(08)
次の日のお昼ごろ王都にある王城の謁見の間ではパルタス国王が騎士達の報告を聞いて頭を抱えていた。
パルタス国王はドルチェス王子の父であり、この日は王宮で政務を行っていたのだが頭を抱えるような報告が相次いで困惑していたのだった。
パルタス国王が側近に尋ねた。
「一体どうなっておるのだ??」
側近も首をかしげて国王に言った。
「分かりません、私にも何が何やら。」
パルタス国王が頭を抱えながら側近に言った。
「よくわからぬが、もう一回報告を聞いてみるか。」
パルタス国王が報告にきた衛兵達に言った。
「すまぬが、もう一度一人づつ報告を聞かせてくれるか。」
大広間の中で待機していた衛兵達が順番にパルタス国王に報告を始めた。
「申し上げます。ディルス伯爵様が宿屋みかづき亭に押し入り売上金を強奪したもよう。」
「申し上げます。モントーレ公爵様が全裸で王都を歩き回っているもよう。」
「申し上げます。ミルステ伯爵夫人エリザベス様が9人と浮気していたと高らかに宣言されたもよう。」
「申し上げます。ジャヌス大聖女様が代金を払わず昼ご飯の食い逃げを行ったもよう。」」
「申し上げます。モルステ大司教様が拾った財布をネコババされたもよう。」
「申し上げます。バーサク男爵夫人とティルモール子爵様が中央広場で密会をしていたもよう。」
「申し上げます。トルニティ伯爵令嬢モニカ様が通行人に唾を吐きかけている模様。」
「申し上げます。コルスタン子爵令嬢アミラ様が通行人からひったくりを行っているもよう。」
「申し上げます。デグリス公爵令嬢リオラ様が騎士達からカツアゲを行っていたもよう。」
パルタス国王が頭を抱えながら言った。
「一体何が起こっておるのだ??」
実は最初に衛兵が報告したみかづき亭ではこんな事が起こっていた。
ミカヅキ亭の店主が店番をしていると黒髪の男とフードを被った女が乱暴にドアを開けて宿屋に現れたのだった。
フードを被った女は店主に言った。
「お邪魔するわよ!!」
ミカズキ亭の店主がお客と思い対応するのだった。
「いらっしゃいませ。ご宿泊ですか??」
ミカヅキ亭に現れた黒髪の男はチャールズで、フードを被った女はセシルだった。
この時セシルはフードを深く被って顔を隠していたのだった。
するとセシルが店主に言った。
「私たちはディルス伯爵の一行よ。」
店主がチャールズに尋ねた。
「ディルス伯爵??まさかマリエヌス一帯を治められているディルス伯爵様ですか?」
チャールズが店主に言った。
「その通りだ。俺様はディルス伯爵その人だ。」
店主がチャールズに尋ねた。
「それでディルス様!!宿泊は何名の予定になりますでしょうか?」
チャールズが店主に言った。
「バカな事を言うんじゃねえ!!こんな汚ねえ宿屋に宿泊するわけないだろうが!!」
店主がチャールズに言った。
「はい宿泊しないんですね??えっ??では何のためにここにいらっしゃったのですか?」
チャールズが店主に言った。
するとフードを被ったセシルが火炎魔法のファイヤーアローを唱えた。
「炎が集いて形を成せ!!ファイヤーアロー!!!」
店主の真横の棚にファイヤーアローが直撃して、棚が激しく燃えだしたのだった。
店主がこれを見て仰天していた。
「ヒィィィ!!」
チャールズが大声で言った。
「金を強奪しに来たんだよ!!さあ店の売上金を出せ!!!俺様はディルス伯爵様だぞ!!」
そしてチャールズとセシルはまんまとみかづき亭の店主から売上金を強奪したのだった。
セシルはフードを外して逃げる途中で投げ捨てていた。
するとチャールズがセシルに尋ねた。
「うまく金を強奪できたな??セシル??次はどうする??」
セシルがチャールズに言った。
「昨日話した通りここから二手に分かれて王都を荒らして回りましょう。全てが終わったら王城の近くのチャールズ様のお屋敷で落ち合いましょう。」
チャールズがセシルに言った。
「分かった。」
そしてセシルが王都の中央広場にやって来たのだった。
中央広場の噴水前でセシルが大声で話し始めた。
「聞きなさい!!私はミルステ伯爵夫人であるエリザベスよ!!今日は下民共に大事な事をお知らせするわ!!!」
するとセシルの呼びかけにみな足を止めて集まってきた。
「なんだ??なんだ??」
「エリザベス様?」
「大事なお知らせってなんだ??」
セシルが大声で集まった人々に対して大声で言った。
「私はミルステ伯爵夫人であるエリザベスよ!!!今日は重大な事を打ち明けるわ!!!私は夫であるミルステ伯爵以外の男とも関係を持っているわ!!このエリザベスは十股をかけているわ!!!ミルステ伯爵以外に九人と浮気をしているの!!そしてその一人はパルタス国王よ!!!」
それを聞いた集まった人々からどよめきが起こるのだった。
「なっ??国王様が伯爵夫人のエリザベス様と浮気してただと??」
「うそー、顔はこわもてだけど根はいい人だと思ってたのに。」
「うあー最悪、国王様がそんな人だったなんてね。」
どよめく聴衆にセシルが大声で宣言した。
「私、ミルステ伯爵夫人エリザベスはここに宣言するわ!!!私は実はパルステ国王を含む9人と浮気をしてました!!!」
セシルはこう高らかに大嘘の宣言をすると次の場所に向かうのだった。
セシルが次に向かったのはベリルという王都でも人気の喫茶店だった。
セシルはベリルの店内のテーブル席に座ると大量のスイーツを注文するのだった。
しばらくしてセシルが座ったテーブル席には美味しそうなスイーツが並ぶのだった。
セシルはスイーツには一切手をつけずに店主を呼びつけるのだった。
「ちょっとすぐにオーナーを呼んできなさい!!!」
すると喫茶ベリルを営んでいる女店主がセシルの元に慌ててやってきた。
「お客様??味がお気に召さなかったのですか?」
セシルが女店主に言った。
「お気に召さなかったとかそんなレベルじゃないわよ!!ゲロまずよ!!ゲロまず!!!よくこんなゲロまずスイーツを私に出してくれたわね。私を誰か知ってるの??」
女店主は申し訳なさそうに言った。
「お客様!!本当に申し訳ございません!!今後もっとおいしいスイーツを作れるようにしていきます。」
セシルが女店主に言った。
「そんな事よりも私が誰か知ってるの?」
女店主が申し訳なさそうに言った。
「申し訳ありませんが存じ上げません。ご教示頂けますでしょうか??」
セシルが女店主に言った。
「大聖女ジャヌスに決まってるでしょう?」
女店主がセシルに聞き返した。
「大聖女ジャヌス??まさかミリア教の大聖女のジャヌス様ですか?」
セシルが女店主に言った。
「そうよ、その大聖女のジャヌスよ。まったくその私によくこんなゲロまずスイーツを出そうと思ったわね。」
女店主がセシルに言った。
「申し訳ございません。」
セシルが女店主に言った。
「まあいいわ。もう帰るから。」
女店主がセシルに言った。
「はい、えーっと??料金は合計で30000ケルンになります。」
するとセシルが女店主に言った。
「会計の必要はないわ。」
女店主が首をかしげて尋ねた。
「ジャヌス様??必要ないとはどういう事でしょうか??」
「食い逃げをするって事!!じゃあねえ。」
セシルは大声でそう言うと店を出て一目散に逃げて行った。
女店主はハッと我に返ると大声で叫んだのだった。
「食い逃げよ!!!大聖女ジャヌス様に食い逃げをされたわ!!!」
セシルは大嘘をついて食い逃げを行ったのだった。
「さてとこれで大聖女ジャヌスが食い逃げをした事になったわね。次はどうしようかしらね?」
そういうとセシルは周囲を見渡したのだった。
「いい所に王都の騎士隊がいるじゃないの??次はあいつらね。」
セシルは王都の騎士隊を見つけると、その騎士達に自分から近づいていき騎士の一人に声をかけたのだった。
「ちょっとちょっと。」
騎士の一人がセシルに気づいて返事をした。
「どうかされましたか?お嬢さん。」
セシルがその騎士に言った。
「私デグリス公爵家令嬢のモニカなんですけど。」
その騎士がセシルに言った。
「はい、テグリス公爵家のモニカ様ですか、お名前はよく存じております。」
セシルがその騎士に言った。
「実はちょっと用事があるんですよ。」
その騎士がセシルに尋ねた。
「用事??どのような用事ですか?」
セシルがその騎士に言った。
「下民!!あんたのお金をかっぱらいたいの。」
するとセシルが詠唱を始めた。
「かの者の時の流れをせき止めたまえ!!ストップ!!」
セシルは時間魔法のストップを発動してその騎士の時間を止めたのだった。
セシルがその止めた騎士の懐を探ってお金の入った袋を見つけるとそれを強引に引っ張り出して袋の中を確認したのだった。
「しけてるわねえ!!王都の騎士なのにこれっぽちなんてね。」
周囲の騎士達がそれに気がついてセシルを問いただしたのだった。
「モニカ殿??これは一体どういうおつもりか??」
するとセシルが周りの騎士達に言った。
「どうもこうもないでしょうが!!あんた達からお金を巻き上げようとしてるの!!」
騎士達がざわつくのだった。
すると隊長らしき男がセシルに尋ねた。
「モニカ殿??ご自身が何をされようとしてるのか理解されているのか??」
セシルが隊長らしき男に言った。
「もちろん分かってるわよ!!あんたたちも有り金を全部出しなさい!!」
隊長らしき男が騎士達に言った。
「お金を出してはならない!!!」
隊長らしき男がセシルに言った。
「モニカ殿!!これは明らかに犯罪ですぞ!!騎士として見逃すわけにはいきませんぞ!!」
セシルが隊長に言い返した。
「あんたすごく勘違いしてるわね。見逃すもなにもないでしょうが!!下民が持っている物は全て私達貴族の物なんだから下民からお金を巻き上げて何が悪いの??いい!!薄汚い下民であるあんた達には許されなくても貴族である私は許されるのよ!!分かったらあんた達もはやく有り金を全部出しなさい!!!」
隊長らしき男が他の騎士達に言った。
「ええい!!騎士がカツアゲをされたなどとなれば大恥だぞ!!!構わん、取り押さえろ!!!」
「はっ!!」
隊長らしき男と部下達がセシルを捕縛しようと近づいてきた。
セシルがため息をしながら言った。
「もう、めんどくさいわね!!」
セシルは詠唱を始めた。
「空を埋め尽くすあまねく輝きによってこの地の者をすべて焼き尽くせ。スターレイン!!」
すると灼熱に輝く炎の玉がまるで雨のように騎士たちの頭上に降り注ぐのだった。
これをもろに食らった隊長らしき男と騎士たちが次々に地面に倒れていって地面をのたうちまわって悶え苦しんでいた。
セシルが大声で叫んだ。
「さあ!!こいつらみたいになりたくなかったら、有り金を全部出しなさい!!」
後方に控えていた騎士達が渋々ながら有り金を出していった。
セシルは嬉しそうにお金を数えながら言った。
「全員分を集めればまあましな金額になったわね!!」
するとカツアゲを受けた騎士の一人がセシルに言った。
「モニカ殿、このことは王宮とデグリス公爵家にちゃんと報告させてもらいますよ。」
セシルがその騎士に言った。
「ええどうぞご自由に!!」
こうしてチャールズとセシルは王都の中で他の貴族の名前を使ってどんどんと悪事を働いていたのだった。
そして一通りやり終えると王宮近くにあるチャールズの屋敷に戻ってくるのだった。
チャールズはアルドラス公爵家の屋敷とは別に王都に自分専用の別邸を持っていたのだった。
チャールズとセシルは別邸の中にあるチャールズの部屋の中で笑い転げていた。
チャールズが大声で笑いながら言った。
「ぎゃははは!!いやー、おもしれーな。ディルス伯爵やモントーレ公爵だと名乗っただけで下民どもや騎士まで信じやがった。」
セシルがチャールズに言った。
「下民共なんて私たちの顔なんて分かりませんよ。なんせ王城に入ることもできないカスの中のカスですから!!!貴族の顔が分かるのは舞踏会や式典に出席できる選ばれた人間である私たちだけなんです。王都の下民共が顔を知っているのなんてせいぜい王家の人間ぐらいでしょう。」
セシルがチャールズに言った。
「でもこれは想像以上におもしろかったですねー!!悪事を働いて別人の名前で名乗りをあげる。全部エセ貴族共のせいにできますし、エセ貴族共がパニックっててまじ面白いでしょ?」
「ああどこの貴族の屋敷もてんやわんやだったな。超おもしろかったぜ!!」
「ですね!!なにせ下民を大事にしろなんてぬかしてるエセ貴族共ですからね。エセ貴族共にもちゃんと罰を与えておかないとダメです。」
「そうだな。」
「それにしてもまじ受ける!!!下民にしても騎士共にしてもどんだけアホなのってね!!」
「セシルお前と婚約できてうれしいぜ。貴族の誇りを取り戻す事ができたし、お前となら真の貴族を貫いていける気がする。」
「はい、私もチャールズ様にそう言って頂けてうれしいです。リチャード様以外の貴族は下民を大事にしろとかぬかしてるエセ貴族共です。ちゃんと罰しておかなければ貴族としての誇りが失われてしまいます。」
すると部屋の中に使用人の一人が入ってきた。
「チャールズ様、失礼致します。」
チャールズが大声で怒鳴りつけます。
「おい!!勝手に俺様の部屋の中に入ってくるんじゃねえ!!」
入ってきた使用人がチャールズに言った。
「申し訳ございません。ですが至急の用事ですので。」
「どうした?」
「アルドラス公爵様が王都にお戻りになられました。」
「親父が戻ってきたか。」
するとセシルがその使用人に尋ねた。
「お母様は??」
その使用人がセシルに答えた。
「はっ、ミーレウス魔導士長様も魔導学会から王宮にお戻りになられたようです。」
チャールズがセシルに言った。
「親父が戻ってきたとなるとしばらくはおとなしくしているしかないな。」
セシルがチャールズに言った。
「そうですね。私もお母様が戻ってきたとなるとしばらくいい子にしてないとダメですね。」
するとセシルがチャールズに言った。
「そうだ!!アルドラス公爵様にゴブリンイカ女と追い出した事を報告しに行ったらどうですか?」
「ああそれはいいな。なんせ公爵家の大掃除をしたんだ。親父も大喜びしてくれるだろうしな。」
「そうですよ、あのゴブリンイカ女がいなくなって毎日ハッピーになったじゃないですか?」
「そうだな、毎日貴族として誇りある人生を過ごしているからな!!これもあのゴブリンイカ女がいなくなっておかげってわけだ!!」
「その通りです。ゴブリンイカ女がいなくなって快適そのものです。アルドラス公爵様もきっと私達を祝福してくださいますよ。」
「そうと決まったらすぐに親父にあのゴブリンイカ女と別れてセシルとの婚約した事を知らせないとな。」
「ええすぐに行きましょう。」