場所の多い部屋を見つける。

まずはそれが最優先だ。


「銀髪の女の子、今この屋敷のどこかにいるんだろうか……」


ふとそんな思いが頭を過ぎる。

以前あの子と会ったのは、中庭だ。今はその真逆の方向へと進んでいる。

前と同じ中庭にいるのであれば、逃げ回っていても出会うことはできない。


だが、だからといって、居る可能性が有ると分かっている中庭に逃げ込むこともできない。

もし本当にあの子がまた中庭にいたら、追ってくるであろうあの軍服の男に目を付けられてしまう。

そうなったらアウトだ。


となると、あの男を残して僕だけ屋敷から逃げ去るわけにもいかなくなった。


まずいな。逃げ続けるわけにもいかなければ、応戦する実力もない。

僕は戦闘開始数分で一気に窮地に立たされることとなった。


ひとまず、二階に上がる。銃撃戦において高い場所を確保するのは有利なはず。

屋内戦で意味があるのかは分からないが、屋敷は豪華な作りでとても広く、階段のある場所は吹き抜けになっていた。これを利用しない手はない。

階段を登ってすぐ横の壁際にしゃがんで身を潜める。


「おいクソガキ。何処に行きやがった?」


教えるわけないだろ、と心の中でボソリと呟いた。

拳銃(ハンドガン)を構えた男が、キョロキョロと辺りを警戒しつつ階段のある場所へと近づいてくる。

階段を支える柱の陰。何かの部屋の扉。廊下の奥。次々と照準を合わせる。

いつ何処から僕が出てきても射撃できるようにしているのだろうか。


ここで牽制射撃をしておくのもいいが、逆に自分の居場所がバレてしまう恐れもある。

幸い僕を追ってきたあの男は、中庭の方へと戻る気配はない。

この調子でもう少し引っ掻き回そう。


「あの突き当りの部屋に入ってみるか」


身を屈めたままなるべく音を立てないよう廊下の奥へと進む。

激しい銃撃戦を期待していた人には申し訳ないが、前にこの屋敷に来たときの僕を思い出してほしい。

愚直ダッシュを繰り返していただけ、そうではなかっただろうか?


戦闘前に考えていたように、当然のこと、こんな所で死ぬわけにはいかない。

戦闘に敗北してはならないのだ。


ただし、勝利というのは必ずしも相手の命を奪うということではない。

僕だって初の実戦で気分が高揚しているからといって、人殺しなんかしたくないのだ。

戦意を喪失させるか。相手の自由を封じればいい。

正面から撃ち合ってしまっては勝算はない。

物陰に隠れ、相手をやり過ごし、背後から奇襲をかけ武器を奪う。

これが今の状況を切り抜けるベストな作戦ではないだろうか。


そう考えつつも、突き当りにある部屋の扉を開ける。

ここは一体何の部屋だろうか。出来れば身を隠せるような物があるといいが。

背後を警戒し、銃を構える。

よし、まだ二階へ追ってきてはいないな。このままこの部屋の扉を開けて、と――――。



「えっ」

「……………………あ」



ここで。まさかの事態が発生した。

あまりにも唐突。あまりにも急展開。

もっとタメや伏線があってもいいのではないのかと神様にツッコミを入れたくなる程に。


「……………………あなたは、あの時の。お久しぶりです」


そもそも今日この屋敷に来た本来の理由。

前回屋敷で出会った銀髪の女の子にもう一度会い、『誓約者(トランサー)』というものについてもっと詳しく話してもらう、というものだったのだが。


その銀髪の女の子が。中庭ではなく。

今僕が入った、この部屋の中に居た。


「あっ……と……。や、やぁ、久しぶり。また会いにきちゃったよ、は、ははは」


一ヶ月経っても怪しさ極まりない挨拶は変わらない。

驚いた。まさかこんなにも早く出会うことができるとは。

あの軍服の男を蹴散らした後に、中庭でまた感動的な再開とかするのだと妄想していた自分としては、少々期待はずれな面もあったが。


待てよ。


軍服の、男?


ハッ、と気付く。そうだ、こんなところで悠長に挨拶なんてしている場合じゃない!

僕はあの軍服の男に追いかけられているんだった!


「あぁもう、何でこう強い武器が隠してあるとか、残っていた罠が作動してあの男を撃退するとか、もうちょっとご都合主義な展開にならないんだよ!」

「…………?」


見えない誰かに対して、毒を吐く。

間違いない、今日は厄日だ。


その時、廊下の方から足音が聞こえてきた。コツ、コツ、コツ。ゆっくり一定のリズムを刻んでこちらの部屋へと向かってくる。

しまった、大声だしてたら気付かれたか。なんてバカなことを。

しかも敵は真っ直ぐに僕を追ってくるし……そういうとこはご都合主義なのな。

普通逆だろ。


ガチャリ、と何処かの部屋の扉を開ける音が聞こえた。

この廊下の部屋をしらみつぶしに探す気か。

くそ、最悪だ!


「どうか、されたのですか?」

「どうかも何もない、こっちに来るんだ!」

「え、きゃっ! ちょ、い、いきなりどうしたのです――――」

「緊急事態なんだ、隠れるぞ! いいから来て!」


銀髪の女の子の手を乱暴にグイッと引っ張る。

なんとも紳士さに欠けた女性の扱いだが、この際四の五の言ってられない。

僕だけではない、この女の子もあの男に狙われたらチェックメイトとなってしまうのだ。

そうなると自分が追い詰められるより厄介だ。


この部屋は主の書斎か何かだろうか。非常に荘厳で豪華絢爛(ごうかけんらん)な造りをしている。

お陰で高価そうな家具や置物が数多くあり、隠れる場所には困らなそうだ。

ベッドの下やクローゼットの中なんか、いいのではないのかと考えたのだが、それらの場所では良い体勢が取りづらく、もし見つかったら何も出来ずにアウトとなる。


それは頂けないので、ある程度武器を持って身構えられる場所で、二人同時に隠れられる場所となると。


大きな書斎用の机が目に入った。座席を引いて机の下の空間に入れば、部屋に入ってきても目に付くことはないし、いざ見つかったときでもしゃがんだ体勢のまま即座に銃で射撃できる。


「こっちにおいで」

「あ、あの――――ライティル様」

「ん、何? ちょっと静かにしてくれ」


半ば無理やり彼女の体を抱きかかえ、机の下に潜り込み銃を構える。

今はこうして息を潜めて待ち構えるのが最善のはずだ。

そしてこの子、名前覚えていてくれたのね。ラッキー、これ何フラグですか?


彼女は小声で僕に話しかけてくる。顔が大分青ざめていて、悲壮感に満ちている。

いきなり男にこんなことされたら無理もないか。


「あの、これ、大変です」

「大変って、何が? 悪いけど取り込み中なんだ、今僕は軍服を来た男に追われていて――」

「肩、ケガしてます……。それも、結構酷い傷……」

「あ」


すっっかり忘れていた。慌てて右肩を見ると、撃たれてすぐ確認したときより遙かに傷口が広がっている。服もすっかり赤黒くなり、大きな血溜まりによるシミが出来ていた。


「あ、痛い、痛い、イッテぇ!マジで!思い出したら一気に痛みが来た!」


大抵ケガというものは、傷を負ってすぐより、少し時間が経ってからの方が痛いものだ。

痛覚の反応の問題もあるのだが、傷口から菌が入ったり、室温が低いと冷気によって傷口が刺激され痛みが強くなる。


「じっとしていてください」

「無理無理! じっとするとか絶対無理だから!」


こんなに意識するハメになるくらいなら、何も言わないでおいてくれれば良かったのに。

それこそ無理な話か。


すると突然、彼女は僕の傷口にそっと手を当てた。

両目を閉じて祈るように意識を集中させている。




いや痛い、痛いから。何やってんの、手を離してくださいマジで。


「動かないで」

「え、いや、動かないでって、痛い、痛いんですけど――――」


そのとき、彼女の手から青白い光が放たれ、彼女の手ごと僕の右肩を光が包み込んだ。


「……は?」


なんだ、これ。

え? なにコレ?


暖かい。暖かい光。小さいころ家の庭で遊んでいて、すってんころりんとコケてしまって頭に大きなタンコブをつくったとき、お母さんが優しく撫でてくれた時のような――。

そう、母親の手のような暖かさ。とても落ち着く。心が、安らぎを感じる。

何だかとても不思議な気分だ。


光は段々と輝きを失い、次第にしぼむように小さくなり、消えていった。


「もうこれで大丈夫ですよ」

「え……?」


何がどう大丈夫なのか。驚きを隠せないまま、事態を飲み込めないまま、ゆっくりと自分の右肩を見る。



コロン、と音を立てて肩から小さな塊が床に落ちた。

潰れた、鉛のようなもの。――――銃弾だ。


右肩に出来た銃撃による傷は、跡形もなく消え去っていた。

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