2-4 ~第一章・付き従う者 その4~
今まではこの言葉を耳にしてからというものの、どうせ自分には関係の無い事だと決め付けて深く意識はしてこなかったのだけれど。
よく思い返してみると、あまりにも現実離れしすぎていることばかり聞いた気がする。
特別な魔術の儀式を済ませることで成り立つ主従関係。
『誓約者』は代価と引き換えに己の望みのために、『従者』を使役する。
『従者』は代価を得る代わりに『誓約者』の手足となり使役される。
この主従関係というのが、どうも引っかかる。
主のために従者が従い、従者はただただ主が望みを叶えるための駒として動く。
従者は主への忠誠心で付き従うか、強制や支配により付き従わざるを得ないか。
それならば納得がいく。
でもこれはどちらかといえば。
お互いが己の望みを叶えるために、お互いを利用しあう関係とも取れる。
主は代価――それが何なのかは知らないが――を従者に対し支払わなければならない。
従者は主の望みのために行動しなければならない。
細かいことはよく分からないけれど、少なくとも、この前銀髪の女の子から聞いた情報だけで判断するとするならば、恐らく間違いではないのだと思う。
しかし、他にも疑問は出てくる。
主の望みというのが、もしも従者を「支配すること・隷属させること」そのものであった場合。
例えば、下劣な男が主となって、カワイイ女の子とかを自分の思うがままにしたい、というのが望みであるとしたら。
代価をなんらかの形で支払ったところで、従者となった女の子の方が満足し何も言わず付き従い続けるというのも想像しにくい。
そうなる事が予想できるのであれば、そもそも「特別な魔術の儀式」とやらをしないはずだ。
つまり、主と従者――『誓約者』と『従者』は、お互いが契約を交わす前にそれぞれの望みや代価というものを相手に伝え、それぞれが了承した上で契約を結ぶと考えるのが妥当だ。
そりゃそうか。さっき例にあげたような酷い望みを従者は主から強制されたくもないだろうし、主は従者から法外な代価を要求されても割りに合わない。
お互いがお互いの望みを知り、理解した上で成り立つ主従関係。
そう考えるならば、お互いを己の望みのために利用しあう関係といえど、ちゃんとした協力関係ということだ。
なんだか滅多に使わない脳を駆使して色々難しいことを考えてみたが、いざ結論が出たら、なんというかごく普通の契約だなぁ、という我ながら情けない感想しか出てこなかった。
お互いの望みのために利用しあう、か。
“魔女屋敷”で出会った銀髪の女の子は、「私を『従者』にしてくれないか」と言っていた。
あのときは言われた言葉の意味がサッパリ分からなかった――今でも分からないが――けれど、自分の住んでいる家に侵入してきたあげく、突然現れた男にそんなことを言ったいうことは。
どうしても代価というものを得たかったのだろうか。
あの女の子の望む代価とは、一体何なのだろうか。
恋人になってください、だったりして。
別に。言ってみたかっただけさ。
そんな「こいつ何言っちゃってんの……?」みたいな哀れむような目で見ないでよ。
なんだか、その。
そんなことしたら俺がさ。
すっごい惨めで、かわいそうな子だと思われるだろ。
友達いなくて、女の子とも話せない、しかもモテない男だと思われるだろ。
事実だけど。
そしてさ。
言ってて悲しくなるじゃないか。
事実だけど。
さて、話を戻そうか。
先程も言ったように、僕はここ最近、少しずつではあるものの『誓約者』というものに興味を持ってきた。
別に何か大きな夢や叶えたい野望があるわけではない。
ただ単純に、僕が“魔女屋敷”に入ってトラップの数々に襲われ危ない目にあった仕返しをしてやりたい。
僕を騙した連中を、なんとか一泡吹かせてやりたいのだ。
細かいことを言うのであれば、今まで訓練校で味わってきた嫌がらせ等の積もり積もった恨みの分も付け加えたいところだが、そこは僕の優しさに免じて許してやろうと思う。
そんなことまで持ち出して、ねちねちと相手を責めるような器の小さい人間と同じにしてもらっては困るのだ。
だったら“魔女屋敷”に行かないかと騙されただけで、仕返しをしたいとか言うなっていうのは禁句だ。
それは、僕が惨めになるだけだから決して言ってはならないぞ。
でもあいつらは、“魔女屋敷”や“泣き虫魔女”のことをとても怖がり、恐れていた。不気味がってもいた。
それならば単純にただやり返すよりも。
その“魔女屋敷”に行ったことにより僕が『呪いの力』を得て、“泣き虫魔女”を操りイタズラをした……なんていうような仕返しの方が断然面白い。
訓練校の連中は、僕が“魔女屋敷”に行ってから僕が『呪われた』と思っている。
もちろん間違っても呪われてなんかいないけど、あえてその噂を利用してやるのもいい。
よし、決めた! これでいこう!
あいつら……今に見てろよ。
僕を騙したことを思いっきり後悔させてやる。
そうと決まれば話は早い。
早速“魔女屋敷”に行って、あの銀髪の女の子に『誓約者』と『従者』というものについて詳しく聞かせてもらおう。