婚約者の浮気相手の婚約者の浮気相手の婚約者の話
「真実に愛しているのは、君だよ。アリアンヌ」
「本当? ルーティ」
婚約者と浮気相手のそんなやりとりをぼーっと見つめるわたくしは、ルーティと呼ばれたルーティアヌ・テルテッド男爵令息の婚約者であるルリアン・ナルティニウス男爵令嬢ですわ。
わたくしは社会勉強のために、我が家が経営している街のカフェで、オーナーをしておりますの。
普段のドレス姿からパンツとエプロンに着替え、明るい青い髪を真っ黒なウィッグで隠し、後ろに一つで束ねておりますわ。たまに、男性と間違えられますし、わたくしが女性と分かってもファンだと言って通い続けてくださるお客様もいらっしゃいますの。
そんなことはさておき、わたくし実は、わたくしのカフェで同様の光景を見るのはこれで4回目ですわ。
前回は、アリアンヌと呼ばれたわたくしの婚約者の浮気相手の女性が、婚約者の男性に。
その前は、その男性が浮気相手の女性に。
さらに巡ってその女性が婚約者である男性ーーー我が国で婚約者にしたい男ランキング1位で眉目秀麗、真面目で誠実、騎士団No.1の実力、学園では常に首席、などなど、噂を聞けば聞くほど人間離れしていらっしゃるーーーリチャード・ダリアンディア辺境伯令息に。ちなみに、リチャード様は我がカフェの常連様ですわ。
かのリチャード様の婚約者なんて大変そうですから、浮気したくなるのでしょうかと現実逃避しながら、わたくしは、浮気相手と婚約者の行動を記録装置に記録し続けます。
「失礼、マスター」
「あら、失礼いたしました。……!?」
何も言わずに座っていた手前のお客様は、なんと先ほどまで思いを馳せていたリチャード様でした。お客様の個人情報を申し上げるわけにもいかず、お名前でお呼びする不敬もできず、言葉を失ったわたくしは、思わず記録装置を動かす手を止めかけてしまいましたわ。
「お手を止めずに、」
そう言って、わたくしの手の上に手を重ねられます。わたくしが浮気者になってしまうわ、と焦りながらも、記録装置を慌てて動かし続けます。
すると、人目も憚らず口付けを交わした二人は店を出て行きました。
いい証拠が大量に入手できましたわ。
「お忙しいところ、失礼。私は、リチャード・ダリアンディアという。ルリアン・ナルティニウス男爵令嬢とお見受けする。かの婚約者とは、あちらの有責での婚約破棄をされる予定だろうか?」
「ご挨拶できる栄光に感謝いたしますわ。リチャード・ダリアンディア辺境伯令息様。おっしゃる通り、わたくしはルリアン・ナルティニウスと申しますわ。できることならば、あちらの有責での婚約破棄を、と思っております。ただ、お恥ずかしいことに先ほど婚約者の浮気に気づいたところですの。ですから、浮気の証拠が弱くて……これから集めて行きますわ」
「では、こちらの証拠を提供させてもらえないだろうか?」
そう言って、リチャード様が差し出した証拠は、とても淑女には口にできないような光景がたくさん映った記録装置でした。
「う、あ、ありがとうございます。こちらは、どこで?」
「……私の元婚約者の伝手を伝って、ね? 賢いルリアン嬢ならわかっているだろう?」
「……!?」
貴族令嬢の名を呼ぶのは、婚約者とその家族のみ。マナー違反なんてなさらないリチャード様がわたくしの名をお呼びになられました。
「ダリアンディア辺境伯令息様。わたくしの名をお呼びになるのは、おやめください。あらぬ誤解を生みますわ」
「大丈夫。誤解ではなく、事実にしようと思っている。ルリアン嬢。君が婚約者と婚約を破棄できたのなら、私と婚約してくれないだろうか?」
「よりどりみどりのダリアンディア辺境伯令息様が、わたくしを……?」
「君のカフェで過ごす時間が心地よくて、いつの間にか君を目で追うようになっていた。君のその笑顔に惹かれていたんだ。君に惹かれていると気づいた時には、君が夜会で見かけるルリアン嬢だと確信していたよ」
「……ありがとうございます。わたくし、婚約破棄しても傷物にならずに済むんですわね」
わたくしがイタズラっぽく微笑めば、リチャード様が答えます。
「あぁ。だから、安心して婚約破棄しておいで。私は、ダリアンディア男爵に君への婚約を願い出る手紙を送っておこう」
「嬉しいですわ……リチャード様」
わたくしたちは微笑みあって、各々の未来のために動き始めました。
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作者も混乱するタイトルでしたが、お楽しみいただけたら幸いです。