パン職人
「おはよう」
ジェフが挨拶を返したのは、同じ厨房で働く、黒い肌のマッチョメン、そして見事なスキンヘッド。
パン職人であるオリバーだ。
シェフがパンを作ればいいのだから、パン職人はいなくてもいい。そう考える人がいるだろう。
だがここが中世だと考えれば、おかしな話では無い。
当時、パン·ワイン·油などは修道院が生産権を握っていたという。もちろん修道院が生産するパンだけでは、需要が満たない。そこで、王侯貴族にも権利を渡した。そうすることによって需要を満たした。
パンの研修所を出て、任命されたものだけがパン職人となる。ゆえに、パン職人は聖職と言われることもあったそうだ。
「今日のディナーは?」
朝なのにディナー?と思うかもしれないが、これも間違いでは無い。その日1番豪華な食事をディナー、その後の食事をサパーという。
「豚肉に少量のスパイスを使いメインに、豆と野菜のスープをつくる。オリバーはいつも通りのパンと、デザート代わりのブリオッシュを頼む」
(お、今日はパン菓子なのか)
暖かい季節であればデザートには果物が出されることが多い。だが、今の寒い時期には蜂蜜漬けのナッツ等の保存の効くものが多くなるため。
飽きのないようにオリバーにパン菓子を頼むことがあるのだ。
「了解。いつも思うんですが、野菜なんて使っていいんすか?スパイスも少ないですし」
「なぜそう思う」
「王宮や他の十二貴族の間では肉を多く食べ、スパイスをふんだんに使うことが普通なんですよ?野菜なんて俺達庶民の食いもんです」
この世界でも貴族と庶民の格差は大きいようで、食事に対する考えは偏ったものが多い。聞いたものだけでも、野菜は体に悪く果物は良い。魚の肉よりも肉の方が良い。スパイスはとればとるほど身体にいい、などなど現代日本に生きた人間であれば笑ってしまうようなものだ。
([ミノタウロス肉よりオーク肉]は、冗談なのか本当なのか)
今の所見たことの無い生物は、馬車を引いている謎の生物のみ。見た目は大きな鹿だが角が多い。アレがモンスターであるとは限らないし。いるとしたら自衛について考えなければならない。
「…カーマインには許可を取っている」
ジェフは少し鬱陶しそうに返す。このやり取りはひと月の間に何回も見たので、お約束みたいなものなのだろう。
「そう言いますけどね〜。辺境伯が病気になっても知らないっすからね」
オリバーの言葉からわかる通り、ジェフの勤めているここは辺境伯家。この国に幾つの爵位があるか分からないが、凄いことなのではないかと考えている。
(爵位の中では高位なことが多いけど、どうなんだろう)
大公や王子をのぞけば、2番目に高い地位に該当することが多いはずだ。
「責任はとる。火を入れるからモーブを休憩室に頼めるか」
火をつける作業は、本来皿洗いや野菜担当の下積みの者達がやるのだが、ジェフはいつも自ら行う。
「了解っす。火石は釜戸右側の棚にあります」
厨房には入れてもらえないため、火石が火打石なのか、別の物なのかを確認できていない。危険物を使う場所からは遠ざけられてしまっているようだ。家では聞こえてくる音的に火打石を使っている。薬師のおばあちゃんとの会話では、火打石は火打石と言っている為、火石とは別と考えている。
「分かった」
「じゃあ、送ってきます」
ジェフからオリバーに渡される。最初の頃は恐る恐るだったオリバーも、抱っこには慣れたようだ。俺のお世話をしてくれる人は日によって違い、料理人以外のハウスメイドなどもきてくれる。聞いた話では辺境伯の子供が出来た時のためだそうだ。
「パーパ、だ!」
ジェフに声をかけると、ニヤッと笑ったあとに頭を撫でられた。オリバーに運ばれ厨房を後にした。
「賢い子っすねぇ」
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