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444(Triple Four)  作者: SHIN
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2-5 ~第一章・付き従う者 その5~

              4


アレクサンドロス公爵邸――通称“魔女屋敷”は、以前僕が行ったときから一ヶ月経った今でも、その重々しい雰囲気を変えることはなかった。


燃え尽きて焦げクズとなってしまったカーペット。床に落ちたままの釣り天井。

天井に設置されたセンサー式火炎放射器のみまだ動いていたが、反応も遅く放射口の部分も黒々と汚れていたままだ。

この火炎放射器も、もしかしたら僕が気付かないままゆっくり歩いていたから作動しただけで、前回の時点で既にボロボロの状態だったのではないだろうか。


中は僕が結構暴れまわってしまったので未だにゴチャゴチャしている所は多々あるものの、外観自体は殆ど変化というものは見られなかった。




“未だにゴチャゴチャしている所は多々あるものの”



そう。僕が銀髪の女の子のいる中庭へと向かうのに使った通路。

それは先月僕がこの屋敷内に入って進んだときと全く同じルートだ。

この道を選んだのは、既に大半の罠が作動した後なので特別危険といえるものはないのが大きな理由なのだが。


これだけの大きな屋敷。

主は「公爵位」を持つ人間で、地位も富も人材も有り余る程持っているはずの人物であるはずなのに。


僕が退学を宣告されてからの一ヶ月もの間、屋敷はこの状態のままで放置されていたのだ。



これは、先月来たときも同じことを考えていたのだけれど。

どうしてこの屋敷には、銀髪の女の子以外の人間が誰一人見当たらないのだろうか。

どうしてこの屋敷には、侵入してきた人間を撃退するためであろう罠が、こうも平然と廊下や室内に散りばめられ、手入れされることなく放置されたままなのか。





僕なりに色々と考えてみた。


一番最初に考え付いたのが、実はあの銀髪の女の子がこの屋敷の主なのではないかということ。

根拠や理由があるというより、単純に銀髪の女の子以外の人間を見ていないから、というだけだ。

もしかしたらまだ僕が訪れたことのない部屋や通路に、人がいるかも分からない。


というかこれだけ罠が設置してあるのだから、仮に大勢の人が屋敷内にいたとしても、僕が通った部屋や通路を日常的に使うはずがない。


でも、それだとこの場所だけを侵入者撃退のために利用し、他の場所を居住空間として利用する意味がさっぱり分からないのだ。

そんなことするぐらいなら、屋敷の全箇所に罠が設置されていないと効果がない上に、僕が本当の意味で侵入するのであれば間違いなく居住空間を狙って侵入する。


当たり前の話だ。罠が縦横無尽に設置されてるエリアから入る奴なんて、よほどのバカか命知らずかのどちらかだ。


ちなみに僕は侵入といっても、屋敷の構造も知らなかったし、そもそも正面玄関から堂々と入ったのでこれに当てはまらない……はず。

別の意味でバカで命知らずかもしれないが。



次に考えたのが、ここは「本邸ではない」という可能性。

あくまでここは別荘であり、人を多く配置する必要性がなかったとか。


自分で考えておいて何だが、それはまず有り得ない。

公爵位を持つ人間が、自分の別荘と呼べる程の屋敷に常に人を置いて管理をせず、掃除や片付け、生活必需品やその他備品の補充をせずに放置なんてするだろうか?


絶対にない。


そもそも思い出してみれば、あれだけ正門は厳重で堅牢そうなものだったのに、警備兵もいなければ、問題外なことに門に施錠すらされてなかった。

獰猛な番犬こそ数匹いたが、それでも警備兵を一人も配置しないなんてことはまずない。

それ以外にも理由は探せば多々あるが、先程も述べたようにここは別荘ではないのだろう。








じゃあ、なんだ?





最初から銀髪の女の子以外誰も住んでないとか?

こんな大きな屋敷に?


以前までは大勢人がいたが、今は何らかの理由でいなくなった?

どんな理由で?


戦争のときに砦や要塞のように利用できるように設計して建てた?

だとしたら何故“魔女屋敷”以前に、アレクサンドロス公爵邸などと呼ばれているんだ?



そもそも、誰だ? アレクサンドロス公爵って。


訓練校で学んだ史学の教科書にも、新聞にも物語の本にもそのような名前はなかった。

人によっては、昔住民から多額の税金を徴収して私腹を肥やす街の支配者だったが、政変により階級を失い、屋敷を手放して没落貴族となったのではという説もある。

それもあくまで予想の域を出るものではなく、訓練校や、訓練校のある城下町ではアレクサンドロス公爵自身をその目で見たという者は一人もいなかった。



考えていたら、段々と怖くなってきた。


銀髪の女の子がいるかもしれない中庭へ歩くついでにと、屋敷の内部をよく見ながら考えていたのだが、中庭に通じる道(前回は窓を割ってたどり着いたので、今回はちゃんと通路を探した)を見つけたところで。


あるモノに、目が留まり。




ふと、足が止まった。






壁に額が飾ってあった。

金と銀で作られた気品と高級感溢れる額縁。

街の美術館にある高名な画家の作品にさえ使わないであろう代物。

所々に童話の挿絵などで見たことがある竜や天馬を(かたど)った装飾が施されている。



額縁の下の題名(タイトル)にはこう書いてあった。


『寄贈 主君・ジグラール=フォン=アレクサンドロス公爵様 肖像画』






アレクサンドロス公爵。

つい先程までその人のことを考えていただけに、心臓が鷲づかみされたような気分だった。

その名を見た瞬間、慌てるように描かれた絵へと目線を向けた。









美しい額縁に飾られた絵の中には。

額縁の美しさに勝るとも劣らない美しく力強いタッチで描かれた、床に置かれたひとつの椅子。



それ以外。


何も、描かれてはいなかった。

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